第36話 討伐イベントは裏設定の検証を添えて
『何故わたしがアンタたちなんかとこんなところに来なきゃいけないのかしら』
『そうカリカリすんなよフェリナ。筋肉は裏切らない、よって俺もお前を裏切らない!!』
『つまらない筋肉自慢いい加減やめていただける? モンスターに間違えられたくなければ、ね』
『そう通りですよアウロ―。ここはワタクシに任せてお暇してはいかがですか? フェリナ姫の相方にアナタはあまりにも相応しくない』
『なんだとしなっしなのもやし野郎。喧嘩売ってんのか? あぁ? 闇魔法以外、何も使えない陰険なヤツが』
もやし野郎って。ぷっ、くっくく………。
台本に書かれた通りのセリフしか言えないって知ってたけど実際耳にしたら何というかな。
腹が痛くて死にそうだ。
もやしって、くす、ふー………。
深呼吸してやっと冷静さを取り戻す。
「な、何? 急に魔法陣が光り始めたよ!!」
「イベントが始まったのか」
オレ達がやってきた入り口から声が響いた次の瞬間、紋様ごと魔法陣が赤き輝きが宿り出す。
声からしてフェリナの代役が居るのは確かだ。
続いてきた二人がアウロ―とミウなのはダンジョンのコアに響く声で推察できる。
前回は突っ立ってる姿しか見れなかった筋肉ダルマの声は記憶にある男らしい声で闇魔法使い呼ばわりされたミウの方は覇気はないものの芯はある声だった。
「どうしよかな? まとめてヤっちゃう?」
『もう少しここで喜ぶリオの姿を眺めてフェリナと合流する前まで独り占めするつもりだったのに邪魔したよね? 二人だけの時間に水差すなんて魔物以下の知性じゃないかな。魔法陣が発動したのを言い訳にしてまとめてヤっちゃうかな。うん、そうしよ。リオの身のためにはこれしか………』
「とにかく今は近くの柱に隠れるぞ………!!」
「——————確めてみたいこともあるんだ」
「あっ、ふふ」
光り出す紋様——————魔法陣の近くに倒れている形で配置された柱へアレーナの手を引っ張り二人で姿を隠すように隠れる。
オレ達が隠れた直後、魔法陣から赤色の光が点滅し、辺りを包み込むようひと際強く輝きが増して魔物が一匹召喚された。
ちょうどいいタイミングで代役のフェリナとアウロ―、ミウがコアの近くの柱に現れる。
「始まったか。指名依頼の試練、通称“ベヒモス虐殺RTAイベント”が」
「虐殺………え? え?」
RTAなんて単語に馴染みがないアレーナが戸惑いのあまり目がグルグル回り出した。
『ギョフォオオオオオオオオオオオオ!!』
『まさかのベヒモス………これは厄介ね』
フェリナの代役が苛立ちを隠せないまま語気を強める。
『ま、見てろよ。オレがヤっちまうからさ』
『フェリナ姫の役に立って見せましょう』
悪役令嬢が厄介そうって呟くとそんな彼女の点数稼ぎに攻略対象どもが我先にと手を挙げて名乗り出ていた。
ここまではどの悪役令嬢物にもあるセオリーの展開。
なんとここで『カノ檻』は選択肢が入っている仕様となっている。
筋肉ムキムキのアウロ―と未だ得体不明のミウ。
どちらか選ぶ方の手柄になるシステム。
「えええええええええええ」
隣にいるアレーナが驚きのあまり大声を発しては慌て片手で口を塞ぐ。
『ご、ごめん………! 驚きすぎてつい』
続いて思考の盗聴で慌てた感じのアレーナの声が頭の中に響いた。
フッとアレーナと目線を合わせたまま大丈夫という念を込めて優しく微笑む。
驚いても無理はない。
ベヒモスほどのドでかい魔物が何もしてないのにあっけなく倒れたら誰だって驚くのが普通の反応だ。
『ミウ………アナタ、結構使えるわね』
『光栄でございます。フェリナ姫』
『クソっ!!』
選んだキャラが功績を頂く仕様のイベントなら誰でも“当キャラの戦闘シーン”に想いを馳せるのは自然の摂理。
明らかにキャラの好感度に影響を及ぼすビックイベントだ。
だが、『カノ檻』では活かされず仕舞いである。
しかもこのイベントは好感度にさほど影響されないと噂されている。
まあ、女性向けのゲームでゴリゴリの戦闘シーンよりそれをネタにしてキャラ同士のきめ細かな感情描写入れた方がウケはいいんだろうなあ。
このイベントだって攻略に影響はあまりないが倒した側を選んだ途端、フェリナ視点でそいつへの感情描写とフェリナへ向けた感情が細やかに書いていたりする。
もちろん外野に過ぎないオレの視点からはまったく見えないしウザすぎる描写もないのでラッキーすぎるけどな!
