第14話 次は学園、メインステージっぽいとこへ突撃だ!!

「ギュー!」

「………っとふらっ!?」


窓から降り注ぐ陽光に抵抗し続ける身体づくりに人間なっていない。

自然と起こる瞼に飛び込んできた光景にびっくりして飛び起きてしまう。


「ギュ?」

「びっくりしただけだから、なんかごめん」


ビックリしすぎて文字通り飛び起きて数歩後ずさるオレに首を傾げるハチ公の姿。

でっかい蜂が可愛げに首傾げてるとかシュールすぎるじゃん………。

気配が感じられてびっくりしたのもわずかながら影響しているんだろう。

昨日の今日だ。

フェリナに侵入されたって被害妄想が出ちゃったらしい。

それくらい昨日の帰宅後からのショックが大きかったんだろう。


「ってかお前、昨日見えなかったけど何してたんだ?」

「ギュー! ギュィ!」


頭の中に『危なくなさそーだから寝てた!』って元気いっぱいな言葉が言いたいと言わんばかりの力強い鳴き声が部屋にこだまする。

この小屋の屋上にぶら下がった木の実みたいなデザインをしたものがこいつの住処だったらしい。

つまり最初から軽いシェアハウス感覚だったわけだ。

そのよしみでぶっ倒れてた時助けてくれたらしいので頭が上がらない。


「ギュー?」

「ううん、保存食買ってきたからしばらくはいいかな」

「ギュッ!」

「いって!?」


前足で頭が軽くつつかれた。

様子から見て保存食買ってきたのが不服っぽい。


「保存食買ってきたのが嫌だった? 別に嫌がらせとかいらないとかじゃないぞ?」

「ギュー?」

『本当に———?』ってニュアンスの鳴き声。

「どちらかというと迷惑かけたくないからだから………拗ねるな拗ねるな」

「ギュー」


今度は身体に抱きついてきた。

でっかいスズメバチにとんとんされてるみたいでなんかすっげー抵抗ある………。

心配げな世話焼きの幼馴染みじみたハチ公を見てとある可能性が脳裏に浮かぶ。

危なさそうだからというニュアンスの鳴き声だっけ。


「昨日のあいつ………フェリナはアブナイやつじゃなかった?」

「ギュ」

「そっかー」


確認がてら聞いてみたら案の定、肯定の鳴き声が返ってきた。

ハチ公の鳴き声に昨夜取った己の行動の罪悪感がぶり返してしまう。


「オレはなんてことを………」


軽くメンヘラ的自己嫌悪の沼に片足が沈んだその時、昨日のあり得ない仮説が再び脳裏に浮かび上がった。

一緒に出掛けたフェリナはアレーナに無視された。

それだけだったらまだしも、ハチ公があいつの存在を容認している。

都合のいい解釈がすぎるって分かってるけど………やってみる価値は充分あるか。


「朝食終わったらシニアに行くけど………ついてきてくれるか?」

「ギュ~」


その鳴き声はまるで『仕方ないな~』っていう風に聞こえた。


・・・・・・・・


「やっぱりというかなんというか」


また例の飴玉みたいな錠剤をくれたハチ公にお礼として再び縮んで貰い、頭に乗っけてシニアへやってきた。

疲れがどっとぶり返す前に予測したことはどうやら正解だったらしい。


「あれがイベントで正解ってわけね」


シニア全体が再びがらんどうのゴーストタウンと化していた。

あの酔っぱらった状態のアレーナはイベントの演出、何らかの形でイベントが成立した結果、次のシーンに移して街が再び灰色と化したのだろう。


「フェリナが無視された原因はそれか」


つまり代役のフェリナが存在していたことになる。

あくまで仮説の域から出ないものの、これが本当なら自我が芽生えてある方のフェリナにまた会える。

その上で昨日の置き去りにした一件に対する謝罪ができる。


「どうやらこの『カノ檻』の裏設定は一筋縄には行かないみたいだな」


ただいま頭に乗っけているハチ公もその『裏設定』の一部と見ていいだろう。


「本編に魔物遭遇のイベントがあったっけ………?」


このゲームはファンタジーと現代が混ざり合う街並みが特徴だ。

当然、学園もしっかり存在しており授業はほぼ魔法の基礎と理論、実践とそれを並行した試合などがメインで組まれている。

まあ、昨日の冒険者どもだって魔物の討伐がどうのこうの言ってたし。

遵って順当な考え方としちゃあ魔物が存在すると見てもいいけど………蜂型の魔物ねえ………。


「まあいいか。命の恩人? 恩虫? だし」

「ギュー!」

「シリアス出すのはこの辺にしとくかーつっかレター!」


わざわざバカみたいな大声出してグッと伸びすることで体中の緊張を解す。

こっからはポジティブ路線だ。シリアス感出しても面白さもクソもない。


「要するに昨日のフェリナはルートからはぐれたイレギュラー。謝るチャンスなんかいくらでもあるだろう」


敢えて口にして己のしたいことをはっきりとさせた。

綺麗な服までプレゼントしてもらったんだ。

置いてけぼりにして逃げたせいで服がちょっと汚れてしまったのがかなり気がかりだが………とにかく次、顔が合わせられるなら謝りたい。


