第51話 異変動(デート)は波乱の予感がする

「では参りましょうか。ご主人様♪」

「あ、ああ………」


アレーナの出まかせにより即興開始された料理対決はエナドリの見事勝利という形で終息した。

今日はその報酬のデート当日というわけだが………。


『わたしなら何でも好きな格好させて一緒に出掛けられるのにどうしてエナドリとばかり楽な格好なのかしら。これってもしかしてもう遠慮なんかいらない夫婦だって遠回しにアピールしてるつもり? やはりここで………』


『君色にソマリタイ君色にソマリタイ君色にソマリタイ君色にソマリタイ君色にソマリタイ君色にソマリタイ君色にソマリタイ君色にソマリタイ君色にソマリタイ』


「おうふっ………」


こっわ、マジで怖すぎる。

フェリナは何故かひどい誤解しているしアレーナはなんか一昔前の浮気目撃で脳が破壊されたヒロインみたいなこと延々と唱えてる。

というかこの世界、結婚なんて文化あったのか。

まあプロローグから婚約破棄だし合って当然か。


「これがメイドの特権ですよメス豚ども。では参りましょ、ご主人様♪」

「あ、おいっ」


エナドリに手を引っ張られてそのまま家を後にする。

不安で仕方ないデートの始まりの幕上げだ。


フェリナの別荘から出かけてきたシニアはがらんどうのゴーストタウンから一変し人々の賑わいで色づいている。


「どうして街中が動いているんでしょう? 今日だけは戻らないでってあれほど願いましたのに」

「まーまーいいだろ? 色々見て回るのも案外楽しいかもしれないぞ?」


活気が戻ったということは何かイベントがあるって世界中から発信しているようなもの。

今日はデートが優先なのでまあそれは後回しするとしてもだ。

がらんどうのゴーストタウンのままじゃやることがどうしても限られてしまうんだ。

つまりはデートテーマに困っていたところだ。

エナドリがパーティーに入ってきてシニアがまともに機能したこともあんまりなかったし、色々見て回るのもいいだろう。


「気にかけていただくのは大変嬉しいですが………私のプランが台無しです」

「シニアが活性化したら困るのか?」


ごくっと力なく頭をふるい肯定するエナドリ。

むしろ活性化してた方が都合つくと思うけどなぁ。

何か思うところがあるんだろうか?


「私は日常のちょっとした延長のモノが好きです」

「だから着飾るより日常着のまま出かけようって言ったのか」


エナドリが首を縦に振るい強く肯定する。


「ご主人様とがらんどうの街並みを堪能し、いつしかデートではよさそうとおっしゃっていたソラシスでお昼とデザートまで済ませて癒しを提供するところ、勝手に誤解したメス豚どもから華麗に守り抜いて“やっぱメイドしかない”なんて言われる甘美な一日が台無しです………!!」

「だからさっき挑発してたのかよっ!!」


デートだから調子に乗って上から目線になってたなんて可愛い理由なんかじゃなかった。

狙って焚きつけてたか、エナドリめ。

エナドリが言わんとすることはなんとなくわかる。


ちょっとした特別感は欲しいけどあくまでそれは日常の延長線上で。

敢えてフェリナ達に意味深なこと言って尾行を誘導し、日常感出しつつその中で二人っきりという特別感を堪能しようとした。

イベントが開催されること自体イレギュラーのため、そこで絶望したってところか。


『さすがご主人様、私の意図したもの全て汲み取って頂けるなんて………はあっ、ご奉仕したいです』


ナチュラルに思考の盗聴してきやがるのはもうツッコまないぞ。

てかデート序盤から未来確定されてる気がするのオレだけか。


「けどご主人様にどこまでもついていくのがメイドの務め。どういうイベントか見に行きましょう、ご主人様」

「いやいや。お前が勝ち取った正当な権利だろ今日一日は」


アレーナの口車に乗った結果でも約束は約束だ。

こっちの都合優先でデートが後回しになるなんて男どころか人間としてクズすぎる。


「ご主人様」


ぴとっと手袋に包まれたエナドリの指先が優しく唇に添えられる。

それ以上言わなくてもいいと言うかのように。

なんならそれで充分という意思がまるで指先から伝わる感覚。


「ご配慮痛み入ります。今のご主人様の気持ちで充分でございます」

「でもな………」

「というかどちらかというとこれは好機ですよ?」

「え?」


好機どころかマイナスにしかならないんじゃ?


「ご主人様にお力添えというご奉仕もできます。早めに終えたらその分、ご主人様と日常感あるデートだって堪能できます」

「計画が狂わされたのは確かに心外ですが、それに囚われご主人様の楽しみを奪うなんて本末転倒です」


デート優先してイベントもパスするつもりだったこちらの意図が汲み取った物言い。

正当な権利故にそっちの意向に絶対的に従う。

そんなのがデートではないなんて誰にでもわかることだ。

確かにデートというワードに少々囚われすぎていたかもしれない。


「では参りましょう、ご主人様♪」

「ああ、今日はよろしく頼むぞ」


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