第56話 フェリナとアレーナの本気

ギルドの位置共有スキル頼りに実家ごと王城へわたしたちは向かっている。


「リオの言っていた後ろで操ってるやつが本当にいたなんて」

「だよね、正直なところハズレて欲しかったな僕は」


感情の読み取れないトーンで言うアレーナ。

その言葉と気持ちにまったく同意見だわ。


「リオ………」


的外れな推測でケロッとしたどこかバツの悪そうな可愛い顔で『ごめん、オレの勘違いだった』なんて言って戻って来て欲しかった。

それが妄想だってわからされたのは姿がハッキリ見えるわたしたちの代役の相手を引き受けて間もない頃だった。


前回はまったく通じなかったはずの魔法が今回は少しだけど通じた。

そこに対して別に不思議に思ってない。

リオの心からの応援に想像再生が発動されたのね。

これでやっとあの時の仕返しが出来るわ。

生まれて初めての熾烈な戦いだった気がするけど周りの、シニアの住民たちはまったくの無関心。


それどころかすり抜けるなんてどんだけ都合がいいのよこの世界。

たまにリオが口癖みたいに言っていたご都合主義というやらに呆れ半分、今度こそリオのこと守ってあげられると己を奮い立たせこと半分だったその時。

わたしたちの代役が突然、姿を消した。

デートの時もこういうことあったのか後ろにあるクソ令嬢に問い詰めようとしたけれど、戸惑いと混乱の混じった顔で見つめ返すばかり。


吐き気がするほど嫌な予感がして慌ててリオはどこにいるか位置共有スキルで調べてみたら王室からまったく動いてない。

クソ令嬢ごとアレーナは念のため駄メイドの居場所がどこか確認してたらしいがこっちは王室にいるらしいけど今のところ居場所は測定不可能。

どちらともなく王城へ駆け出した。

魔力全開で、一刻も早く彼の元へ向かうために。


(無事でいて頂戴、リオ………!!)


・・・


「思ったより早かったね?」


位置共有に示し出されるところを辿ると王室の前。

デカい扉を開き、中に入ると玉座に眠っているリオがいた。

知らない角の生えた赤髪の女は余裕綽々な笑みでほざいている。


「助けに来たわ、目を覚ましてリオ!!」

「僕が来たよリオ。早く起きて!!」

「キャハッ」

「………何がそんなにおかしいのかしら?」

「おっとこっわ~」


感情任せでリオの隣にいる虫けらに氷の槍を飛ばしたけどケロッと躱わされてしまう。

ほんと、気に食わないわね。


「代役操ってリオの好奇心につけこんでたぶらかすなんて、あなた何者?」

「思ったより頭いいんだ。以外―」

「なんで!?」


マグマ魔法の応用で天井からこっそり入って来たアレーナの攻撃もひょいっと交わされてしまった。

この女………。

只者じゃないわ。


「これでリオの嫁は全部そろったかな?」

「うぇ?」

「はぁ?」


嫁ってあの嫁かしら?

好きな人と結婚して未来永劫正式に結ばれたあの嫁?

わたし以外の女が近寄れないって正々堂々言えて自分というひとつの世界に閉じ込められるあの嫁?

わたしがリオの傍にいて至極当然な存在。一緒に歩みを進める存在って敵であるあの謎の女があっさり認めちゃったのかしら?


