第4話 到着かな?
二日後
「やっと着きましたね。母上、ビカリアさん!」
僕は興奮を隠せない顔で同じ馬車に乗っている二人に呼びかける。
今回が初めての訪問というわけではなかったが、これから通う学園というキーワードが僕を八日間の疲れを吹き飛ばす。
この八日間は、とてつもなくしんどく何度も逃げ出したいと思ったほどだ。
まさか最後の二日間でいきなり凄腕の暗殺者に襲われ、返り討ちにしたもののビカリアさんが軽くない負傷をし、そこからは僕が襲ってきた魔獣と戦うことになり、最後の日何故かドラゴンが、襲い掛かってきてとうとう僕のエルメが、覚醒して退治したのであった。
そんな夢を見たとビカリアさんにだけコッソリ教えると、「たとえ私がけがしたとしても、他の馬車にきちんと戦力があるので、決して戦ってはいけませんよ」と過保護気味な反応をされてしまって、反応に困ってしまった。
それはともかく、僕たちは九日かけて王都ダマスクスへ着いたのであった。
魔法がなくては絶対に作ることのできないであろう高さと分厚さで、名実ともに世界一の城塞都市としての威厳を保っている。
「フリード様まだ門に到着するまで二十キロほどありますよ。私はさっき走って確かめに行きましたが、アリスト様はわけのわからない顔をしておられます。新鮮味が薄れるのでもう少し近づいてから言ってくださいよ」
ビカリアさんがこれから起こることを想像し、心を躍らしている僕に水を差す。
「フリードは、これから五年間、上級にも通う予定だから八年間ここで生活することになるのよ。たとえさみしくなっても勝手に帰ってきちゃだめよ」
母上が急に身に覚えのないことを言い出す。
「たとえさみしくなってもテンザン様もアリスト様もよく城に通いますし、長期休暇に入るとボルベルク領へ戻ることもできますし、八年間全く会えないというわけではないですし、むしろよく会えるのではないですか?」
「いやいやビカリアさん僕はたとえさみしくなったとしても勝手に帰るほど馬鹿ではありませんし、そこまでさみしがり屋でもありませんよ」
そう言うと母上とビカリアさんが同時に驚いたような顔をする。
「どうしたのですか?二人とも。まさか僕がそんなにさみしがり屋だとおもったのですか?もう十三歳にもなっている僕に!」
「えr・・・違うの!私たまにあなたが‟会いたいよー、早く会いたいよ“って寝言を言っているのを何度か見たことがあったから、てっきり家族に離れ離れになった夢を見て、さみしくなったからだと思っていたけどもしかして違ったの?」
そんな……
この完璧な男の子である僕に対して一体何を言っているのだと、疑問に思っていると――
「私も聞いたことがあります。それ以前によくメイドたちが話しているのを聞いたことがありますし、周知の事実かと思っていました」
「王国学園に行く道中で、初めて知ることが多すぎるような気がするのですが、そろそろ母上たちも外壁が見えてきた頃ではないのですか?」
いつの間にか時間がたってしまっていたのかだいぶ近くになっているようだった。
そして門番の兵士たちもボルベルク家の馬車があるということに気が付いたのか、慌てて受け入れる準備をしているかのようだ。
王都ダマスクス
それは世界一の大国と名高いヴァレリア王国の首都で城、龍宮ブラックグローリーを中心とした広い、それはとんでもなく広い土地である。
また、竜宮とは建国の英雄ヴァレリアⅠ世が当時龍王と呼ばれていた黒龍を倒し、その死骸をふんだんに使ってできた美しくも、素材本来のまがまがしさが目立つこの国の象徴といっても差し支えのないものである。
そんな由緒正しき場所のはずれに王国学園初級は存在する。
下っ端の二十歳くらいの兵士が「ようこそ、おいでなさいました」と仰々しく言うので、「お勤めご苦労さん」とねぎらいの言葉をかけた。
僕の優しさに、感激している様子の下っ端を尻目に僕たちは、豪華な検問を抜けていく。
王都ダマスクスは、外側から冒険者の多いギルド街、次に平民の多い平民街、市場の立ち並ぶ市場街、貴族の暮らす貴族街、最後に城、龍宮が続く形で王国学園の場合は襲撃の危険性があるため貴族街にある。
「ねえビカリアさっきの門番の人、確か結構階級の高い人だったはずよね」
「ええ、確かあの制服は、士官のものだったはずです。何かあったのかもしれませんね、何かあってはいけませんので基本的に私の近くにいるように心がけておいてください」
何だろうこの感じ、この僕だけ何にも分かっておらずさっきのお兄さんに偉そうな口をきき、立場を利用して、自分勝手に生きている馬鹿貴族のように思われているかもしれないというこの孤独感。
