第23話 検証はバトルを添えて
「ここは人々が動いてるわ。わたしが見たのは間違いじゃなかったのね」
「僕も度々人たちが動いて急に魂が抜けたようになるって気づいてはいたけど、これはこれでなんか不気味だよね………」
「二人からしたらそんな感想になるのか、オレは最初からこの状態だったせいでもう慣れてるぞ」
片やこの国のお姫様でもう片方も伯爵貴族。
とにかく目立ちやすい肩書を担う二人である。
まさに我が歩く先に道あり!!みたいな誰からも認知される状態から一変、誰にも認知してもらえないどころか動かない有り様を見せつけられたようなものだ。
記憶の中のモノとまったく違う突然がらんどうと街と化したシニアに一抹の寂寥感と不気味さを覚えた。
要はそれが言いたいのだろう。
「わたしの気持ちにすぐ気づくのはリオしかいないわ。今日はお家帰ったらたっぷり楽しみましょう………? あなたの大好きなミニスカメイド服も着てあげるわ」
「むっ、抜け駆けは許さないよ? 僕は制服かなー女子の制服来た僕にたっくさん可愛いって言ってくれるよね?」
「ま、まあそれはイベントが終わった後で追々な?」
また思考が盗聴されたのか。
もうこれくらいじゃ驚かないって決めたんだ。成長するとはつまり男の証の一つ。
さらに激しく抱き着いてきた彼女たちを尻目に何が起きているのかギルド内を俯瞰する。
「あれは………」
ギルドの一角の受付のところだろうか?
そこでもはや見慣れた奴らの姿が視認できた。
「あっち、フェリナとアレーナになんか筋肉のやつがいる」
「受付のところね。ってわたしはこっちよ? 筋肉ってたぶんアウローのことね、その他には………あれ、ぼやけて見えないわ」
「フェリナの言う通りかな。アウローははっきり見えるけど、他は靄がかかったみたいに見えないよ」
「なるほど………お互い完全に見えなくなるのか」
二人から腕に抱き着く力が一層強まった。本能的な恐怖とかがあるんだろう。
しかしオレは内心高揚している。
「代役は本当にいたのか………」
自我の芽生えたフェリナに遭遇した時の仮説は本当だった。
ここまでは想定通りというか納得がいくわな。
アレーナだけならともかく主人公であるフェリナまでオレの隣にいる。物語は進んでいく上でフェリナナシで動くのはどう考えでも不自然だ。
その上でどういうわけか自我のある状態で代役に遭遇した場合、どうなるのか。
代役の証明と遭遇した際、二人にどのように映るか。
思わぬ形でふたつの検証に立ち会ったんだ。
嬉しい以外ありえないだろ………!!
「でも、会話がないのが妙だな」
「アウローは何故か挫折してるけど?」
「靄二つに囲まれてるみたいでなんというかシュールな光景だよ」
姿がやっと視認できるオレに気遣かって相変わらず視力のいい異世界組からの生中継が真横から飛んでくる。
二人にはそんなシュールな光景に見えてるのか。
「二人にはそう映るか? オレには三人全部頭が垂れてるように見えてるぞ」
さらに近づいて姿を伺う。
アウローは確かに挫折してるっぽいけど残る二人はまるで何かを待っているような………。
そんな、嫌な想像がふと脳裏によぎる。
「何かあったらわたしたちが守るわ」
「安心してねリオ」
「オレが守るって言いたかったなぁ」
ぎゅっと今度はオレから二人に抱かれてる腕に力を込めながら言った。
守られるだけってのも男が廃ってダサいけど………。
まあ、チートナシじゃいざという時、返って邪魔になるだけだ。
そんな事態になるほどこの世界はファンタジーすぎでもないけどね!
「あれ、なんかこっち見てない?」
内心、高を括ったタイミングで微動だにしてなかった代役のフェリナとアレーナとピンポイントで視線がぶつかる。
ふとした瞬間、視線がぶつかるありきたりなイベント。
普段なら大喜びする場面だろう。
しかしオレが焦っている理由は他でもない。
「靄が蠢いているわ。かなり不気味ね」
「だね。さっきまでそんな気配なかったのにどうしたのかな」
二人には靄が動き出したように見えてるみたいだが、オレにはこちらをはっきりと見据える二人の代役の姿が瞳に焼き付いた。
「————」
「————」
「は?」
「伏せてリオ!! アイスガード!!!」
「ボルケーノストームー!!」
口元が動き出し、前方に両手をかざす代役の二人の姿。
突然すぎる事態に呆けたオレの前に一歩出たフェリナが庇うよう魔法を展開し、アレーナの魔法で飛んできた魔力らしきものを相殺させる。
続けて突風のように吹き荒らす余波がフェリナのガードによって防ぎ切られた。
「は………?」
おかしい。
あいつらに自我なんかないはずだ。
なのにどうやってこっちが視認できた上で魔法が、魔力が飛ばせるんだ?
