第16話 誰しも体験してみたい修羅場イベント

「………は!?」


目が覚めたら見知らぬ天井………ではない、オレの寝泊りしているお馴染みの小屋だ。

だったらなぜそんな転生したての主人公のようなテンプレっぽい行動をしたのかというと。


「………」


無言のまま上から降り注ぐ病み切った、射抜くような視線がその原因だ。

目を覚ますとフェリナがじっとオレの顔を覗き込んでいる。

昨日はフェリナって誤解されたハチ公だったけど今日はマジの本体なわけか………。


「お、おはよう………」

「ええ、おはよう。さっそくだけど………浮気したのね」

「はい?」


謂れもない冤罪に虚脱感が抜けきってない身体を引きずり起こしてすっとぼけた声が喉から口を通して外に出てきた。

オレの聞き間違いか?


「とぼけないでもらえる? 浮気したでしょ。証拠はもう揃ってるから素直に白状しなさい」


寝起きの幻聴じゃなかったのか。

そうか、ついに言われてしまったのか………。


「前回のデートで突然わたしの手を振りほどいたのもその女がいたからでしょ? わたしに飽きたの? 重い女って嫌なの? ねえ」


グイっとゼロ距離でさらに問い詰められた。

病み切った焦点の定まってない不気味な瞳と見たことない種類の威圧感が彼女から放たれている。

マジのご立腹状態のフェリナには悪いけど………今オレはかつてない高揚感に支配されている。

ハーレム好きの男が言われてみたいセリフナンバー3からナンバー1までセットで言われたんだ。興奮するなって無理な話だろ!?


「表情が嬉しそうだけれど? へぇそっか。わたしの独りよがりってわけかしらね?」

「まあ事実そうだし………それに、証拠ってなんだ?」

「あなたの真後ろにいる藍色のクソ伯爵令嬢のことよ」

「は?」


どうやってここが突き止めたのかは知らんがここは把握されてる。その延長で昨日のエナドリとのひと時ががフェリナににバレたって予測を立てていた。

ストーカーの延長でそこがバレたって思ったけど、今の言動からみたらそこではないらしい。

予想の斜め上を行く発言にフェリナの言葉に従って後ろに振り返る。


「へぇ………そういうことね」


フェリナの言う通り何かがこっちを見据えたまま呟いていた。

具体的には数日前にオレの二番目の初めてを捧げた相手、アレーナがフェリナと同じ目をしたまま任王立ちしていた。


「さっそくだけどねリオ」

「詳しく聞かせてくれるかな?」

「は、はは………」



ハーレムを願いすぎた罰かもしれない。

見てる分には楽しいけど体験したくないランキング一位、重い女の修羅場が強制開始されていた。


「という次第です………」


フェリナの魔法で氷の首輪がつけられて完全に包囲されたので観念して全部話すことにした。


「要するにここはあなたからしたらゲームの世界で、僕はその攻略対象」

「それにわたしはこのゲームの主人公ってことね」

「ああ、その通りだ」

「それで、この世界には『裏設定』というものが存在していて、その一つが『イベントがないと動きが止まる』。それを上手く使ってわたしとあんなことをした」

「やっぱりこの女にもやったんだ」

「すみません………でした」


バレた以上は仕方ない。正直に謝る以外方法は存在しないんだ。

許さなれない罪って自覚があり、かつ罪悪感があったら最初からするなって話だ。

ゲームの世界って侮りすぎたかも知れない。

被害者なんか出ないからヤリチンするってどういう理屈だよ。こうなるって分かってたら当時のオレをぶん殴ってやりたい。


「………っ」

グイっと鎖が強く引っ張られて首回りに痛みが走る。


「わたし今すごく怒ってるけど………何に対する怒りかわかるかしら」

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