「なにより悲しそうな………裏切られた顔してたもんな」


彼女の正体が分かったことも大きな収穫ではあるが、オレはある可能性にかけていた。


「ずっと話してられる仲間が欲しい………」


オレはそこまでアウトドアな性格ではない。

悪役令嬢ゲーに手を出すほどのゲーム好き………部屋で何もせずごろごろしたい派の人間だ。

だが悲しきことかな機械ではなく人間の身体。つまり、生きていく上でどうしても他者とコミュニケーションを取らざるを得ない。


「昨日のフェリナとのデートでそれがはっきりわからされたかも」


この世界にやってきてそこまで時間が経ったわけじゃないけど———昨日、フェリナと話し合いが出来てすごく嬉しかった。


「なんなら一生この時間が続いてなんて思ったり」


それくらい数日ぶりのコミュニケーションは楽しかった。

一方的の押しつけがましい繋がりではなく、はっきりとした温もりがそこにあった。


「オレってちょっと感性豊かだったりするのか………」

「ギューっ」

「んじゃ次は学園に行ってみるか」

「ギュッ!」


オレの問いかけに元気いっぱいの鳴き声で返すハチ公。

それはそれで、ぶっちゃけそろそろ限界だ。


「学園ではどんな子とヤれるのかな~」


もっとも男っぽい行為だからこそ何度でもしてみたい。

確かに昨日の影響で仲間が欲しいとは思うがそれはそれ、これはこれだ。

都合のいい場もちょうど整っているんだ。だとしたらできるだけ利用するのが楽しむための作法だろ?

なんて、お決まりの金髪ヤリ〇ン恒例のセリフを口にして未だ見てないステージへ旅立つオレ達だった。


「………」


「お、学園は普通に動いているのか。よかった」


シニアは今ゴーストタウンと化していたので動いてないか内心不安だったが、どうやらここでイベントが進んでいるらしい。


「はあ、にしてもつっかれたな。もっと体力鍛えといた方がいいかも」

「ギュー!」

『えらいえらい』と思える掛け声と一緒にハチ公にナデナデされる。

「女の子じゃないのにぃ~………」

「ギュィ~」


なんか抵抗する感じにも慣れないのでされるがまま息を整える。

オレがやってきたこの『シル・オームヌス学園』はシニアの西の外郭の方に位置している。


世話になっている小屋もシニアの中からは離れてるため若干時間がかかるが、ここはそこより遠い上に外郭の位置づけだ。

ぶっちゃけ山のど真ん中に建てられているのでクソ昇りにくい。


「魔法使い育成とかなんとかがテーマだっけ? ゲームでやってる分はいいけど実際動くとなるとしんどすぎだろ………」


日本の現代っぽい建物と山奥から覗く異世界の風景が背景として合わさり綺麗なCGのスリートップには入る。

景観は神だ。実際目にするとエモいという単語の意味が分かった気になるくらい綺麗だ。

だが所詮は山奥の学園という位置づけだ。徒歩ではしんどすぎる。


「ふ………っと一息付けたところで中でも見て回るか?」

「ギュー!」


くったくたの身体にそよ風が心地よく染み込む。

ハチ公を再び頭に乗せて学園内を歩き始めた。

そこでふとあることが気になり始めた。


「そういえば、授業も普通に聞けるのか?」


特に誰かに接触する機会もなかったため学園にも普通に入れた。

まあ、物は試しか。


「それでは次のページ———魔法陣の応用に関してですが———」


とりあえず目に入った教室にがむしゃらに突入してみたらあっけなく成功。

教師の言葉から多分魔法の基礎理論とか学んでるらしい。


「しっかし、まさか入ってきた教室が中等部だったとはな………」


フェリナとアレーナの姿が全く見当たらないどころか、攻略キャラの姿もどこにもない。

そいつらは高等部という設定だ。したがってここは中等部ということになる。


「記憶が合ってるならフェリナとアレーナ、ミウが同じクラスだったはず」

「ミウは年上の設定だったっけ?」


同じクラスじゃないという記憶しかない。


「ギュ………」

「しっ、授業の邪魔はめっ、でしょ」

「ギュィ!」


わかりましたと言いたいのか力籠った鳴き声だ。

普通なら教師に気づかれて教務室なんかに連行される場面。


「魔法の基礎は詠唱でもイメージでもなく『魔法陣』です。その書き方によって魔法の強さが分けられ———」


しかしそんなお決まりの展開になりそうな匂いはまったくしない。

怒声が飛ぶことも外部の侵入だなんだ騒ぎ立てる気配もまるでなし。


「イレギュラーってこういう扱いかー」


名も知れない綺麗な教師のNPCを見やる。

教育する立場という役割が当てられている可能性を踏まえてハチ公を窘めたんだけどその必要はなかったか。


「どれも知らないキャラばっか………ん?」


そこでとあるキャラが目に入ってきた。


「あれは………アウローのメイドだっけ」

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