「まずいわ。検証はあとね、いったん逃げるわよ!!」
「僕の別荘が近くにあるからそっちに逃げよう!」
「————」
「くっ、このっ」
まるでこちらの話が聞こえたかのように、代役のフェリナ………偽物フェリナに先回りされて出口が防がれた。
「————」
カウンター近くにいたアレーナの代役が徐々にこちらへ近づいてくる。
さっきの魔法のせいで各所から煙が昇っており、雰囲気だけなら勝てないラスボスの登場シーンそのものだ。
「は?」
「どうしたのリオ? 敵から何か行動があったの?」
「オレに指さししてきた」
「わたしには殺意しか飛んできてないわ!」
「僕もだよ、ってリオに近づいたら殺意が増したみたいだけどなんで?!」
オレを守るため近づいたら殺意が増したらしい。
なんていやらしい奴らだ。キーポイントとなるオレが狙いなのはまず間違いないか。
「冷静に考えたらオレが狙いか」
証拠となる材料が整いすぎている。
自我があるらしきことはすでに確認済みだ。
明らかにこちらへの敵意ある攻撃に逃がさんとばかり出口を塞ぐ連携プレイ。
おまけにイレギュラーの長としか映ってないはずのオレを守るためのアレーナの行動へのがん飛ばし。
「マジもんのファンタジーっぽくなってきたじゃねぇか」
具体的になにが狙いで攻撃してきたのかはわからないけど、少なくともオレの命が、イレギュラーの排斥が第一の目的となっているのは明らかだった。
「リオの命が狙いなら、先手取ってやる以外ないわね」
「僕の男に手を出したから容赦しないよ。フェリナ、属性狙っちゃおっかな?」
「そこがいいでしょう。リオ、わたしの前にいる靄がアレーナの代役? ってやつでいいかしら」
「ああ。出口を塞がっているやつがフェリナの代役だよ」
「任せてね。魔力飛ばせる程度しか使えないらしいし、パパーっと片づけてリオとご褒美のランデブーするからね!」
「はっ、笑わさないでくれるかしら。今日はわたしからよ? あなたはせいぜい一人で楽しんでなさい? もちろん、わたしは彼と素敵なひと時を堪能しちゃうけれど」
「こんな時に抜け駆けなんて殺す、よ! マグマ・レイン!!」
アレーナの固有魔法、マグマ・レインがまるで憤りの八つ当たりの如く、出口に塞がるフェリナの代役に降り注ぎ。
「そっちこそ、あわよくばを狙うとか伯爵の名が泣くわね。アイス・ハリケーン」
そのガードと言わんばかりの出力強めでフェリナの上級魔法、アイス・ハリケーンがオレらの前に立ち塞がるアレーナの代役に放たれる。
「すっご………」
目の前で繰り広がれる定番のファンタジーっぽい戦闘シーンもそうだけど、何よりオレを戦慄させたのは二人のチームワークっぷりだった。
氷はマグマを凍らせない。ならより上の力で溶かせない温度まで冷やせばいいと判断してのフェリナの上級魔法。
反対のアレーナは氷はマグマに弱いところを活かして集中砲火で一気にトドメを刺す気だ。
言葉は殺伐としたものしか飛び交ってないけどギルドの機能、思考盗聴までバッチリ使ってお互いオレには魔法が飛ばないよううまくコントロールすることも忘れない。
「やば、惚れそう………」
そんな二人の華やかで凛々しい姿に、気がつくと夢中になっていた。
ヤリチンになると決めたオレで、何より男らしいことに憧れが人一倍強いオレだ。
けれどだ、何のわけか死ぬほどアピールされた挙句ここまで大事にさせられたらさすがに最初の決意が揺らぎそうになる。
惚れてしまいそうになる………。
「————?!!」
「————————!!」
「あれ………?」
今ので絶対決着ついたと高を括っていた。
「何よあれ。魔法がすり抜けられたけど!?」
「こっちはいとも簡単に打ち消されたよ。おかしくない?!」
「こんな回避技ゲームになかったぞ………?」
信じられないものを見た困惑とした声が両サイドから飛んでくるが、動揺してそれどころじゃない。
明らかにおかしい。
ここはそんな、チート無双の世界なんかじゃない。
故にフェリナの魔法もアレーナの魔法もそれぞれ上級中級設定の上、出番なんか滅多にない。
それらを含めて魔法とは“異世界”を強調するためのお飾りの仕掛けにすぎない印象だった。
が、こいつらは見たことない魔法を使っている。
「何がどうなってんだよ」
やれやれ鈍感系主人公みたいなセリフが自然と口に出るくらい慌てていた。
「————!!」
「————!!」
何かを唱えるみたいに代役のアレーナの口元が動き出す。
「フェリナらしき靄が何やら様子がおかしいよ!! 魔法飛んでくるかも」
アレーナが一歩前へ踏み出しながらありがたく実況してくれた。
唱えているってことは詠唱付き魔法か。
前方のアレーナの代役から炎のビームらしきものが飛んでくる。
属性は同じか!
