第53話 浮かび上がる黒幕説

左斜めの方向から剣呑な雰囲気を纏った叫び声が鼓膜に響いてくる。


「わたしがやるわ。アイスシールド!!」


その隣にあるらしきフェリナが氷魔法使ったのか目の前に氷の盾が展開される。


「えっ………」

「ちっ、エナドリっ!!」


突然の出来事に困惑のあまり硬直したエナドリを抱き留めてうつ伏せで地面につっぶす。

ほどなくフェリナのアイスシールドに魔力がぶつかる音が轟く。


「怪我はないかしら、リオ」

「ついてきて正解だったね。大丈夫? リオ」


後ろから駆け付けた二人はまるでオレ達を守るように前に立つ。

デートに乱入してくる理由なんて一つしか思い当たらない。


「バグルート………か」


その独り言に肯定したつもりか先ほどまで最高の劇を繰り広げていた代役の二人が姿を現す。

なるほど。

どういうわけでバグルートに突入したかは知らんがそうやすやすと逃してくれそうにないことだけはわかった。


「いっ………!」


何か出来ることはないか頭を巡らそうとしたところ、足の方から突然痛みが走る。

エナドリ守ろうとして余剰の魔力にやられたのか。

足が見えてるらしき代役どもの態度が困惑してるように映るのは突然の状況に脳の処理が追いついてないからだろうか?


『ヒール』


温かい何かが足の方から広がる。


「心配いりません。ご主人様」

「エナドリ」


温もりが広がる足を見やるとエナドリの両手が重ねられており、それを軸に暖かい光が広がっている。


「まさか守っていただくなんて、果報者ですね。私は」


痛みが徐々に和らいで心なしか体調までよくなった気がする。

回復まで追加でしてくれたのか?


「ありがとう。エナドリ」


礼を口にしつつ立ち上がった。


「やっぱりか………」


何一つ裏切らない想像通りの光景がそこに広がっていた。

対峙するように立っている代役どもとフェリナ達の後ろ姿にまったく気づかずいつも通りの日常を謳歌するようなシニアノ住人達の姿。


「ご主人様」

「ん?」

「私はフェリナ様とアレーナ様の回復役に回ればよろしいのでしょうか?」


エナドリがもっともらしいことを口にしてきた。

オレの怪我に少なくとも動揺はあったはずだ。

それを表に出さず、状況を分析し最善策を捻り出す。

メイドとしての経験値高すぎないか、この子。

さすがアウロ―のメイドといったところか。


「それもいいけど、念のためオレ達は別行動に出るぞ」

「と、言いますと?」


エナドリに向き直りつつ様子を伺う。

一見一触即発の状態に見えるが何故か向こうから攻めて来たりしてない。

お互い睨み合ってるだけだ。

説明が終わるまでどうか戦いが始まりませんようにと祈りながら頭の中に掠めたある可能性について口にした。


「以前、代役どもの襲撃があった時、偶然だけど三人で落ち合っていたって前に話してただろ?

「そうですね。イベントかと思ったら何故か攻撃してきたと」

「さっそく攻撃が飛んできてたがこの前のアレーナとのデートの時も、そして一人で出かけていた時も襲撃されてない」

「お二方と代役の二人が揃った際に襲撃、つまりバグルートに突入する………ですか?」


説明聞いたらここまで言えば誰にでもわかる内容だ。

が、本題はその先にある。

だったら今、オレ達が襲撃された証明にならない。


「代役のお二方に命令を仕込む何者かがいるかもしれない」

「………!!!」


何が言いたいのか察したらしきエナドリが目を見開く。


「確かに、それでしたら最初の邂逅の時もアレーナ様とのデートの時も納得できます、ただ………」

「今回の攻撃が納得いかない、だよな?」


ごくッとエナドリが頷く。

今回の襲撃は明らかに不自然だ。

仮説として立てていた二つの前提が破られたんだ。何物かの意思が絡んでるとしか思えない。


「ひとつは最初の襲撃があった時の話だ。“二人が代役の自分に遭ったら”が代役の攻撃、つまりバグルート突入の合図って考えられる」

「今回はそれが破られて私とご主人様しかいませんでしたけど攻撃が飛んできました。お二方は私の予想通り尾行を続けていたみたいですが………」


そのせいで責めるに責められませんとボソッと拗ねた口調で呟くエナドリ。

狙ってやった行為が巡り巡ってオレ達の役に立って口実になりそうって思ったんだろう。

特別な日には案外拗ねやすくなるっと。


「そこだよそこ。そこでやっと気がつけた」

「えっと………?」


「代役はあくまで代役、今回は“まだ”遭遇してなかったのに攻撃が飛んできたんだよ。魔力が感知できるはずがない」

「っ………!!」


正確には姿形確認せず魔力のみで判別ができない、か。

それら全て含めた上で納得いく答えは最初に言った黒幕説しかない。


「それにオレはここにいても足手まといでしかないんだ」


オレの立てた仮説が全て妄想だったとしてもだ。

魔法がまったく使えないオレがここにいたところで二人の邪魔にしかならない。

エナドリへの説明も済ませたことだ。

二人が思考の盗聴で覗いている可能性にかけるしか………。


「バッチリ聞いていたわ。二人はその黒幕探しに先に行ってちょうだい。後から合流するわ」

「今更メイドちゃんも危険だから一人で。なんて言わないでね? 心配になっちゃって本気で戦えなくなっちゃうよ」

「今更言わないよそんなこと。二人に大切にされまくってたせいで元の目的そっちのけてたくらいだぞ?」


胸の奥に何か込み上がり、混ざり合っていく。

戦闘の役に立たないオレにでも出来ること。

二人にしてあげられることってなにがあるのか?

必死に頭を巡らせてある答えにたどり着いた。

死ぬほどハズイけど………やってやろうじゃあねえか!!


「だ、大好きだぞ二人とも!! がんばれ!! 全部解決出来たら言うことなんでもひとつ聞いてやるから!!」

「………!!」

「………ぽっ」


うわっ、こっぱずかしい!!


「い、行くぞエナドリっ」

「あっ、ご主人様、そんなっ!!」

恥ずかしすぎて強引にエナドリの手を掴みそのまま後ろへと走り出す。

生まれてこの方、ありのままの感情伝えたことなんてなかった。

それがまさか異世界で初体験できるとも、戦闘勃発寸前で言われるはめになるとも思ってなかった。

恥ずかしいけど同時にスッキリしている。

オレの一言で二人の役に立てたらなんてガラにもないこと思いながら活性化しているシニアをかけぬけるのだった。

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