第9話 婚約者の裏設定

「しっかしやわらかい肌付きだな………うっわこいつももちもちしてる」


女の子のような見た目の中、唯一気に入ってるのが女の子みたいなもっちりした肌だ。

手入れも本気で頑張るくらいには好きになっている。


「これはさすがにちょっと妬けちゃうな。むむっ………」

「えーっと、顔も手も凄く手入れされてるし、髪の毛は………へーすご」

めっちゃサラサラしてるじゃん。

「って男の髪いじって何してんだオレは!!」


美的感覚が桁違いな異世界男子の魔力やっべー。

ハッとなってセルフツッコミのついでにぺしっと勢い任せでアレーナの身体を叩いてしまう。


「………?」


身長の問題でこいつの胸元に手が出てしまった。

しかしそこである違和感に遭遇してしまう。


「男っていくら柔肌でも胸は成長しなくない?」


明らかに感触が違う。

今の手に残る感触は触りなれた自分の胸元同様ごつい感覚ではない。

どちらかというと数日前に体験した時のような………。


「死ぬほど抵抗あるけどなぁ………」


確証がない現状、これからオレが行おうとしていることはいわゆる腐った女の子が大喜びしそうな行為だ。


「くっ、殺せ!」


実はひどいこと大好きと噂の金髪騎士の常套句を口にして意を改めて、アレーナの服に手かけて脱がしていく。


「こういう裏設定があったのか………」


目の前の真実にただただ呟く他ない。

服を捲って胸元にきつく巻かれた布を引きはがすと母性の象徴であり全男の桃源郷、豊かな乳房が顔を覗かせた。


「だから人一倍共感してあげられる設定がついてたわけか」


ニヤッといやらしい笑みが漏れる。

時間の無駄だって思っていたがどうやら違ったらしい。


「でもこのまますぐ致すのはオレの流儀に反してなんか嫌だ」


人間ではなく機械のような何かに近しいとは言ってもすぐ襲ったりするのは気が引ける。

自己満足の域だろうけど………あくまでラブラブ感を出したい。


「こんな悩みしてる時点で無理な相談か………」


昔からの夢であるヤリ〇ンになるって決めたんだ。


「純愛路線決め込むつもりだったらそもそもフェリナに手を出したこと自体ナンセンスだ」


後戻りできないのが現状だ。腹を決めろオレ。


「ラブラブ感は………あり合わせで何とか出せるかな」


すうっと息を吸っては吐いてを数回繰り返し、己を落ち着かせる。

よし。覚悟は決まった。

後は行動あるのみ。

さっそく彼————彼女を抱きしめて一緒に倒れこむ。


「男という面を被って自分自身に嘘をついてまで誰かに寄り添おうとしても、その当人すらキミに見向きもしない………」

「嘆かわしいよね。本当の自分を見てもらえないって」

「………」


脳内にある男装女子と結ばれる主人公たちのようなセリフをただつらつらと並べ、抱きしめたままの彼女の耳元に囁く。

もっと情感込めて、共感ところかまるで当事者になったつもりで。

必死に、訴えかける。


「オレも声や容姿が女の子っぽくてね、昔から本当の自分を見てもらいたかった」

「そんな人なんて一人もおらず結果はご覧の有り様だけど………そんなオレだから、本当のキミを見つめられる」

「………」

「本当のキミをもっと見せて、大丈夫だ。オレは否定したりしない」

「ありのままのキミを肯定する。人一倍感傷豊かで、優しくて、フェリナとの婚約で本当の自分がわからなくてひっそり涙を盗む夜もあったでしょ?」

「それらすべて受け止めて、いっぱい毒を吐く彼女に悩みながらも尚、真摯であろうとした。それはキミがキミらしくあろうとした気高い証明だ、尊いといえど責めることは誰にもできない。もし誰かに責められたとしてもオレだけはキミを全てを肯定する」


彼女を抱きしめる腕の力をより一層強くする。


「愛してるよアレーナ。本当のキミをいっぱい見せてくれ」

「キミのような戸惑いながらも己を持つため悩み苦しむ気高い意志を持つ人にオレのをあげたかったんだ」


アレーナの服をひとつひとつはがしていき、やがて一糸まとわぬ眩しい姿が現れる。

その最中もいっぱい『甘い言葉』を囁くことは忘れない。


「こっちの服は男物でも脱がしづらいな」


ファンタジー物の衣装ってエッチには不向き過ぎないか?

半端なくそそられるが………脱がすのが一苦労どころか山を真っ二つに切れってレベルでむずすぎる。

ついつい悪態ついちゃうくらいの重労働だ。


「とっても綺麗だ。こんな綺麗なキミが独り占めできるだなんて嬉しくておかしくなりそうなくらい」

「これからは己を隠す必要はない。オレだけにはさらけ出していいから」


チュッと唇と唇同士がつなぐ銀色の橋を作りながら、またもや長い昼が始まった。


「ふぅ………こんなもんか」


行為を一通り済ませ、適当に後片付けを済ませる。


「まあこんなんでいいか」


服は何とか着せたものの元通りの綺麗なフォームには戻せてない。

皺くちゃでいかにも“慣れない感”が如実に出ている。


「少ししたら綺麗に戻るしまあいいだろう」


ベットも大体は片づけたけど………アレーナの初めての痕やら何やらまでは消せる方法も時間も持ち合わせていない。

アレーナには悪いけど今回ばかりは先ほどの時間が経てば勝手に戻るあれに頼らせてもらうしかない。

城の観光に出かけたハチ公と合流してそろそろお暇するか。


「どんなキミも素敵だ。大好きだよ」


頬っぺたにチュッと唇を添えてハチ公を探すための冒険が………。


「ギュー!」

「タイミングぴったりだな。楽しかった?」


アレーナの部屋から出ると向こうからハチ公が満足気な雰囲気でこちらに飛んできた。

城内を探検し尽くしたのだろう。

感想聞いたら抱き着いてきたのでおそるおそる撫でると、気に入ったのか頬ずりしてきやがった。


「帰るか」

「ギュー!」


思いがけない行幸とは今の状況を指す言葉だろう。

満足感と前回よりひどい虚脱感とともに、帰路につくオレたちだった。

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