第47話 どの辺りか分かった気がする

「ん?」


噴水広場へ続く道にポツンっと一人の女性が佇んでいる。

後ろ姿しか確認できてないけど………間違いない。

フェリナだ。


「やっべ」


遅れすぎたせいで自らお迎えにやって来た感じか。

先ほど休んでいたから位置が特定されてしまったんだろう。


「ハチ公、今日は楽しかった」

「ギュイッ!」


怒気を含んだ鳴き声から「説明がまだだから帰さない!」という意思が伺われた。

そういや後でしっかり説明するって言ってたっけ。

ハチ公と歩き回るのが楽しすぎて素で忘れてた。


「さすがにまた今度………ってわけにはいかないよな」


元後いえば心配してるハチ公に事実そのまま伝えたらどんな反応が返ってくるかまったく予測つかないことからご機嫌取りも兼ねて出かけたんだ。

ここで『また今度説明する』なんてわがまま言ったらいよいよどんな反応が返ってくるかわからなくなる。


「ひとまずフェリナに断り入れてからでいいか?」

「ギュッ」


『いいよ』と物腰柔らかそうな雰囲気の鳴き声。

まあ、説明さえしてくれればなんだっていいわけか。

ついでにフェリナにも助力を求めるのもよさそうだ。


思考の盗聴を使って上手く裏合わせが出来れば問題ないだろう。

その際、ハチ公の紹介も済ませればたまの一人で出かけるのも許してくれるかもしれない。


「許可取る必要なんて最初からいらねえけどなぁ!!」


なんて頭の中で誰にも聞こえない叫び声をあげつつ後ろ姿しか見えないフェリナに近づき、声をかける。


「遅れてごめん。フェリナ」

「………」

「香辛料が揃ってないから作ってあげれないって嘆いていただろ? 小屋で香辛料、いくつか揃って来たぜ」

「お前の手作りのやつが食ってみたくてさ」

「………」


こちらに非がある時はまずは謝罪から入り、次に動機とそれを行おうと思ったきっかけの説明が重要だってどっかの動画で見たことがある。

心配して探し回ったのは間違いなくこちらに非があるからひとまず謝罪から順に説明したけどびくともしない。

沈黙がやけに重くのしかかる。

なんか地雷でも踏んだのか?


「お、遅れたのは悪いと思ってる。久しぶりに仲間と会ってさ。ほら、ハチ公って言って頭に乗ってる蜂型の魔物だけどオレを助けてくれた恩人? 恩虫? でさ」

「………不愉快ね」

「へ?」


心配したと非難の矢が飛んでくることもヘラることもでもないまったく予想して無い反応に戸惑ってしまう。

謝罪ごとバッサリ切り捨てられるどころか罵倒の声が飛んできたんだから当たり前だろう。


「いきなり身の上話をするから何かと思えばただの自分語りなんて不愉快の極みだわ。庶民の話を聞くのも貴族の義務なんだとしたら文字通り荷が重いものね」

「そこまで言われる筋合いないんじゃ………?」

「っ!?」


さすがにイラっと来て言い負かしてやろうとしたタイミングで振り返ったフェリナの姿に慌てて数歩下がる。


「そりゃあ通じないか………!!」


振り返った彼女の姿はここんところ毎日合わせているものではない。視線はこちらに向けてるものの何も通さないと言わんばかりの死んだ瞳孔。

服装も別荘とかで見慣れたものではなく、記憶に焼き付けていたCGの服装のまんま。

そう、オレは代役に話しかけていたわけだ。


「ギュイッ」

「いやいいよ。どっちかというとこっちが悪い」


ハチ公から殺意が籠る鳴き声が飛んできたおかげでやっと頭が冴えてきた。

現状はオレに非がある。


「やっぱり認識から逃れたらさっきの行動に戻るのか」


話しかければ受け応えは普通にできるものの認識から外れると通常パターンに戻る。

代役もこのルールは同じように適用されるらしい。


「はぁ………」


うんうんと一人頷いてたら目の前にあるフェリナの代役の口から突然ため息をこぼす。


『婚約破棄しといて再度婚約を求めてくるなんてどういう神経してるのか理解に苦しむわ』

『今日はお父様の代わりに視察に向かっていたのだけれど………まさかついてきた挙句、この前のダンジョンの件をしつこく問い詰めてくるなんてね』


「ギュイッ、ギュイ!!」

「だな。見れてよかったよ」


この雰囲気。

オレたちはイベントに遭遇している。

頭上のハチ公が興奮気味にこちらの頭をポンポン叩いてきた。

こいつも内心、楽しみにしていたのか?