「うへ、うへへ………わたしがリオの嫁………」

「僕がリオの嫁って、どうしよ………嬉しすぎて、いひっ………」


どうしよ。

リオのこと攫って眠らせて椅子に縛り付けちゃった敵に言われたことなのに嬉しくて仕方がないわ。


「ええ、わたしがリオの“嫁”で合ってるわ。見る目あるじゃない」

「そうだよ? 僕がリオのお嫁さんで合ってるよ。一歩間違えてなければいい友達になれたかもしれないのにね」


ヤバい女の後ろにいるアレーナがすっかりメスの顔に仕上がっているわ。

本当醜いわ。都合のいい単語言われたからってあんなに目まで蕩かせてくねくねしちゃって。


『他人のこと言える立場かなクソ姫』


うるさいわね。

後思考の盗聴なんかわたしに使わないで頂戴。リオ以外の心の声なんか聴いてるわたしの心が荒んでしまうのよ。

ま、クソ令嬢の言葉には同意かしら。

一歩間違えてなければ………正確にはこのバカみたいな茶番さえ起こしてなければいい友達になれたかもしれないのにね。


「やっぱり動いて正解だったかな。はぁ~」


リオから離れて一歩、二歩前に出る赤髪の女。


「こ~んなヤバい女たちとパーティーなんか組んじゃって………本当、うちのリオったら世話が焼けちゃうな~」

「………は?」

「魔物にとってパーティー=生涯この人以外と歩かないいわば結婚の誓いと同じ意味でさ」

「想像再生で動かない他の女と甘いひと時に過ごす分にも情にほだされて恋人ごっこしちゃうまではいいけど………あたし意外とのパーティーは論外だよね」

「っ!?」


目の前の女中心に魔力が脈打ち始める。

心臓が各臓器に血液を流し込むかのようにドクン、ドクンと動くようにあの女に凄まじい魔力が集中し収縮されて行くのが感覚でわかる。

アレーナは念のため後ろからこっちに来た。


「アイス・ハリケーン!!」


本能が警鐘を鳴らしまくっている。

もはやリオが動いてるくらい激しいレベルで。

あれだけの魔力の塊喰らったら終わりなのよ?って。


「………へ?」


リオに当たらないよう気を付けながら避けられない出力で飛ばしたはずなのに………。

またあっさりと避けられた。


「ねえフェリナ」

「なによ。今話してる場合かしら?!」

「なんかおかしいよ」

「何が!?」


「あれだけの魔法が使えるのにどうして僕たちの攻撃だけ躱してるのかな」

「魔力溜めて一発ぶっ放すつもりでしょ、バカなの? リオに抱かれてないからそれ以外何も考えられなくなったのかしら発情メス豚」

「それキミも同じだから毒姫。それじゃなくて最初の方」

「あれだけ大規模の魔法が使えるなら僕たちの攻撃なんか躱す必要あったかな」

「あれ………?」


完全に見落としていた。

憎き公爵令嬢に言われて初めて気がづく。

確かにこれだけの魔法が使えるならわたしたちの魔法なんか避ける必要もないはず。

何かしら大魔法のため魔力を溜めこむ今ならいざ知らず、最初のわたしの攻撃だけは避ける必要なんてなかったんじゃないかしら。

相手の心を折るだけなら真正面から打ち消した方が力量の差の見せ所。


「………なるほど。そういうことね」

「何か分かったのかな?」


リオ以外に思考の盗聴で話しかけるのすらおぞましいけどひいてはこれもリオのため。

はぁ………とひと際長いタメ息ついてわたしはクソ伯爵令嬢に心の声で話しかける。


『慌てないで聞いてちょうだい。目の前のあの女はリオが言っていたダミーデータの権化よ』

『ダミーデータ?! じゃあ勝てるわけないよ………どうしよ、リオのこと取られるのも死んでも嫌だけどリオより先に逝っちゃって寂しがらせるのはもっといや………!』

『リオが絡むとより面倒くさくなるのよね………はぁ』


落ち着いて聞いてって言ったはずだけれど聞こえなかったのかしら?

念のため魔力溜めに集中している女を盗み見る。


「観念した? 二人には消えてもらうよ。あたしとリオの明るい未来のためにね」


口角上げていかにも“お前らにできることなんてない”風に嘲笑する赤髪の女。

観念したって勘違いして高を括ってるところね。

よかった、まだ猶予はありそうだわ。


『時間がないから一回しか言わないわね。あなたとわたしであの嫌な女は倒せるはずよ』

『………え?』

『いいことアレーナ。リオ曰くダミーデータなんて破棄されたモノらしいわ、それとリオが言ったことを思いだしなさい』

『………あっ』

『あなたの助言のおかげで着想を得たわ。そこは感謝しておくわ』


リオはわたしたちの世界——————『カノ檻』について詳しく説明してくれた。

その際、わたしとアレーナはこの世界で対を成す強者と言っていた記憶がある。

さっきから魔法の打ち消しなんて試さず回避するばかりのあの構え………間違いないわ。

魔法が当たれば確実に殺れる。


「僕からいくよ。フェリナはその後をお願い」

「ええ任せなさい。先に倒せた方が今夜の主導権握ることでいいわね」

「もちろん。いくよっ!! マグマ・レイン!!」


アレーナが一歩出て得意の中級魔法をぶっ放す。


「最後の悪あがきかな? へ~」


降り注ぐマグマの雨をひょいひょいといとも容易く躱す赤髪の女。

予想通りね。


「当たったらシャレにならないから躱してるだけかな? そんな腑抜け女にリオは任せられないかなっ!」


マグマの勢いがさらに激しくなったけど相変わらず当たる気配など見えない。


「泥棒ネコどもめ………」

「気が変わった。死なせたりしないよ?」

「リオに綺麗さっぱり忘れられて………あたしとあつ~いひと時の姿、終わるまで見せてあげる」


プチっ。

わたしの中で何かが切れた音がした気がする。


「………マグマ・アロー」

「!?」


それはどうやらアレーナも同じようで初めて見る魔法を使っていた。


「リードはどうやらわたしからのようね………ふふっ」

「フリーズ」

「なっ!?」


今の一撃が想定外すぎたのか赤髪の女は明らかに動揺している。

それで意識というか注意を払う相手を間違えた。

隙をつかないわたしではない。


明らかに自分より強そうなモノとの力比べのような戦いに興奮しないわけではないけれど………リオのこと洗脳するような発言はさすがに我慢ならない。

注意が逸れた隙に後ろへ回り最初のリオとの熱い夜の後、彼のこと捕まえるために使った魔法を最大出力でぶっ放して赤髪の女のこと凍らせる。


「ばいばい。最悪のダミーデータ」


振れた手の魔力をさらに凝縮させる応用でぶっ放すと目の前の氷の塊がぶっ壊れる。

想定通り赤髪の女が消えたことで玉座に縛り付けられてたリオは解放され椅子から転び落ちる寸前だった。


「お疲れ様、帰りましょリオ。愛してるわ」


駆けつけてそのまま華麗に抱きとめる。


「僕が颯爽と助けたかったのに……」


成り行きをずっと見てたクソ侯爵令嬢がブツブツ言ってるわね。


「メイドちゃんも無事みたいだよ」って後付けした。

「ヒーラー役は何だったかしら」


何も出来ないと思ったリオなりのわたしたちへの配慮だと思うけれど。

お姫様抱っこで抱き上げたリオの唇にわたしの唇を重ねる。

軽く重ねるだけのキス。

その感触から広がる温もりにやっとリオの無事が確認できた。

やっぱりあんな女に渡さなくてよかった。

なんて思いながらもう使わなくなったわたしの実家を後にした。

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