第25話 裏設定の照らし合わせと逃避と

「で、話なんだけど」

「とってもよかったわ………♡」

「だよね、すっごく男らしかった………♡」

「はっず」


あれから数回くらいの激戦の果て、男の尊厳だけは無事守り抜くことができた。

最初は責められるばかりのオレだったが途中から理想の自分を目指すため己を律して………ごほんっ。


「こういう攻めからもありだわ。途中からはもう、んっ♡」

「男らしいって言ったらもっとリオの色に染めてくれるかな? 次はフェリナがいない時に………ふふっ♡」

「解せぬ………」


途中からはオレのターンのはずなのにうまく口車に乗せられた感が否めない。

沼に引きずり込まれて美味しくいただかれた気分。


「ってそこじゃなくてだ!!」


脱線しまくりな話題を敢えて大きな声で元に戻す。


「裏設定の………代役の照らし合わせだ」


オレの発言によりほほんとしていた空気に張り詰めた糸のように緊張が走る。

穏やかな色が帯びていた二人の顔が険悪なものに塗り替えられていた。


「何だったのかな。あれは」

「何ってリオの言っていた裏設定の産物のようなものでしょうね。わたしたちがリオを想うようになり行動を起こしたことで彼女たちが生まれた、と判断するのが正しいでしょう」


ここまでは少し考えれば誰にでもすぐ気がつく内容だ。

前提をまずまとめておくためかあえてフェリナもそれを挙げている。


「背景はそんなとこだろうな。結局オレたち三人が気になっているのは“何故攻撃してきたのか”そこだ」


オレの発言に三人、顔を合わせて頷き合う。

結局、一番気になるのはそこだ。


「それとひとつ気になることがあるんだけどね」

「なんだ、アレーナ」

「僕たちにはその“代役”の姿がまるで見えなかったよ。リオはハッキリ見えたんだよね?」

「らしいな。ずっと靄って言ってたし」


昨日の昼の戦闘シーンが脳内に再生される。

この世界でまず見ることがない貴重なシーンでもあったためハッキリ覚えている。


「オレにはイベントがない時のシニアの住民たちのように見えた」



フェリナとアレーナの言葉から察するに、二人には靄がかかったような何かに見えなかったんだろう。

相手している時も延々と“靄”って言っていたし、なんならオレにどれがどいつかって聞いて来ていた。

相対する属性で防御しようとしたのも名指しで教えたから。

元のキャラがイレギュラーとなった場合、システム上の代役は目視できない仕組みか………?


「完全に歯が立たなかったわ………くっ」

「照らし合わせって僕たちとリオの視点の違いしかなくないのかな………それとも他にも何かあるの?」

「ああ、本題がそいつだ」


これを話すためだけに小屋に戻らず待っていたわけだ。


「何かわかったのね。早く言ってちょうだい、リオを危険な目に遭わせたんだもの」

「そうだね。あはっ、今度こそ消し炭にしてあげよっかなぁ」

「や、お前らじゃ絶対無理だ。返り討ちだか復讐だか考えない方がいいぞ? 逆に酷い目に遭いかねないから」


ブンブンと顔の横に手を振るジェスチャーしてまで無理であることを伝える。

無理宣言されて気分のいい人はまずいない。

何故無理か納得させないとこの二人は必ず暴走する未来しか見えないため、二人が口を開くより早くその理由を口にした。


「二人が倒れた後、何故かオレを攻撃しなかったんだ」

「………へ?」

「うそ………」

「その出来事が夢じゃなかったのかってくらいフェリナとアレーナが倒れてすぐ二人は姿を消した」

「二人の戦闘に見入ってて周りが全く見えなかったのが不覚だったが………その戦闘がイベント扱いになるらしい。ギルド内部にちらほらいた人たちは戦いが終わった後、身動きが止まってたぞ」


