第29話 予想外のイチャイチャはトラブルを添えて
「こ、これはその、あの………」
見られた。
それもバッチリと。
完全にバレてしまった。
普通に立ってるだけだったらいくらか言い訳の余地はあったはず。
だが、残念なことに己の手が足首まで伸びている。
「………」
手に持つトレーをベットの近くにある机にそっと置くとこちらに近づいてくるエナドリ。
「えっ」
そのまま優しくオレの身体を抱きしめてそっとベットに連れ戻した。
押し倒すのではなく優しく、出来るだけ気を付けてそっと座らせる。
「ご主人様、私は今、大変ご立腹です。何故かお分かりでしょうか?」
「そ、それはこっちのセリフだぞ。監禁ではないって………」
「何故か、分かりますか?」
オレの両頬に手袋越しのエナドリの手がそっと触れて、顔が固定された。
エナドリはそのまま目線をオレに合わせてきた。
「はぇ?」
驚きの声がおのずとまろび出てしまう。
そりゃあそうだ。
彼女のが先ほどとすんぶん違わない優しい目つきのままだったから。
「理由は当然、私のおもてなしを無視して出ていこうしたからですよ? 信愛するあなた様に置いて行かれた大変寂しい気持ちでいっぱいです」
「私のデザートを堪能して頂いて、マッサージのついでにあなた様について話して頂いてから帰らせる予定でした」
「お嫌でしたら直接おっしゃっていればすぐフェリナ様とアレーナ様のところへお送りさせていただくつもりでした。なのに脱出しようとするなんて、酷いです。あんまりじゃないですか」
「いや、それならこうして足に鎖かなにか知らんが付けなくてもいいんじゃ………」
「でないとすぐ逃げ出しましたよね?」
「はい………すいません」
有無を言わさぬ優しい顔の裏に潜む圧に負けて気がつくと謝罪の言葉を喉から絞り出していた。
するとエナドリが優しくギュッと抱きついてくる。
想いを伝えるような物とはちょっと違った、慈愛が感じられるそんな拙い抱擁。
「謝らなくてもいいのに…………でも、ありがとうございます。ケーキはどういたしましょう?」
「食べるよ。なんか、脱出しようとした自分がバカみたいになってきた」
鎖に悟った瞬間、これは詰んだって思った。
さっきのオレのクズ発言の連発にも顔色ひとつ変えず、むしろ甘やかす方に集中していたように感じる。
この子はもしや、ヤンデレじゃないかも………?
「ご主人様に何一つ不便はさせませんのでご安心くださいね♡」
「はい、あーんですよ? ご主人様」
「あーん」
オレは今、大変感動している。
あの伝説の技がようやく体験出来ているのだ。
「あら、ちょっと失礼しますね。ふふっ、口元にクリーム、ついてますよ?」
「自分で拭くから」
「ダーメ、メイドの私はあなた様のために存在してるようなものです。じっとしててくださいねぇ」
「んっ」
柔らかい触覚………これはハンカチなのか?
優しく丁寧に口元を拭ってくれるエナドリ。
「ちなみにこのケーキにはある魔法が込められているんです」
「魔法? 毒魔法でも込めたのか?」
「毒魔法は料理には使用しますね。苦みや辛味など強調したい場合などに適量使うと結構美味しく仕上がりますよ?」
「えっ、マジで毒なんか使われてたの」
「と言っても私くらいでしょうか? 元々は癒し魔法の応用ですので」
「なるほど………」
毒魔法なんて料理に使ったらおもろそうって思った時期があったがまさか本当に使われていたとは………。
っと話が逸れた。
魔法、魔法ね………。
「こっちの魔法にさっぱりだからなぁ」
「では公開させていただきましょう。ふふっ、ご主人様への敬愛という名の魔法です!」
「可愛い事ばっか言ってくれちゃって~このこのっ~」
「いや~ん」
どこでテレたのかはさっぱりだ。
この子、ヒロイン力抜群すぎないか?
「これで最後の一口ですよ? はい、あーん」
「あーん。もぐっ」
「無事かしら、リオ!?」
「僕が来たからもう安心していいからね? リ、オ………?」
「あっ」
ちょうど最後の一口を頬張りながらある考えに思いを馳せていたその時。
オレが待っていた二人、フェリナとアレーナが最悪のタイミングで迎えにきてしまった。
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