第45話 久々の冒険

小屋から出かけると先ほどまで閑散としていたシニア全体は賑やかな人々の喧噪に包まれていた。


「お前と出かける時はいつも活性化されてる気がするな」

「ギュイ?」


『違うよ?』というニュアンスの鳴き声を発し、頭がポンポンと二回叩かれた。

蜂のはずなのに感触がすっごいやわっこい。

魔物の神秘なのかこれが。


「ごめんって、いやー遭遇しすぎたからかなあ」


まあ向かう先々、とにかく活性化されていたからなあ。

いや違うか。

フェリナに遭遇できた最初の旅ではむしろ活性化されてなかった。


「さってと、とりあえず噴水広場に向かうぞ」

「ギュイッ」


シニアが活性化されているものの、どのイベントがきっかけで活性化されたかまではまったく想定できてない。

フェリナの見たさで始めたゲームだ。

ルートの内容なんて単片的にしか脳に入ってない。

なら全域が活性化された時はひとまず何か起こりそうなところへ向かうのがオーソドックスってもんだろ。


「ギュイッ」

「嬉しいの? よかった」


前方にあるのは賑わう人々だらけで変わったことは何もない。

なのに突然鳴いたので上を見ようとすると『嬉しい』のニュアンスが籠った鳴き声がしたわけだ。


「久々にサンドイッチ食べたいけど我慢するしかねぇ………」


パーティーのみんなのために出かけてきたのが最初の目的だった

かと言って命の恩人を見捨てて行くのは人間として違うと思い出かけてきたわけだが………。

何故かバレたら危険だと体内から警鐘が止まない。


「位置情報なんか筒抜けだが何してるかまではさすがに察せないだろうし」


材料も確保できたことだから特に後ろめたく思う理由もない………よな?

ブンブンと頭を振ると頭上のハチ公がびっくりするから己の頬っぺたを軽く叩く。


「弱気になったってしょうがないよな。さてと」


噴水広場の前について何かやってないかきょろきょろと辺りを見渡す。

特に変わった様子のない数回目にした馴染みあるシニアの喧噪だった。

特別国をあげた何かのイベントがある時のような緊張感やらワクワク感はまったく伝わってこない。


「ギュッ」

「こっちじゃないのか………」


ハチ公の『ここ違うっぽい』というニュアンスの鳴き声。

その音色に哀愁というか憂いのような何かが感じられる。


「次行くぞー? 何湿っぽい声出してんだ。まだまだこれからだぞ」

「ギュィ?」

「や、いいのじゃなくて誘ったのオレだからさ。ここで『なんもないならしょうがねではまた~』なんてゲスの極みじゃん」


命の恩人への態度云々の前に人として終わってる。

それに元々はハチ公のご機嫌取りもかねて一緒に冒険するため出かけて来たわけだ。

このまま終わらせるのはこっちが勘弁だ。


「オーソドックスに王城から攻め込むか」


イベントが起きたから噴水広場前って改めて考えてみると安直すぎる思考だった気がする。

そう、むしろシニア全体が動くほど影響力あるイベントが起きる場所から順に当たるのがセオリーだ。


「ギュッ!!」


頭の上に乗っかるハチ公がオレの頭を優しい手つきで撫でさする。


「んっ………」


結構うまい。

それに何故か物凄く安心感が胸の奥から流れ始めた。

感覚だけなら『心配してくれた幼馴染みへのご褒美の頭撫で』に匹敵するレベル。


「絵面はシュールすぎるだろうなぁ………」

「ギュイィ?」


クソでか蜂に前足で頭撫でされて顔が綻ぶ女子の図。

傍から見たら絶対ヤバそうな一面にしか映らないだろう。


「………行くか」

「ギュイッ♪」


楽し気な鳴き声だが、人々の目にどんな風に映るか考えたらなんか死にたくなった。

もうちょい屈強な見た目だったら魔物の手懐けを成し遂げた前代未聞の漢っぽく見えた。


「誰も連れてきてなくてよかった」


かなりシュールな………アブナイ光景に映って魔法飛ばして来たかもしれない。

そんなあったかもしれない妄想を胸に、王城へ向けて歩みを進めるのだった。

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