第37話 ヤンデレどもとのデートはままならない
「お帰りなさいリオ。では行きましょうか」
「まだ僕とのイチャイチャタイムの途中だよフェリナ。魔物の餌になりたいのかな」
「あら、それはお昼ごはんが済ませる前までの約束ではなくて?」
「ぐぎぎっ………」
ダンジョンデートを済ませた昼下がり。
突発イベントに遭遇した後、特にダンジョンで二人きり楽しめるコンテンツなんてなかったため話し合いの結果、結局シニアへ戻るこのになった。
「出迎えってこんな神経使うんだっけ」
なんて独り言が呟きたくもなる。
シニア付近に近づくとフェリナが待ち構えていた。
エナドリをパーティーに入れたあの日の約束通り、このまま三人でデートに向かうのは既に決定事項になったらしい。
さっきまでアレーナと楽しく過ごしてたからなんとも言えないいたたまれない感に包まれる。
「旦那様を出迎えるのは嫁の務めであり特権なのよ? では行きましょうか」
「うゎっ………」
左腕にフェリナが巻き付くように抱き着いてくる。
当然柔らかいたわわな二つのおっぱいも吸い付いてきたから反射的に間抜けた声が漏れてしまう。
『もっとリオと二人きりで過ごしたかったな………具体的にはあの時みたいに蕩けるひと時まで過ごして“リオのモノ”って刻み付けられてから合流したかったなあ』
思考の盗聴の使い方うますぎるだろ。
相手の喜ぶ姿が見たい前提で己の欲望全てぶつけて来やがる。
さすがアレーナ、他人の気持ちに寄り添うのが上手という設定は女の子ってバレてからも健在なのか。
「と、とにかく行くぞ。話したいこともあるからな」
「「は~い」」
二人を見捨てる形で出かけたのはこれでチャラになっただろう。
後ろめたさ故に尻に敷かれ続ける日々もこれでお終い。
先ほどのデートで検証できたことを伝えてオレは本来の目的のために動くか。
両腕に抱きついて仄暗い視線が飛んでくる二人を見ながらもそんな無駄な足掻きを決めるオレだった。
「やっぱ活性化されていたのか」
「リオとデートって思って浮かれすぎてたせいで伝えそびれたわ。シニアに活気が戻っていたのよ」
「リオの好みがわかるチャンス………リオの胃袋が僕の色に………」
「お前色に染まったりした日には何も消化出来なくなるから無理だ」
「ひどっ!?」
アレーナは他では他の追随を許さないが料理だけは本当にダメだ。
胃袋の鉱石化が死因になりたくないのでさすがにツッコミ入れて黙らせておく。
ダンジョンでの遭遇イベントがあったからもしかしたら? という予想はまんまと当てはまっていた。
噴水広場に戻ってくると活性化された数日ぶりのシニアの全様が両目に飛び込んでくる。
「これでこそシニアだな」
広場前で話し合いするNPCや時々聞こえる子供たちの無邪気な声。
初日と保存食の買い出しの時のような特有の喧噪が内心恋しかったのかもしれない。
『カノ檻』の裏側がひとつひとつ知っていける裏設定の検証はもちろん楽しい。
けどやはりメインと言えばゲーム異世界でしか味わえない街並みの喧噪と料理などが上げられるだろう。
こちらの世界が堪能できる要素にしてはどこか物足りなさがあるんだよな。
「リオは何か食べたい物とかあるのかしら」
ひとり感慨にふけってうんうんと頷いていたら左腕に抱きついたフェリナからの質問が飛んできた。
「最初に食べたサンドイッチ以外、何も口にしてないからなんとも言えないな」
転生した直後はまずこの世界の主人公、フェリナの好物から攻略して幅を広げていくつもりだった。
まさかイベントがないと動かない裏設定が潜んでたためその計画はパーになっちまったけど。
「そ、そうだったのね。わたしの好物が………」
「食べたいジャンルとかあるんじゃないかな。それ教えてくれたら………」
「そっかその手があったのか」
またしれっと思考の盗聴使ったらしきフェリナが勝手に照れ始めたその時、右手を恋人繋ぎで繋いだまま腕に抱きつくアレーナから一ミリも想定していない提案が飛んできた。
ジャンルから絞っていく。
さすがに盲点だった。
「肉料理もかなりそそられるけど………デザートも捨てがたいな」
「デザート………」
「ちなみに言っておくけどメイン料理は自分でデザートは感想とか寒いからやめろよ?」
「………………か、考えてないけどね」
なんだ今の間は。
一昔前の下ネタに本気にしちゃうヒロインの反応じゃなかったか?
こんなしょうもないギャグを口にするほどには浮かれているのか、俺も。
「はっ、ごほんっ。肉料理にデザートね。それなら行きつけの店があるわ」
「こっちよ」と腕を引っ張られるがままフェリナについて行く。
結構な強さで引っ張られたので転びかけたところをアレーナから水の流れるような動作で反対方向から引っ張ってくれたおかげで何とか元のペースが保てられた。
「今のはさすがに強すぎたよ? 僕がなかったらリオが転んで怪我してたからね。もう少し気配りできないの?」
「アンタがなければ転びかけたりしなかったのではなくて? 自分が足手まといという自覚はないのが救いようがないのよね」
「その言い草はなにかな? 三人でデートだからもう少し気配りをね——————」
「それなら尚のことよ。リオにメチャクチャ求められる妄想してたせいで腕に力が入りすぎて邪魔したのは誰でしょうね?」
「ぐぎぎっ………」
観察眼スゲ………。
右腕にほんの少しだけ力が入ったのはさすがに気づいたけど返って転びかかることに直結するとは普通に考えが及ばなかった。
妄想の世界に飛んでてこちらが見えてないゾーンに入ってるのでは? というのは早とちりだったらしい。
しっかりと見ている上に原因を突き詰めてアレーナを黙らせた。
「こう見えてもわたし、アナタのことなら何でも見ているし知りたいのよ」
その一言に何故かゾクッと背筋が凍る。
「そ、そうか」
無難にやり過ごすのが得策だって身を以て学ばされたんだ。
ここで片方に構いすぎたりすると最悪の場合、デートどころじゃなくなる。
「ぶーぶー」
「リオ………」
「ん?」
「僕、そんなつもりじゃ………傷つけて自分の色にとかそんな物騒な考えなんかしてないから。誤解だから」
適当に場を収めて食事に行こうとしたらまた妙な展開になっていた。
今にも潰れてしまいそうな思いつめたような視線と壊れてしまった大事な宝物を元に戻そうと奮闘する時にありがちな弱々しい握り方になったアレーナからそう訴えられる。
「えぇ………………」
不安に陥る要素あったのか?
「ヤンデレどもとデート本当ままならねぇ………!!」
読み切れない展開の続きに頭を抱えながら、フェリナおすすめの店へ赴くオレ達だった。
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