第42話 そうなるわな
「実際見てみるとスゲー情景だ」
さっそく四人でソラシスにやってきて最初に口についたのはそんな月並みな感動の言葉だった。
シニアは現代とファンタジーの程よく入り混じった調和した景色だ。
ここソラリスが話題になった理由は悪役令嬢ゲームらしからぬ凝ったファンタジー感である。
遠く見える大樹を基調として見たことないデザインの建物がずっしりと建ち並ぶ街並みはオレみたいなファンタジー好きのツボとも言えるだろう。
「ええ、本当綺麗だわ。二人きりで来てみたいほど気に入ったわ」
「綺麗って言葉には同意だけど………僕は無理かな」
「料理すらままならないメス豚に同意する日が来るとは思いませんでした………………不服ですっ」
「メス豚じゃないからね? そんなに僕の料理が食べたかったのかな。リオのために腕によりをかけて作るついでに一品あげる」
「昇天エンドじゃん………」
相手を殺す気でじゃれ合おうとするエナドリとアレーナを諫めながら目の前に広がるソラシスへ向かう。
「まあこうなるか」
視線の先で全景をなぞるように軽く見渡しているだけじゃどこか足りないって思い足を向けてみたもんだけど案の定の結果だ。
「誰もいない街ってちょっと………ううん、はっきり言ってすごく不気味だね………」
「ご主人様、私から離れないようにしていただけますか」
やたら警戒が強まるのも無理ではない。
ソラシスは人の子一人もいないシニアを上回るゴーストタウンっぷりだ。
ダミーデータのステージは行けるのか。
行けるとしたらどういう情景になっているのか?
その二つの疑問は予想の範疇内で完結してしまう。
「ふらっと歩き回るデートにはうってつけね。けどリオが求める“イベント”には残念だけど使われなさそうだわ」
「そうだな。使われたらいよいよジャンルが変わっちまう」
いっそのことここにオレ達四人のためだけの国を立てるとかならいざ知らず、イベントに使われそうな気配は全くない。
捨てられた舞台が急に動き出したら悪役令嬢どころかホラーゲーだ。
「ここはピクニックとかデートに使うか、おかしな裏設定に遭遇した時の逃げ場に使ったらよさそうじゃないかな」
「おっ、そりゃあ名案だ。ナイス、アレーナ!!」
「ね、ねえ、わたしもちゃんとデートって言ったのよ? リオのしたいことさせてあげたくていっぱい考えたからわたしも褒めなさ………ううん、褒めて………?」
「はいはいフェリナもありがとう」
アレーナの妙案につられるように頭を撫で始めたら隣のフェリナが何故かヘラり出す。
こいつなりに頭を捻ったのも事実なので反対の手で頭を撫で続けた。
「確認もできたことだし………帰っていいか?」
「えへへっ………ごほん。ええ、問題ないんじゃなくて?」
今更威厳保とうとしても無理があるだろそれ。
なんて、声に甘さがどっぷり漬け込んだフェリナへのツッコミをグッと飲み干す。
下手したら今夜もどえらい目に遭いかねない。
このソラリスはアレーナの提案通り、弁当かシニアが動くと食べ歩きが聞くやつを買ってきてピクニックに活用してもらうか裏設定だのバグだのに遭遇した際の逃避先に使うのが順当な判断だろう。
アレーナとエナドリも特に要望はないと思考の盗聴越しで言ってきたわけだ。
ここでもワンチャンヤリ〇ンできないか思ったけどなぁ~。
「………今、とてつもない浮気の波動を感じられたのだけれど」
「リオはまーだわからないのかなあ? 自分が誰のモノなのかを」
「メイドじゃなければ私は構いません——————けど、ご主人様の唯一の居場所は私であることに変わりはないかと」
「ひぇ………」
誰のモノでもないんじゃ——————なんて今更白を切るつもりはない。
切れない方が正しいか。
それよりナチュラルに思考が読まれてなかったか?
「く、口に出してなければ何とやらで………」
「浮気の始まりは心からって学んでなかったかしら?」
「今夜は授業だよ。内容は『愛の素晴らしさ』かな♪」
「っ………」
逃げ道を塞ぐように両サイドを占めたフェリナとアレーナがオレの両耳へ息を吹きかけてくる。
「ご主人様、私も今夜、頑張らせていただきますので」
こいつらこういう時だけ息ピッタリすぎるんじゃね?
なんて数秒前の自分の浅はかな思考を呪いながら三人に連行される形でシニアへと戻るのだった。
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