予想外のイベントは会話から察するにミウの功績になってるらしい。
さてと。
「アレーナ、検証したいことがあるんだけど………」
「ダメ」
最後まで言い終える前にアレーナからダメ出しが飛んできた。
「危険な目に遭わせない前提でやってきたんだよ?」
「でもさ………」
「いっ!?」
想像できない強さで手のひらが握られた。
「痛い思いさせちゃってごめんね、でもどうしても行かせられないの。どうしても行きたいなら一緒にいこ?」
「でもそれはっ」
「危険に晒したくないのはリオだけじゃないよ? じゃあせめて近くに隠れさせて。ここまでが妥協案だよ」
何がしたいのかなんてお手の物と言わんばかりにオレが言う前に退路が全て絶たされた。
ひとりであいつらの前に出向いたら前回の代役どもとの真相が暴けられる。
それさえ分かればイベントに固執しなくて済むし、フェリナとアレーナが怪我する心配もなく済む。
オレの目論見なんかこの前、全部説明してしまったため筒抜け状態。
だから今、アレーナに止められた。
「どうしても不安ならメイドちゃんに回復任せればいいからね。一緒に行こう? 一人で………」
「っ………!!」
「ちょっ、リオ!!」
手に籠る力がほんの少し緩まった隙をついて柱の外へ飛び出した。
しかしどういう運命のいたずらか。
「ちょっとリオ!! アブナイ、よ……」
『………』
『………』
『………』
「へ?」
即オレに追いついてきたアレーナと一緒に前を向くと、飛び出した先にはこちらにやってきた三人、フェリナの代役とアウロ―、ミウの姿があった。
「っ………!」
アレーナが何とかしようと魔法を展開させる。
が………。
『うん、魔法陣も動かなくなったわ。帰りましょうか』
『指名依頼完了ってことか。ちっ、もやし野郎なんかに手柄を横取りされるとは』
『フェリナ姫の仰せのままに………横取りではなくれっきとした実力差ですよ? 筋肉バカが』
『なんだと!?』
こちらには目もくれず踵を返した三人はそのまま入口の方へ向かう。
「あれ?」
この反応………。
認知されていないのか?
ハチ公と王城やら学園に潜入した時と同じだ。
「相手にされなかった………?」
絞り出すかのようなアレーナの声に困惑の色が伺えた。
動かなくなったシニアはさんざん見てきたらしいがイベント最中に誰かと立ち合いして完全にシカト食らったのはおそらく初めてで戸惑っているのだろう。
「アレーナ」
「う、うん。ごめんね、強く手、握っちゃったりして」
「心配してくれたんだろ。それはもういい」
「フェリナの代役があっただろ? どうだ、姿形はハッキリ見えてたか?」
「あれが代役………」
今の反応、間違いない。
最初はひとりで検証してみるつもりだった。
しかしどういう天のいたずらか、アレーナのおかげで証明が出来た。
「アレーナ、ありがと。お前のおかげで裏設定の証明が出来たよ」
困惑したままのアレーナを抱き寄せる。
この気持ちが届くよう、強く、しっかりと。
「僕は心配で追いかけただけだけどね」
「それで何がわかったのか、聞かせてくれないかな?」
「今日デートが終わったら話すわ」
かなり大きな一歩だ。
後はこの世界を堪能するのだけと言っても過言ではないくらい。
「二人だけの秘密が欲しかったな? なあ? 心配させた罰として欲しかったなー」
「ちょっ、後でしっかり説明するから突くのやめろー!」
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