「まさかのすれ違いが正解だったとは」


シニア全体が活性化されていた理由にこれでやっと辻褄が合った。

代役の言いっぷりからしておそらく国王の代わりという肩書でリ・バギュー王国全域を回った。

その影響で全体的に生気が戻って来たんだろう。

だが運悪くことごとくすれ違ったせいで一度も遭遇することができなかった。


「どういうイベントか、中身まではわかんないけどな~」


現在シナリオ上、どのあたりに当たるのかワンチャン調べられるかと思ったけどさすがに欲張りすぎみたいだ。


『どういうわけかそれが耳にアウロ―とミウの耳に入って暴走して見かねたお父様から“三人の中から一人選ぶように”と言われる始末………なんていやらしい』


忌々しそうに毒づき、己の身体をギュッと抱きしめるフェリナの代役。

しっかし、気持ち悪いこった。


「経緯というかストーリーガン無視しすぎたせいで一人芝居にしか見えない」


『カノ檻』は行き届いた感情の描写が売りで、それは共通ルートも同じ。

だがハナから共通ルートがさっぱりな上にイベントをいくつか見損ねたオレにはどうしても共感することができない。

街並みで突発開催されたオタネタドッキリを見せられた時のような白い目になってしまう。


「内面が見えないのは何もいいことだけじゃないってわけか」


きっとプレイヤー視点からは内面に渦巻いているフェリナの様々な感情の機微やら各キャラへどんな想いが向けられているか細かく説明されているに違いない。

そのうざったい描写が見れなくて済むからラッキーだって最初思ったものの、内容がさっぱりじゃあそれが恋しくなるものだな。


「まあでも現在、どのあたりに差し掛かるかわかった大体わかったことだしそれでいいか」


肝心のイベントに腰が入らなないのは惜しとこだが、急遽の冒険なのに色々大事な情報が手に入れることができた。


「個人ルート分岐に差し掛かる目前なのか。なるほど」


イベントとも見れてハチ公との久々の冒険もいい形で収まった。おまけにどの辺りにいるか大体察しがついて香辛料も手に入れた。

残りは先送りにしていたハチ公への説明のみ。


「オレさ」

「ギュイッ」

「小屋を離れてる間、色んな出来事があったんだよ」

「ギュイッ」


今の鳴き声は続きを促すように聞こえた。

興奮冷めやらぬ態度からすっかり聞き専モードへ切り替えたらしきハチ公。

フッと気恥ずかし気な笑いこえが勝手に口から漏れて続きの説明するため口を開いた。


「それが転じてその、パーティー組むことになったんだよね」

「ギュイッ………」

「いてっ」


ハチ公が何故か物凄い力で頭を叩いてきた。

鳴き声もすっごい不服そうな、不機嫌そうなモノに聞こえる。

話の腰から徐々に広げていこうと思ったけどマズったのか?

最後まで聞いたら機嫌直してくれるかもしれんし、ひとまず続けようか。


「何故か自我が芽生えたフェリナ——————目の前の本体とアレーなって侯爵息子——————実は女の子でその二人が学園から返ってきた翌日、何故か小屋にやってきてさ」

「ギュイッ」

『その流れで居なくなった?』と思わしきハチ公の鳴き声に首を縦に振る。

「それから色々あってもう一人パーティメンバー増えて今は四人で暮らしていてな——————」

「ギュ——————」

「あ、ちょっと」


フラフラと頭の上からハチ公がどっかへ飛んで行き、姿を見失ってしまう。

小屋の上に家があるんだしそこに飛んでいったのは間違いないが………。


「ちょくちょく顔出した方がいいよな。やっぱり」


パーティーのみんなも大事だが恩人たるハチ公もまた大事だ。

前回はフラフラーとどっか飛んで行って勝手に楽しめてたはずなのに今日はオレからひと時も離れないどころか、頭から話したら機嫌悪そうにしていた。

寂しがらせたのはどうみても明らか。

たまには一緒に出掛けるのも悪くないかもしれない。


「ってやっぱり居なくなってる」


後ろ向いたまま時たまブツブツ呟いていたフェリナの代役もいつの間にか姿を消しており、その影響かシニアにも静寂の帳が降りていた。

バグルートの条件が調べられるかもって内心期待していたものだけど………。


「いい加減帰るか」


そろそろいい時間帯だ。

これ以上はいよいよ心配させかねない。


「そういえばパーティーのこと言い出したら飛んで行ってたよな。ハチ公のやつ」


魔物の情勢的に何かあったりするのか?

今度小屋に訪ねた時にでも聞けば何か言ってくれるだろうか?

どうあれまた会えるきっかけが掴めたのはいいことだと自分に言い聞かせてフェリナ達が待っているであろう別荘へいそいそと帰ることにした。

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