第30話 デートの約束
「ご主人様ご主人様、フェリナ様とアレーナ様がいらっしゃいました。紅茶でも入れた方がよろしいでしょうか」
「い、いや………もうお暇させてもらうわ。楽しかったよ」
今はそれどころじゃないっ………!!
四人仲良くお茶なんて到底出来る場面じゃないよこのメイドが!!
アブナイところへ飛び出した想い人を助けるために敵地へ向かったら敵とイチャコラしている地獄絵図。
二人の目にはまさしくそんなえげつない絵面で映っているのが手にとるように分かる。
何故かって当然な話だ。
目が全然笑っていない。
口元に微笑みが浮かべているが目だけは全然笑ってないし、なんなら死んでいる。
「ふぇ、フェリナさん? アレーナさん………?」
「さん付けは浮気していると認めてるのかしら?」
『あーんはわたしもまだなのよ? あーんはわたしもまだなのよ? あーんはわたしもまだなのよ? あーんはわたしもまだなのよ? あーんはわたしもまだなのよ?』
「リオ」
「あ、ああ」
「そのメイドとやったこと、帰ったら全部僕にもしてよね」
『これで僕で塗り替えられるこれで僕で塗り替えられるこれで僕で塗り替えられるこれで僕で塗り替えられるこれで僕で塗り替えられる』
二人からの圧が半端ない。
ここは氷河期のいる時代だったのかって錯覚しちゃうほど部屋の温度が何十度か下がったみたいに感じる。
普段、オレに喜んでもらおうと必死な分、こういう時の反動がデカすぎるんだろう。
「心配かけてごめん、オレなりに二人の役に立ちたかった」
ここは素直に謝る以外ないと思った。
好意がどうのこうの以前の問題、モラルとか常識とかの問題である。
「許してもらえるよ思うのかしら?」
「死ぬほど心配したんだからね? さすがに今回は閉じ込められても文句言えないよ?」
「騙し討ちみたいな真似して逃げ出したのは………オレが全面的に悪い。エナドリのことも気がかりだったけど、二人にもうあんな目にあって欲しくないって思った」
「ひとりで検証しに行けばいいかもって思ったけど、まさか空回りになるどころか二人を傷つけた上に心配させることになるとは思いにもよらなかった………だから、ごめん」
二人に深く頭を下げて謝罪する。
これで許してもらえるとか甘ったれた考えなど微塵もない。
ここにやってきて初めて自分の素直な気持ちを表してる気がする。
「こっちに顔、向けなさい」
フェリナの圧がはらんだ冷たい声に従って顔を向ける。
「チュッ」
「チロッ」
「………!?」
ぶたれる覚悟で、なんならどんな魔法が飛んできても耐え抜く覚悟で顔を向けた。
そんな覚悟虚しく、何故か両方にキスされた。
「そんな野蛮な女では決してないわ。反省してるのはよーくわかったけど、誠意が足りないわね」
「君にお尻叩かれるのはむしろ好きかもだけど僕から叩くのはナシかな。あ、そうだ。リオ」
「あ、ああ」
ナチュラルに思考が読まれてない?
もはや思考の盗聴はデフォになったらしい。
「デートしてくれたら今回のこと、許しちゃうかな」
「ちょっと! 美味しいところばかり持っていくのはどういう了見かしら?」
「いやいやこの前、君はリオとデートしてたでしょ? 僕は一度もないの。これはさすがに譲るべきじゃないかな」
先ほどまでの凍てつくような雰囲気はすっかりなりを潜めて、いつもの二人がそこに戻っている。
デートのためとか誤魔化してるけど心配したり悲しい思いさせたのは本当だろう。
「いいよ。今度デートしてやる」
ここでうじうじしていた方がむしろ男の恥ってところだ。
ドンと決めてやるか。
「やったわ! 二人でやるのか三人でやるのかどっちがいいかしら?」
「お前が三人って選択肢出すか~?」
「まずは僕と二人きり! 後で合流してきてね。割り込みなんかしたら本当に殺しちゃうから」
言葉は相変わらず殺伐としたものだが、フェリナもアレーナもいつもの生気が戻ってきてる。
許されてはないけど………とにかくよかった。
「さて、んじゃ帰るか!」
「はい! 帰りましょうか、ご主人様」
予想外人物からの返答にオレ達三人、驚きのあまり声すら出せてなかった。
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