第31話 『ヤンデレヒーラーが仲間になりました』

『何なのかしらあのメイド。もしかしなくてもリオ、わたしたちが来る前にあの子と済ませちゃったのかしら?』

『いつかこうなる気がしたから行かせたくなかったんだけどね、僕は』


 二人からそれぞれの想いが、思考が再び飛んできた。

フェリナは何か合点が行ったらしく瞳から徐々に色が消え失せていき、一方のアレーナはため息をついている。


「そ、そうだ。エナドリ? あのさ………」

「メイドの居場所はご主人様の隣しかいませんよ?」

「エナドリ………?」


雲行きが怪しくなり始めたのを察知してなんとかフォローしようとしたところ、エナドリの纏う空気の質が変わったような気がした。


「私はあなた様に救われたあの時、おはようからおやすみまであなた様に尽くすと心に誓いました」

「っ………!」


グッと距離を近づけられて視線がぶつかり合う。

息を吞まざるを得ない。

先ほどの聖女のような彼女の顔は今や寂さや孤独のせいで愛情に飢えた——————捨てられた道端のヤンデレのような目をしていた。

オレ以外、視界には決していれないと言わんばかりのドロッとした瞳。

ここまでガラッと豹変するものか?


「六度の偶然は巡り愛と申し上げました。あなた様のためならこの私の、エナドリはなんだって捧げられます」

「あなた様を傷つけるモノはなんだって排除して見せましょう。永遠の安寧をお約束いたします。だから、だからどうか………」

「連れていって、くださいませんか?」


ギュッと、エナドリから再度抱きしめてきた。

先ほどの慈愛に満ちるモノとは真逆の、執着と独占欲で塗りつぶされた抱擁。

そんなに必死に求められたら返事なんか決まっている。


「いいぞ」


即答したオレに納得してない二人から嫉妬に眩んだ視線が痛いほど降り注ぐ。


「どういうつもりよ、リオ。わたしがいれば全部解決できるのよ? おはようからおやすみまで全部、アナタ好みの一日が送れるわ。なのにどうして一晩共に過ごしただけの駄メイドを連れて行こうとするのか、説明して頂戴」

「リオは僕がいればよかったんじゃないかな? なのにどーしてその運命なんかにこだわっちゃうメイドを拾おうとするの? 妥当な根拠でもないとここでその子、やっちゃうヨ?」


フェリナとアレーナは納得できないらしく、いつの間にか魔法を展開させていた。


「ヤったから連れてこうとかそういう一時の情にほだされたやつじゃない。ちゃんと理由があるんだ」


二人とも頭をごくっと縦に振るって「続けて」という意思が伝わってくる。


『続けなさい』

『うん、続けて?』


心の声でまで飛んできた。

その中にドロッとした何かも感じられる。

よほどの理由じゃないとエナドリがこの場で行っちゃうかもなぁ、責任重大か。

苦笑いをこぼしつつ、説明を続ける。


「エナドリがオレを攫うことができたのは“癒し魔法”の応用だ。おそらく治癒魔法が使えるんだろう」

「へー治癒魔法が得意ね」

「先日の代役どもによる襲撃………詳細は知らんがそんな事態がこの先、全くないって断言できない。よってヒーラーが一人くらい居た方がいいってずっと思ってたんだ」


これは代役どもから攻撃された時、痛感したことだ。

異世界物では何故ヒーラーが必ずいるのか。

戦闘の途中、または終わった後、仲間を治せる役がない場合は物語が進めないからである。

ヒーラーがないと最悪、病院に行けばいいけどイベントがないと人々が動かないこの世界の仕組みの前ではろくに病院にも行けないのが現状だ。


「代役どもといつどこでぶつかり合うかもわからない。よってヒーラーとして入れたいんだ」


自我が芽生えた上で必死に求められたせいも正直に言うとなくはない。

だが一番の理由はやっぱり万一の傷ができた際の対応である。


「わたしたちのこと考えて下した決断なのね………いいわ、リオに免じてパーティーに入れてあげようかしら」

「そこまで僕たちのこと考えてくれたなら断れないじゃない………僕もそれなら納得かな」


手先に展開させていた魔法を二人とも引っ込めてくれた。

内心、いつ魔法が飛んでくるのかヒヤヒヤしていた。

道端に捨てられた女の子を保護したいって嫁に言う心境に近いんだろうか?

ま、そんな関係ではないけどな。

オレが素直な今の気持ちを口にしたから二人も多少は譲ってくれたんだろう、きっと。

二人から承認の旨の返答が返ってきたので抱き着いたままのエナドリの頭にポンと手を乗せた。


「よかったな。これで一緒に行けるぞ」

「………今のでついていく理由がもう一つ増えました」

「へ?」


しがみつくように抱き着いていたエナドリがすぅっと離れて、フェリナとアレーナに向き直る。


「まるで私のご主人様を責め立てるような言動、とても許しがたいです。次ご主人様のご意向に背くようなことを口にしたら——————殺しますよ?」

「へぇ、リオの手を煩わせたのはそっちという自覚がなくて? 拉致しておいて大きく出たものね。ここで息の根止めてあげてもいいのよ?」

「宣戦布告と捉えてもいいのかな。僕のリオに手を出した罪は重いよ?」

「なんでバトル始めようとしてんだよ!? やめてくれマジで!!」


こうしてパーティーメンバーが一人増える結果と相成った。

でも思っていた締め方と違いすぎるだろこれは!!

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