「アイス・フィールド!」
「インフェルノバリア!」
今回も属性の利で相殺させる気だ。
きっとこれも防げる………。
「くっ、なんで? 属性の利が効かない………!?」
「いひぃぃっ!?………これ、もしかして最上級魔法じゃない? ありえない強さだよ………!!」
いつの間にかオレの隣から数歩前に出てそれぞれがガードの魔法を展開させていた。
言わずもがなオレを守るために取った行動。
「がんばれ!! 帰ったら何でも言う事聞いてやるから、頼んだよフェリナ、アレーナ!!」
何もできないから呆けてるばかりじゃむしろ男が廃るもんだ。
オレのために頑張ってくれてるんだ、得体の知れないものに立ち向かってくれてるんだ。
ならせめて応援でエールを送るのが彼女たちの力になる。
「————!!」
「————!」
「きゃあああああああああああっ!!」
「くぁああああああああっ!!」
「あ————え?」
ここで覚醒した二人から奇跡の力が発揮され敵は跡形もなく————なんて、物語じみたミラクルが起きるはずもなく。
逆にパワーが一段と上がったらしき敵の、代役どもの魔法をもろに食らった二人がその場にバタリと膝をつき徐々に倒れてしまう。
「っ………つよ、すぎ」
「まさにバグね………」
「っ————!! フェリナ、アレーナ!!」
気がついたら二人の名前を声の限りただ叫んでいる自分がいた。
何かオレにもできることがあるかもしれない。
と、まずはフェリナに駆けつけようとしたその瞬間。
「————!?」
代役に前後を包囲されていた。
「このっ————」
なけなしの抵抗で腕を振るってみるもあっけなく塞がれてしまう。
「は、はは。これがオレの最後か」
まさに抵抗虚しくってところか。
身勝手なヤリチンの所業の末路はその被害者とも言える彼女たちの影による断罪エンド、か。
グッと両目を閉じる。
「………?」
なんで魔法が飛んでこないんだ?
おかしいだろ。
こいつらからしたら、オレは殺したくて仕方のないイレギュラーのはず。
絶望に染まりゆく様が見たいとか徐々になぶり殺したいとかそういう鬼畜すぎる願望でもあるのか?
一分一秒でも早く倒れてるフェリナとアレーナのところに駆けつけたいが、掴まれているのは明らかでそれはできない。
現状がまったくわからない。
恐怖でぎゅっと閉じた瞼を再び開く。
「————」
「————」
「————え」
怖すぎるあまり思わず一歩後ずさりしてしまった。
二人はただ無表情だった。
無限の慈愛が湛えたような、そんな無表情。
バグり散らかす状況でいい方向に解釈してるかもしれない。
敵に向けるようなものでは決してない感情がはらむ表情に、この歪な現状に何か恐怖を感じたのだ。
「え………」
突然、二人の代役は空気に溶けるかのように跡形もなく姿を眩ました。
途端にギルド内が静寂が巻き戻って先ほどまでイベントのような喧騒があったことが嫌でもわからされる。
「ってそれは後だ。フェリナ、アレーナ!!」
出口の付近まで近づき防御魔法を展開していたアレーナと、オレからかなり離れた前方で同じく防御魔法を駆使していたフェリナが一か所で倒れていた。
「しっかりしろ。フェリナ、アレーナ!!」
ひとまず彼女たちの安否確認だ。
近づいてそれぞれ息があるかどうかと傷の具合をまず確認する。
「よかった、二人とも………無事だったか………」
魔法がもろに食らった時なんて心配で仕方がなかったけど、幸い傷ひとつない。
よかった。
ほっと胸を撫でおろす。
熾烈な戦いという言葉が似合う激戦だった。
他のところでは『え、その程度で?』って鼻で笑われるかもしれない。
けどオレにはそう映ったし事実『カノ檻』では死闘の領域に入る。
感極まって二人に抱き着く。
「本当に、よかっ、た………!」
そのまま二人の頭にただひたすら己の手で撫で続けた。
せめて起きるまで撫で続けてやろう。
「起きたら二人のしたいこと、なんでもしてやるか」
命を掛けてまでオレを守ろうとしてくれたのだ。
それがせめてものプレゼントになって欲しい願いを込めながら。
初めて自我が芽生えた二人に恐怖や後ろめたさ以外、素直な気持ちをぶつけるオレだった。
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