昨晩、どれだけ悩んでもこの結果しか出なかった。

状況的証拠ではイベントの終わった直後に鉢合わせた可能性が一番高い。

てかそれ以外で残る選択肢はこっちを待っていたことになるけれど、これはさすがに妄想が過ぎるので却下。

あまりにも間が悪い刹那のタイミングで遭遇したって見た方がいい。


「けどそれじゃわたしたちが勝てない理由にはなれないのよ?」

「そうだよ。心配してくれるのは嬉しいけどリオを狙ったんだもん


おっと、オレとしたことが肝心なところが抜けたまま説明したか。

呆れたような温かいような視線が向けられてようやく気がつく。


「イベントが終わる間際にすれ違った。これでバグか何かのせいで二人の………つまり自我のあるフェリナとアレーナを倒すことが目的の“イベント”が強制展開されたんじゃって言いたいんだよ」


支離滅裂な自覚しかないが、これじゃないとあの場面は到底説明できない。

じゃあどうして最初はオレを狙うような素振りを見せて二人が倒れた後、トドメ刺さなかったって言われたら答えられなくなる。けど現在の持ち合わせた情報じゃ、これくらいが限界ってとこだろう。


「ハナからわたしたちがターゲットのイベントだから勝つ筋なんかなかった。ってことね………」

「勝てないってそういう意味だったんだ………」


やっと得心がいったらしく、ちょっと怖いいつものオーラ―が失せてる二人。

落ち込ませてしまったかな。

二人がオレを想ってくれるのは凄い嬉しいが、事実だからしょうがない。

シニアは大体見終えたので次の………あのいけ好かないもやし野郎のルートでチラッと登場する隣の国まで行ってみるつもりだったが、検証したい裏設定がひとつ増えた。


「今日はオレ一人でシニアを見てくるわ」


何故あそこにエナドリが捨てられていたのか未だ気になる。

何か意味があるように思っちゃうのはハーレム脳が過ぎるせいだろうか?

それにだ。

敢えて口にしてないが消える前の、代役どもの歪な温かい表情が気になる。

これはオレが攻撃されてない理由にも繋がる。

そんな気がした。


「は? なあに意味不明なこと言っちゃうのかしらリオは」

「三人で行動するためにパーティー組んだんだよ? イベントが見たいとか裏設定の検証がとか気になるのはわかるけど一人ではさすがに行かせられないかな」


パーティー組んだ初日に突然襲われたんだ。

おまけにオレは魔法が使えないポンコツオブダメ人間(異世界基準)。


「やっぱりなぁ。許してくれないのか」


予想通りすぎる反応で返って冷静になる。

こちらから手を出さない限り、イージーすぎるほど安全な地帯って高を括っていたところが百八十度変わったわけだ。

そりゃあ出て行かせてくれなくなるか。さらに彼女たちはタイプが違うだけでちょっと、いやかなり重い。


極端な話、オレが殺さない限り一人で出歩かせてくれないだろう。

いうて殺せるわけもないという話だが。


「当然よ? 襲われなかったのは運がよかっただけかもしれないわ。小屋に行きたいなら今度は市場に寄ってみるのはどうかしら? アナタ好みの料理、たらふく食べさせてあげたいもの」

「それ終わったら次は服屋なんてどうかな? リオって短いスカート大好きだから色々試すところ、しっかり見ててね? その後は僕好みのキミの仕立て上げもしたいけれど………」

「今のうちに………!」


妄想に片足突っ込んでる二人をよそに、素早く一階までおりていってそのままシニアの中心目掛けでがむしゃらに走る。

至極まっとうな理由から妄想へとエスカレートしていくのが狙いだったけど、上手く行ってくれたか。


『二人を巻き込まさないタメだよ。明日には戻るから』


自我がはっきりある二人だ。そのまま見捨てて置き去りにしたら後からどんな目に遭うか知れたもんじゃない。

なので最低限の良心と言わんばかりにギルドの付加スキル『思考の盗聴』のつもりで心の中で呟く。

距離が離れてるから届くかどうか未知だけど、やらないよりはマシだ。


「そういえば位置情報も勝手に共有されてたっけ」


オレのプライベート、完全に筒抜けじゃん………。


「掴まれる前にとっとと終えるか」


こうして何故か出来たパーティーメンバーに隠れて裏設定検証の一人旅が幕を開いた。

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