第18話 (アレーナ視点)リオの能力と狂気の共有宣言

「寝かす必要はなかったんじゃなくて?」

「いい女は夫が他の女と寝た時、どう立ち回るかわかる?」

「突然ね」


突飛すぎる僕の質問に元婚約者のフェリナの顔に戸惑いの色が広がる。

これはちょっとしたお試しかな。

彼に彼女が必要か必要ないか。

僕と同じ意思なのかどうかを賭けた、まさに賭博。


「その女を懐柔するか、毒になると判断した場合は静かに息の根を絶つ以外ないんじゃなくて?」


まさに僕の心境を代弁してくれるかのような澄ました物言い。

この女はやはり侮れない。


「やっぱり“二番目”の女は違うね………侮ってたよ」

「あのね、言うけど時期的に多分わたしからよ?」


どすっと眠った僕だけの王子様に本能的に抱き着く。


「僕の全てを受け止めるって言ったよ?」


「わたしは“キミの全部を委ねて”って言われたわ」

「………っ!!」

「僕だけ見てくれるって言ったもん、僕しかないって言ったもん………!!」

「子供みたいに駄々でもこねる気かしら? 滑稽だわ。こんなのに劣情抱いてしまったリオに同情の念しか湧いてこないわね」


自分の男が他の女に走っていた虚しさ、奪われた怒りなど負の感情が胸の奥で渦巻始める。

しかし目の前の恋敵の劣情というキーワードのおかげで本来の目的を思い出すことができた。

そっとリオから離れて憎き姫様に近づく。


「手を組まないかな」

「何? 今更弱気になって助けを乞い出したのかしら? あーあ、人より人の感傷に寄り添える伯爵家の息子、いや娘ちゃんらしいねぇ」

「リオの能力、気づいてるでしょ」

「………ええ、自分がその恩恵を授かってるもの」

「リオは自分の“想像再生”能力に気づいていないよ。おそらくね」

「想像再生ね………」


リオの能力に関するワードだって本能で気づいたのか、いつになく真剣な様子でフェリナが頷き返す。


「“真心の籠った愛の言葉”がキーワードかな。直感的にだけどね、中に出すのはその余剰の魔力の発散に過ぎないと思うよ」


僕が初めて意識を取り戻したのは行為の最中、正確には彼から心が温まる言葉を授かった瞬間からだった。

その前提で考えてみれば答えなんかすぐに出る。


「それならいくつか合点がいくわ。具体的には言葉で心が宿り、中に出すことで元の身体が自由に動けるようになる」

「だから心で魔力が感じられたのかな」


確かに、その通りかも。

考えてみれば気がついたのは行為の途中からだったけど、身体が自分の意思で動かせたのは行為が全部終わった後からだった記憶がおぼろげながら残っている。

フェリナの指摘でようやく彼が見つかった合点がいった。


だからこそだ。

僕だけ見て欲しい、他の女に目線もくれて欲しくないけど、彼女と手を組まざるを得ない理由がそこにある。


「だからこそ手を組む必要があるよ。このままじゃ間違いなく彼はいずれ死んでしまう」


リオには魔法が使える自覚が全くない。

僕に話してくれた内容に基づいて考えると………彼は男らしさ、つまりハーレムとかに強い憧れを抱いている。

魔力の問題など些細な問題じゃない。

彼はまったく気づいてない故にあるもっとも大きい問題。


「きっとそう遠くない未来に彼が手を出した女の中の一人が暴走して殺してしまう!!」

「浮気クズ野郎のありふれた末路ってとこかしら………確かに、その詰めが甘いわ」

「わたし意外のポット出の女なんかとやってほしくないし」

「僕も同じだよ。このままリオと添い遂げたいし、もっと色んな世界が見てみたい」


僕が婚約を反故にした当時には決して思えない圧が、愛の重さが、そのポツリと漏れた一言に込められている。

先ほどから欲しくてたまらないという情感こもった視線を眠っている彼へ向けているのももちろん気づいてる。

自分も同じ顔をしている自覚はある。だって大好きなんだもん、仕方ないことだよね?


「おそらくこの魔法の最大のリスクというか短所は相手の心に大きく作用するところね」


彼女の言葉に首を縦に振るう。

同意する以外できない、だって僕も彼女も実際、彼に心を奪われたんだから。


「それに絶対気づいてないけどピンポイントで弱い部分をついてくるよ。その上で安堵させてくれるからたまらないよね」


リオにとってはある意味最高の能力かもしれないけど、される側としてはたまったものじゃない。

スッと心に入ってくるけど何故か拒みたくない、それでいていつまでもそばにいてくれる安心感をくれる。


まさに愛に狂わされて、その人がないと一分一秒さえ辛く感じるようになる。

愛情でおかしくさせるいわばヤンデレメーカー魔法ってところかな。くっ、なんていやらしい………!!


「それなら手を組むのもやぶさかではないわ。お互い常に一緒にいる、どうしても留守しなくちゃいけない場合はローテーションでってところが妥協点かしら」

「そこら辺がお互い譲り合えるラインかな」


がしっと瞳が定まってないフェリナと握手を交わす。

きっと僕も全く同じ瞳をしているだろう。

それから僕たちはこれから先リオの寝床はどうするか、今後のあり方などをひとまず取り決めておくためぐっすり眠るリオの傍で議論し始めた。

ああ………これで、ようやくいっぱいアイスルコトガデキル。

もう逃がさないからね、リオ♡

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