第21話 道端に生えたメイド

灰色一色の世界と当然な人生から突然カラフルな花園色に様変わりしたその日の午後。

オレ達は噴水広場に繰り出している。


「何かいるわね」

「ほんとだ。なんかいるよ」

「そーだなーなんかいるなー」


ほら吹いてごめんなんも見えない。

ちなみに今日もイベントはこちらでは起きてないらしく、道に人はぼちぼちいるが動く気配は全くゼロ。

ゴーストタウンのままだ。

なんかいるらしいけどさっき言った通りオレには何も見えない。

『カノ檻』の人間が視力が非常にいいとかそういう設定あったっけ?


「強がっちゃって可愛いわぁ♡リオ、噴水広場から少し奥まったところにメイドらしい何かがいるわ」

「なんで抱き着くんだよ」

「あっ!」

「ちょっと怖いんだもの、道端にメイドひとりポツンと立ってるって不気味でしょ?」


確かに………一理あるかもしれない。

この『カノ檻』でもメイドは主に使えるものとして存在している。

先日のエナドリがそのいい例だ。

学園とかの異例を覗いた場合、メイドがひとり勝手に出歩く場面はまずないとアウロ―のルートで釘刺したようなないような………。

従者が主もナシでひとりでポツンと突っ立ってるのはこの世界育ちのフェリナには不気味に見えてもおかしくはないわけだ。


「大丈夫だよフェリナ。オレが守るから」


やっべ言ってしまった………!

女性側からは実際言われるとキザすぎてドン引きの一位言葉。

しかし男性陣はいつか口にしてみたいあの言葉をとうとう言ってしまった。

オレより強いフェリナを守るとか笑いものにもほどがあるだろ。


『守るって言われちゃったわどうしよもうこれ“離れたら死刑”ってことよね?帰ったらとりあえず二回戦始めちゃおうかしらそこから考えても遅くな………』


思考の盗聴、相手から覗かせることもできるんだ。


「と、とりあえず近づいてみようぜ。裏設定とかかもしれないし………」


それっぽいこと口にして二人から逃げるように先に進む。

後ろからアブナイとか戻ってとかの過保護発言が聞こえるけどこっちは恥ずかしさでそれどころじゃない。

それにオレには何故か自信があった。

アブナイことでは消してないという自信が。


「本当だ。なんかメイドがいる」


見た感じエナドリに近い。

近づいて見たらまんま本人だった。


「近くでイベントがあった直後だったりするのか?」


目の前で動きが止まっているエナドリを見てふとある言葉が浮かび上がる。


「一度は偶然、二度目からは必然だっけ」


そこでとある悪だくみが脳裏に浮かんだ。

ちょうど今、背中しか見えない位置取りで立っている。

小柄なエナドリはオレの背に霞んで見えてない。

近づいてもキスしても見え方は同じ。


「別に付き合ってるわけでもないからこれは浮気ではない。うん、きっと間違いなく」


ヤリ〇ンになるって転生した時、覚悟したオレだ。

これぐらい挨拶のようなもんだってどっかではよく言ってる。

男らしさの頂点を目指す立場の人間がキスぐらい朝飯前にならなくてどうするってんだ?!

固い決意を胸に動きが止まったままの彼女の唇に己の唇を宛がう。


「んっ………かなり柔らかい」


止まってる状態なのにこの柔らかさはバグじゃないか?

メイドという職業柄、なにかの苦労は絶対しているはず。

『カノ檻』世界観の住人たちがただ肌が良すぎるだけか。


「スカート長すぎは萎えるんだよな………時代はミニスカメイド一択なのに」


容姿と服装はスタンドCGしかなかったのでまぁそうだろうなって予想はしてたがまさかのロングスカート。

こじんまりとした背格好に黒髪は確かにロングという解釈になりそうだが………。


「スタンドCGではわからなかったけど、かなりちっちゃいな」


ギャップ狙いだったはずだろう、実際CGではかなり似合っていた。

が、直接見た感想は服に着せられた感が強すぎて他が持っていかれている。


「筋肉のところのメイドね。こんなとこで何してたのかしら」

「本当だね。何かお使いかな?」


ここんところ四六時中耳にしている声が吐息に混ざって聞こえてきた。

いつの間にかオレの両サイドに彼女たちが立っていた。


「………いつ来てたの?」

「ちょうど今ってところかしら」


幸いキスはばれてないみたいだ、よかった。

思わず胸をなでおろしてため息が出てしまう。

無意識のうちにバレないかひやひやしていたらしい。


「へぇ………キスしたんだ、僕というものがありながら野良に生えたわけのわからないメイドにチュッってリオのDNA移植させたんだ」

「しまっ」


常に心の中が丸裸になってるって忘れてた!!

ナチュラルに読まれた恥ずかしさもあるが、それよりアレーナ気迫がやばい。

思わず一歩後ずさりしてしまう。


「お家帰ったら………今日は僕からね」

「は、はひっ」


男的にうふふだとか考えて首を縦に振ったわけではない。

口が勝手に答えていた。


「リオ」

「なに?」

「………次知らない女にキスしたら首輪つけるわ」

「………つけてって言ったら?」


アレーナの非じゃないくらいの圧を発するフェリナにどこかバカにする口調でそう挑発をかます。

やられっぱなしじゃ舐められるのは不変の方程式だ。

理由はさっぱりだがどんどん外堀が埋められてる今、一回打って出ないと気がつく頃には取り返しのつかない領域に片足突っ込んでるかもしれない。


「いいわね。あなたに付けてわたしも付けたらお揃いになるからどこでも“あなたのモノ”って強く実感できそうじゃなくて?」

「ごめんなさい許してください」


即綺麗な90度の腰曲げ挨拶を披露する。


「わたしはどっちでもいいけれど? 二度と道端で他の女にキスしないことね、いい?」

「はひっ………」


首元にヒヤリとした感覚が走る。

口調は楽しんでるように感じられるがフェリナの瞳には瞳孔もなにもなくオレしか映っていない。

返答次第でいつでも拘束するって合図だ、調子に乗るんじゃなかった………。

わなわな震えながら返事を口にした。


「フェリナもその辺にね? リオ怖がってるよ、行こうよリオ。裏設定の検証とかするために来たんだよね?」

「人様に言える立場かしらね」

「そ、そうだな。エナドリがここで立ち止まっていることはつまり何かイベントが起きているかもしれない。行こう」


どっちもどっちだと思うけど敢えて口にして波風立たせるほどバカじゃない。

いや、今のでむしろ詰んだかも。

ブンブン頭を振って一度リセットして敢えて大声で口にする。


さて、それじゃ気を取り直して。

なんの経緯でメイドがこんなとこにポツンと立ってたのか、誰のイベントで今回の“裏設定の検証”ができるかどうか

いざ、やってみようじゃないか。

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