第38話 まさかのバグオチ

「さっきは気が動転しちゃって………迷惑かけちゃってごめんね。リオ」

「いいよ。人間、ヘラる原因なんか人それぞれだし」

「ヘラる………?」


知らない言葉に首を傾げるフェリナは可愛いけどひとまず置いといて。

フェリナおすすめの食堂、“ポ・クラーヌ”の席の端にオレ達はやってきた。

このままではさすがに楽しいデートどころか最悪の一日で締めかねない。

これがパーになったら今後に差し支えるかもしれないと判断してくる途中、抱きしめるアレーナの頭をひたすら撫で続けた。


それを目の当たりにして黙っているフェリナではない。

『わたしの頭も撫でなさい』とか『今のメインはアレーナだけど夜のメインはわたしよ』など、無理矢理思考を読まされていたもののなんとか黙って突き通したのだ。

最後の『帰ったら犯す』はさすがに怖かったけど、表向きは平穏なデートのままだしいい………のかな?


「ご注文を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ミーハーかしら。わたしよ」

「フェリナ様、お久しぶりです。近頃、お姿をあまりお伺えしておりませんでしたけど」

「え、ええ。ちょっと公務で忙しかったわ。雑談は後にしましょ? こちらの“フィロージュ”を三つ頂戴」


「かしこまりました。ふふっ、少々お待ちください!」

「さっきの店員、知り合いか?」

「ええ。ここは家族で密かに来ていた食堂でね」

「先ほど注文した料理、フィロージュは強火に焼いた食用できる魔物の肉を香辛料と一緒に聖水で長時間調理するのが特徴よ」

「聖水って………」


こちらの世界でポーションの原材という設定だったか。


「アナタの思うそんな物ではないから安心することね。とにかく聖水が入っているおかげで魔物肉特有の臭さが完全に抜けて長時間焼いた肉本来の味にそっと漂う香辛料の香り、そして聖水のおかげで温存されたもちっとした食感が楽しめるわ」


「どんな味かまったく想像は付かないが………とにかく美味そうだ」


フェリナはかなりの美食家だ。

ゲーム本編のアレーナルートで何となく察しはついていたものが一緒に暮らす(強制的)ことになって確信することが出きた。

こうしてどんな味か細かく噛み砕いて説明まで欠かさない。

さらに料理の腕も抜群であり、自我が芽生えた後からはオレ好みの料理を感覚だけで作ってくれている。

まさに胃袋を掴みにかかってきているのだ。


『よくわかっているじゃない。これは言わば前準備みたいなものよ? アナタの好みはなんでも把握して将来、アナタのためだけで作ったわたしの料理以外、脳と口が拒むように仕向けているんだから』


「そういうリサーチついでのデートか」


胃袋どころか口と脳の調教はまた突飛すぎる。

さてと。


「食事中に話したりなんてしたら集中できないだろ? だから前もって説明しとくよ」

「——————ええ」

「っ——————」


ほんわかしていた雰囲気から一変、ラスボスに対峙するような緊張感が向こうに座るフェリナとアレーナから発された。


「そんな緊張しなくても」

「いいえ、リオが分かった情報次第で今後の立ち振る舞いが大きく変わるわね」

「キミが安全に過ごせるか過ごせないかがかかってるんだもん。僕たちに気にしないで続けて」


心配はありがたいけど………なんて、今口にしても受け入れてもらえる確率は皆無だろう。

じゃあオレはどう振る舞えばいいか。

そんなん決まってることだ、核心だけ簡潔かつフラットに伝えて場に満ちる緊張をほぐすまでだ。


「じゃあ単刀直入に要点だけ言うぞ——————」

「ええ」

「お願い」

「——————あれはバグだった」

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