第20話 パーティーという甘美な名の包囲網
「美味しかったかしら、リオ」
「メチャクチャ美味かった………やだ、調教されてしまう………」
「満足しててよかったよ。どうかな、ちなみに今度は僕が………」
「それだけは本当やめなさい」
「なんでキミが反応するのかな!? リオは僕のこと見捨てないよね………?」
「無理」
「そんな~!」
机に両手付いて絶望したと言わんばかりの哀愁がアレーナから漂う。
「悪いけどお前の料理は絶望的だ」
「ひぅ……!」
こいつには悪いけどトドメ刺してここで諦めさせるのが未来のためだ。
今の謎の流れでフェリナルートのワンシーンが一瞬、脳裏に掠める。
それはフェリナの看病のため慣れない料理にアレーナが挑戦するというお約束の看病イベント。
どう見ても常連の店如く普通なそのイベントはなんとこのゲームではバッドエンド扱いだ。
女性ファンは納得いかないと憤慨する一方、男子側からは斬新すぎたとの好評が続出。
このエンドの選択肢である『任せる』を選んだ場合、とにかく詳細は明かされてないけどフェリナはその料理を口にした翌日、ひっそりと息を止めているフェリナの衝撃的なCGが流れる。
さすがに同じ轍を踏みたくはない。
「残念ねアレーナ。リオのお世話はわたしが一任するわ」
「ぐぎぎっ………」
めっちゃ悔しそうに歯をギシギシ鳴ってるけど大丈夫なんか?
このまま話題が逸れまくりなのも楽しいだろうけど、とっとと本題に入りたい。
「で、本題はなんだ? なんでオレがここにいるんだよ」
オレの一言におちゃらけてた二人の表情が途端に真剣なモノへと変わり、アレーナの目ぶせにフェリナが説明を始めた。
「パーティを組みましょう」
「パーティ?」
この世界でのパーティは特殊——————なんて面白い設定もへったくれもない。
どの異世界にでもあるらしきお馴染みのパーティーだ。
敢えてここだけの特殊設定をひとつだけ取り上げるとお互いの位置が常に確認できるってことくらい。
乙女ゲーなので執着好きそうなターゲットも確保したかったんだろう、そのための攻略対象に主人公の居場所が常に分かるようにするための設定だが、それすら活かされずじまい。
まあ、ダンジョン攻略ってごってごてのモノじゃない。
タイプ別イケメンの侯爵やら何やらと異世界でイチャイチャがテーマだ。仕方ないか。
改めて考えてみれば死んだ設定多すぎるだろこのゲーム。
「パーティーの効果は具体的には財産共有、位置確認にパーティーによってひとつだけ好きな効果が付与出来る。かな」
「効果の付与? 初耳だぞ?」
「当然でしょうね。これは貴族のパーティーしか使えないいわば“格付け”みたいな物よ、リオの言っていた………そうね、裏設定ってものかしら」
「なるほどな………ってオレ裏設定なんか言ったことあったっけ?」
「昨日わたしたちに説明してくれたでしょ」
「あ——————」
昨日のあれは夢じゃなかったのか。
半端ない虚脱感は多少直ったものの、魔法で強制的に寝かされてから記憶がない。
「それさ」
「ギルドのことかしら」
「んっそれ。ギルドの申請通す必要あるんじゃない?」
何気ないオレの質問に二人とも口があんぐりと開いて呆け出した。
妙な反応………なんかすべった?
「ギルド行ってたの?」
「行こうとしたけど………めんどくさくてやめた」
チラッとアレーナの方を見やる。
こいつとやった翌日だから行けなかったなんて死んでもいえね——————!
よくよく考えてみりゃその日はフェリナとデートの当日でもあったし………これ言ったらひと悶着起こるのは火を見るより明らか。
墓まで持っていくか、うん。
「へーそうなんだ、“わたし”とデートしようとして行けなかったのね。本当、女たらしよね」
「わかるよー。“僕と”楽しいひと時が過ごせたんだしそれどころじゃなくなるかな♪」
お互い都合のいい解釈した上で睨み合い初め………ってそれどこじゃない。
オレは何も言ってないのになんでわかった………!?
「——————これがわたしたちのパーティーに付与したもう一つの能力、『思考の盗聴』ね」
裏設定如きがオレなんかよりチートすぎじゃね?
