第44話 恩人のご機嫌取り
久々に我が小屋へと帰ってきた。
『カノ檻』の世界で初めて目覚めた時、真っ先に目についた木造の室内。
懐かしい感覚が身体に染み込んでいく。
「………ギュイ?」
「ハチ公か? 帰って来たぞ」
「ギュイッ!!」
「うがっ!?」
命の恩人たる蜂型の魔物に帰宅したことを告げると全力の頭つきにみぞおちがえぐられる。
そのまま後ろへ倒れこんだ。
「いってえだろうがっ………」
「………ギュイ」
「ごめんごめん。やっぱり心配かけちゃったのか」
「ギュイ、ギュイっ」
ハチ公の鳴き声はいかにも『ものすっごく心配したんだからバカぁ』みたいに聞こえた。
同じところを延々と頭でグリグリしてきてる。
「痛い、痛いから。悪かったから」
ラブコメ物の幼馴染み感がパない。
ま、見た目がクソデカいスズメバチなので傍から見たらシュールな光景に間違いないけどな。
「ギュイ!? ギュイ、ギュイっ」
「どこ行ってたのって? あ——————」
もしかしてこいつ、魔法で眠らされて持ち帰りされたところご存じでない?
軽く見積もってもあれから三週間以上は立ってるはず。
「そりゃ心配するだろ………」
こればっかりはオレが全面的に悪い。
どおりで出合い頭に頭つきが見舞われたわけだ。
「あ、後で全部話すからとりあえず外、出かけない?」
話の反らし方下手すぎるだろ。
それなら正面から突き抜けろって話だが時と場合によって正直さは返って毒になる。
死ぬほど心配した相手に『オレ実は拉致られててー』なんて言ったらどういう反応が返ってくるか言わずとも想像できるだろう。
『カノ檻』にやってきて散々身をもってわからされたんだ。
同じ轍は踏まんぜ。
「ギュイ」
今の一鳴きに『後で洗いざらい吐かせてもらうから』が凝縮されたらしいけど気のせいじゃないだろう。
それでも一時的釈放になったのでそっと胸を撫でおろす。
「しっかり話すから機嫌直してくれ、頼む」
心配したであろう命の恩人ごとパートナーにハグしようとしたら腹の上から扉の方へ飛んで行くハチ公。
その姿は先ほどの心配げなモノと違って幾分かワクワクしてるようにも見えた。
メチャクチャ心配したのは事実だろうけど、こいつからしたら久々に一緒の外出になるんだ。
後でしっかり聞く前提で今はゆるしてくれたんだろう。
「ギュイッ!」
『早く!』というニュアンスのお達しの鳴き声が飛んできた。
「あいよ。んじゃ久々に一緒に行くか」
苦笑交じりに答えて玄関に向かうと縮んだハチ公がオレの頭の上に乗っかってきた。
この感覚も久しぶりだな。
「その前にちょっと待って」
料理にはちょっと不向きな厨房の方へ向かい、買い込んでおいた保存食の中から香辛料全て持ってきた魔法袋に詰め込む。
これ買う当時は持ち合わせの金もなかったから三つほどしかないけど多少なりとも役には立つだろう。
ま、これだけじゃ足りないんだったらシニアが活性化された時にでも買い込んでくればいいか。
「今日はよろしくな、ハチ公」
「ギュイッ♪」
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