第32話 異変動(デート)、再び

拉致られたりその張本人たるメイドごとエナドリの本性に気づかされたりしたあの日から数日後。

約束通り、アレーナとデートするためシニアの噴水広場にやってきた。


「まだ活性化されてないのか」

「不気味だよね? 誰も動かない街って」


ベターな待ち合わせってやつに一度は体験してみたかったものの、あの日話してた通り後からフェリナも参戦して三人でのデートになるらしい。

したがって未だ世話になっていたアレーナの別荘から二人でこのシニアへ繰り出してきたわけだ。


「でも僕はわりと好きかな。リオと二人きりって実感がしてっ」


左腕にギュイっと重量感のある感触が微かにあがる。

相変わらずイベントがないままのゴーストタウンでデートもクソもない気がするけど………要するに、我慢袋の緒が切れる寸前ということらしい。

主にオレが最初に手をかけた二人の方が。


「共通ルートなんかこういうものかぁ」

「きょーつーるーと………?」


おっと、声に漏れてしまったか。

あれから数日経ってデートに繰り出した理由は他でもない。

街が活性化されずのままだったから。

お姫様のフェリナと侯爵令嬢のアレーナは当然お金持ちに分類されるものの、シニアがゴーストタウンのがらんどうのままじゃ豚に真珠も当然。


それだけではなく、例の“代役どもの検証”もできない。

うかつには動けないと判断し、シニアに再び色が戻るまで待機していたところ、フェリナとアレーナの我慢の限界が来たのでひとまずその火消しとして急遽デートに繰り出したのだ。


「まあいいかな、今度またじっくりと僕が分かるまで教えてね?」

「あ、ああ」

「そーそ、デートで行くところ決めてきたんだよ? 褒めて褒めて」

「マジで? 助かるなー」

「ふひゃ~」


褒めてと口にして隣から頭を突き出して主張してくるアレーナの頭を拘束されてない手で撫でさする。

こういうところ見るともうすっかり女の子だよな。


「僕を女の子にしちゃったのは他でもないリオだよ? ちゃんと責任は取ってもらわなきゃ」

「お手柔らかにな」

「無理かなー。あの日、僕の内面に寄り添ってくれた、受け入れてくれたリオだからこうして甘えられるんだよ?」

「は、はは………」


適当言ったつもりがどれも綺麗にど真ん中にホールインワンしちゃったのか——————!!


「偶然が重なっちゃった感じかな? 知ってたけどね。逃げられるとは思わないでね?」


腕に抱きつく力がひと際強くなった。

おまけにさっきからナチュラルに思考の盗聴使ってきてやがる。

こいつの初めてでヤった時の心境までバッチリ把握済みらしい。

察知されたら軽蔑されるか、はたまたバグが引き起こされるかと思ったけど斜め上を行く結果が出たのか?


「そんなに怖がらなくてもいいのにっ。そだ、デートの行き先のことだけどさ」

「あ、ああ。どこ行くか決めてきたって言ったよな」


深淵を覗く勇気が足りなくて逃げるのでは決してない。

そんな男の名に恥じる行為ではなく、これはデートのための一時的撤退だ。

せっかくのデートに過去の問題引っ張ってくる方がダサい。うん、きっとそうだ。

よし、雑念は振り払った。

アレーナとのデートに集中しよう。


「僕はどっちでもいいけどね」

「ひっ」

「怖がらないでねー。とにかく!」

「ダンジョンに行ってみようかと思います!」

「ダンジョン?」


そんなカッコで? なんて失礼すぎるか。

まったく予想できてない行き先を選ぶアレーナに戸惑いすぎたあまりオウム返しで言ってしまった。

ダンジョンか。


「リオからしての異世界——————リ・バギュー王国とその周辺が見たいんだよね?」

「ああ、だから裏設定の検証にこんなに熱を入れられているんだ」


イベントが見たいって気持ちも裏設定の検証にこだわるのも突き詰めれば『カノ檻の世界の全てが見たい』に帰結される。

それらを検証し未知の物に触れる楽しさも確かにあるが、結局のところ、単にこの世界の全てが知りたいという好奇心故だろう。


「ここ数日ね、ずっと考えてたんだ。どこに誘ったらリオが喜んでくれるかなって」

「そうなのか?」

「うん、僕はリオのしたいことが一緒にしたいって思ってるよ。リオの“色”でもっと僕を塗りつぶしてほしいって思うし、逆に僕に染まり切って欲しいって思ってる」

「でも君に危険に晒されて欲しくもない。よってシニアが動き出さない今がダンジョンを見て回るのにちょうどいいって判断したんだ♪」

「だからドレス姿のままダンジョン行こうって言ったのか………」


何があるかわからないからって改良されたこっちの衣装を着せられたオレだが(鏡で見たらすごく女の子っぽかった)、アレーナはまさに“デートに赴く清楚な貴族令嬢”の格好だった。

白が基調としたミニスカドレス姿。


ミニスカはいつかオレが口にしていたミニスカメイド服という単語に影響されたからだろう。

デートでは申し分どころか隣を歩くのが憚れるほどの華麗なる姿だけど基本ダンジョンにはあまりマッチしない服装。

なるほど、と得心がいく。

特に危険がない故にデートにマッチするのか。


「キミの居場所を突き止める際に調べてたから。イベントがないとダンジョンも機能しないよ」

「なるほど」


転移して初日に動物やら魔物やらの姿が皆無だったのもそれなら納得がいく。


「では行きましょう? いざダンジョンへー!」

「「しゅっぱーつ!」」

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