第22話 最悪の可能性
エナドリから離れてひとまずオレたちはイベントがありそうなところに向かう方針で決まり、ひとまずシニアを徘徊してみることに。
「わたしの“家”はどうかしら?」
「そこが舞台だったらエナドリがここまで使いに出される理由もないし、あってもすぐ戻されていたはずだ」
「一理あるかな。敢えて道端に固まってる意味がないよ」
「むっ、そうかしらね」
フェリナはあくまで常識的な範疇で言っていた。
彼女の言う通り、王城で何かしら出来事があってここにいると考えるのが理屈的に合っている。
だけどそれではエナドリがここで固まってる説明にならない。
「同じ理由で僕の家や学園もナシ、かな」
「むしろ学園がベストではなくて? 授業の一環とか掲げてここにやってきた可能性もなくはないのよ?」
「その場合シニア一帯が活性化されててもおかしくないんじゃないかな。リオが言いたいのはメイドちゃんがここで固まっている理由は近くでイベント、僕たちからすると日常が開始されているけど影響力はかなり低い前提だから」
「そう、それだ」
固まっているのはつまり、イベントの影響範囲外ってことになる。
前回もエナドリはすぐには消えなかった。
なにかカラクリがあるとしか思えないんだよな。
「考えられる可能性は二つだ」
「ふたつ?」
「え、他にも何か心当たりが?」
オレの発言に二人から驚いた視線が向けられた。
バラバラになっている脳内に浮かぶ言葉たちをひとまとめして咀嚼し、オレの思ってることをゆっくりと口にしていく。
「ひとつはアレーナの言った通り、かなり小規模なイベントだ。あまりに小さすぎる舞台設定の突発シーンで他まで影響が及ばなくなるかもしれない」
攻略に影響がまったく出ない小規模のイベントがそのいい例だろう。
これならまあ納得出来なくもない。
途中からエナドリナシで進めるイベントの性質上、最後には再度登場させるため近くに固めておく必要があった。
この仮説が本当なら前回の外で固まっていたエナドリにも納得がいく。
「僕はそれしかないって思ってたけど………もうひとつ何かあるの?」
「ああ………最悪の可能性がまだ残っている」
最悪というオレの言葉に二人からゴクッと固つばを飲む音が静かすぎるシニアの雰囲気と相まってとてつもない緊迫感が醸し出される。
「ああ。最悪の可能性、それは………」
「「それは?」」
「バグだ」
「へ?」
「え」
そう、バグ。
この『カノ檻』などノベルゲームではあまり想定できない言葉だが、ありえない話ではない。
バグでCGが出ないとか、ヒロインのへにゃくちゃ差分が実はバグで修正されたらむしろキャラの魅力が死ぬとかなど諸刃の剣でもある代名詞、バグだ。
「バグってなにかしら」
「そこからか~」
確かに、現代とファンタジーが程よく混ざり合った舞台設定だがネトゲ―やらコンソールゲームやらの話は全く耳にしない。
ゲームはあるらしいが、バグがまず存在できない直で遊べるやつか。
ひとまずバグの概念についてかいつまんで説明する。
「なるほどね、“ありえない事象が起きる”概念でいいかな」
「今はその概念で充分かな」
オレの説明にアレーナが噛み砕いて答えてくれた。
隣のフェリナはこういうのにちょっと耐性がないみたいだ、アレーナの説明でグルグルになりかけていた目がやっと元に戻ってる。
まあ、バグの概念なんて他にも数えきれないほどあるけどそれは追々やっていけばいいし、なんなら思考の盗聴もありか。
一通りの概念は理解してくれたみたいなので説明を続けるため口を開く。
「つまり、イベントはやってないけどそのキャラが何故かそこにいる、バグ以外では説明できない」
「さ、最悪でしょそんなの」
フェリナの言う通り最悪の事態だ。
イベントが見れないイコール裏設定の検証ができないに繋がってしまう。
それより単にオレがイベントが見たい気持ちが大きいんだ。
どんなイベントがあってエナドリがここにいたのかが物凄く気になる。
「ひとまず動いてみた方がいいんじゃないかな」
「だろうな。だからある場所に向かってみようと思う」
「アレーナの話が前提で進むならここから一番近いところなんてギルドしかないわ」
「そう、そこに行ってみるつもりだ」
記憶の中にあるギルドの景観に一番近い建物に三人で立ち止まる。
オレだけじゃない。
フェリナもアレーナも迷いなくここで立ち止まった。
画面越しで見た時より幾分かこじんまりした感はあるけどここが目的の場所っぽい。
「ここがシニアのギルドよ」
「一般的な建物と大差ないけど中は結構広いよ? リオは気に入ったかな」
「思ったよりこじんまりしているな」
正直な感想が口から出てきた。
ギルドってファンタジー世界の腰の部分にもなってるとオレは思っている。
大半の物語にギルドは何らかの形にしろ入っているからだ。故にこの『カノ檻』でも言及はされるものの、あんまり表舞台には出ない。
悪役令嬢ゲームだからそういうところに折り合いをつけたのはわかる、だからギルドだけどこんなにちっちゃい建物にしているんだろう。
「行くか」
「ええ」
「いくよー」
両腕にフェリナとアレーナがくっついてきて三人一緒に小さいギルドの門に入るのだった。
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