「これは盗聴したい相手を見て心の中で『好き』って唱えれば発動するよ」
アレーナからの助言助かる!!
オレのバカみたいな過去の一部がさらされたみたいでなんか癪だ。
やられたらやり返せ、オレの大好きな男っぽい言葉であり、座右の銘である。
順番に盗聴してやろうじゃないか。
「わたしからかしら?」
余裕癪癪なフェリナの方から見やる。
『好き』
心の中で一回だけ、シンプルにかつ男らしく唱える。
詠唱とかの直接声に出す類のものではないので幾分かはマシだけど………内容が内容だ。頬が熱くなるのが感じられる。
お、なんか頭の中に声が流れ始めてきた。
ファンタジーっぽい演出で感涙しちゃいそう。
『わたしの方から盗聴させるためにわざわざ盗聴しちゃったけど嫌われてないかしら? あのクソ女とランデブーした翌朝っていうのは心底気に食わないけどこれでいつでも一緒にいられるしどこにいるか見え見えよね? パーティー結成って喜んでくれそうだからなんとかしたけど次は何したら喜んでくれるでしょう? 首輪………付けてるの可愛かったし………』
「ひぃ………」
「あら、どうしたのかしら?」
飄々とした顔の裏にそんな重すぎるというか、沼のような感情が潜んでるのは予測済み。
だがさすがに深淵を覗ける勇気は足りなかったらしい。
く、首輪って言ったよな?
無数のヤンデレゲーで散々見せられた閉じ込めエンドが脳裏に浮かび上がり気がついた時にはアレーナに抱き着いていた。
「怖いよアレーナぁ………」
「あっ」
「抱っこしてあげるね。よしよーし、怖くないよ? 誰もキミをイジメたりしないからね」
今朝の病んでる時と違うイメージ通り、目線を合わせて優しく頭を撫でてきたアレーナ。
こいつはオレに染めたがる傾向だったし………幾分かマシ、だよね?
『好き』
抱きしめられたまま、オレより少しだけ背の高いアレーナを見上げたまま心の中で唱える。
『リオが僕を見上げているキャーキャー!!どうしよ可愛すぎるよ愛おしすぎるよそれなのにヤる時は男らしくてかっこいいとか本当反則すぎるよねいつまたしてくれるかな今度は僕から襲っちゃおうかなうんそしよリオは何気に罪悪感感じてるからそこに付け込んで………うふふふふふ』
やだ、オレ詰んでるかも。
このピンチが抜けられる方法があるはず。
よく考えろリオ・タチバナ。
パーティーから抜けるのは絶対何があっても不可能。
位置情報はどこにいてもバレる上に、心の声もダダ漏れ状態。
「あれ、詰んでね?」
「理解が早くて偉いわリオ。そういう頭がキレる所も大好きよ」
「ちなみにお姫様のフェリナと伯爵貴族………今は令嬢でいいよね? そんな僕の私財もたんまりあるから一生遊んで暮らせるよ?」
「元々の目的がはハーレムだったかあ——————ふーん、ってことはこれで達成できたからもういいよね? んじゃあ次はこの世界の探検でいいかな? もちろん、アブナイことなんて全面的に禁止だよ?」
「ま、まずは裏設定の検証からしたいけど………ひ、ひとりでいい、かな………?」
男は自由を求めるが故にもっとも男らしくなれると信じている。
………なんてこの場を凌ぐための方便に決まってる。
しれっと本音と嘘がほどよく混ざって提案したところ、がしっと両腕がそれぞれフェリナとアレーナに掴まれた。
掴まれたでは説明できない力加減。
逃がさないといわんばかりの拘束に近い。
「逃がさないって言ったわね? リーダーのリオのやりたいことは何してもいいわよ。わたしたちと一緒ならの前提がついちゃうけれど」
「裏設定の検証からでいいかな。んじゃシニアにレッツゴーだね! もちろん、逃がさないよ?」
「………はぃ」
パーティーが組みたいなんてまさにファンタジーっぽいやつに憧れたオレ。
だがどういう因果かオレの憧れだったつよつよパーティーに勝手に組み込みされていて、まさにおはようからおやすみまで共にすることになったらしい。
定番のパーティーは四人組だった、ってことはあと一人くらいいよな?
なんて欲望に目が眩んだままのオレは思考が盗聴されてるのもすっかり忘れてそんな次のヤリチンプランを密かに立てていた。
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