「さっきの人もしかして偉い人だったのですか?門番をしていたので、てっきり下っ端なのかもって思い偉そうな口をきいてしまったのですが、いけませんでしたかね?」
「何を言っておられるのですかフリード様、いくら高い階級だといっても、門番をしているにしてはであって、おそらくは貴族の方だとは思いますがあなたはボルベルク家の人間ですので、考える必要は無いかと思いますしあの方にとっても光栄なことだと思いますよ」
ビカリアさんは何でもないように言うが、何か危機感を感じているかのような表情を浮かべているようだった。
そんなことを考えながら僕たちを乗せた馬車の列は貴族街へと向かった。
貴族街へ入るとき検問をまたもや受けたが、さっと通り抜けて貴族街にあるボルベルク家の別荘へと向かう。
しばらく馬車に乗った後、城に大分近づいたところあたりに別荘はある。
「まあ、相変わらずそこそこ立派なものですね」
僕の目の前にある建物はボルベルク領にある本邸に比べるとさみしく感じるだろうが、一般の貴族の本邸と同じようなもので、ここに住む人の品位を感じる素晴らしいものである。
「フリード様その言葉を一般の人々の前で言うと、私だと革命を起こしたくなるほど腹立たしいのでおっしゃらないことをお勧めします」
ビカリアさんの忠告を受けた後、王国学園の僕の寮へ荷物を運ぶ。
「王国学園への行き方って思っていたのと全然違うというか、こんな方法だったのですね」
そう王国学園初級への行き方とは城の近くの広場にある魔方陣を内蔵されている噴水に学生証をかざすことによって、転移し王都ダマスクスの近くにある学生領の噴水前へ行くのである。
「フフッこの仕組みを初めて見る子は今のフリードみたいに驚いた顔をするのよ、驚く顔を見たかったから今まで内緒にしていてよかったわ。まあ朝の早いうちに着くことが出来てよかったわね!明日にはもう入学式だから間に合ってよかったわ」
ここは王都ダマスクスの少し横にあるのだが、そこから入ればいいと感じてしまうかもしれないが、学園領には世界の未来を担っていく子供たちを守るため、高名な結界師による最高峰の結界により何人たりともはいることはかなわない。
僕の今まで夢で見ていた感じでは無かった為ちょっと抵抗があるがこれはこれでとても楽しそうであるので興奮してしまう。
「では、早速寮がどんなところなのか行ってみましょう!」
王国学園初級の建物の配置されている様子は、北に演習場、東に学生寮、南と西に校舎と大まかにはこのように分けられている。
転移された後到着する場所は学生領の真ん中に到着するため、ここから五つの寮を見ることが出来る。
ここに生活する予定の人のほとんどが貴族であることと、王国学園に通う人のほとんどがこの寮で暮らすためとんでもなく大きく、豪華なつくりとなっている。
「母上の僕はあそこにある寮の五つのうちどの建物で生活する予定なのですか?」
僕は東の方向を指さし、赤、青、黄、金茶、白、緑の六つの順に屋上に旗のさしてある寮をさす。
「あれはね、六つの寮がその月の掃除当番をかけて生活習慣の矯正をするのよ。あの中で一番生活習慣の悪かった寮の色の人たちがその月毎日校舎の掃除をするのよ」
母上の言葉を受けて校舎に視線を向けてみる。
「大き過ぎますよ!あんなに大きな建物をまともに掃除する人いるわけないじゃないですか」
僕が視線を向けた先にはびっくりするくらい大きく、装飾品の類の一切ない学ぶためだけに作られたとみられる立派な建物がある。
「ついでに、もしさぼった人がいるとその人は一か月間食堂の掃除をさせられるから気を付けるのよ」
母上から脅しのような本当らしき話を聞くと僕たちは荷物を置くために寮へと向かった。
僕の生活する予定の寮は、赤色の寮のようだ。
「赤と青の寮の人たちが貴族クラス、緑が商人クラス、黄色と桃が平民クラスになっていて、フリードの通う予定の赤は常日頃から青と仲が悪くて、さらに今年は赤にばかり大物が入ってきていて劣等感を思った青の人たちがケンカ吹っ掛けてくるかもしれないから気を付けるのよ」
近くで見てみるとより一層豪華に見える寮に入ると今のところはみんな部屋にこもっているのか閑散とした雰囲気の寮で玄関にはベルク爺が育てた花には劣るものの美しい花が飾られていてそれだけで落ち着くようで、気分がいい。
僕の部屋は最上階の五階のようだ。
今は楽しいからいいもののなんだか面倒くさいなと思っていると、僕の荷物を持ってくれていたビカリアさんが早く進めと言いたげな目でこちらを見てくる。
そんなこんなでたどり着いた僕の部屋は実家に比べると少々手狭なもののしっかり生活のできる部屋の作りに満足する。
「ビカリアさんありがとうございます。扉の少し横に置いていていただけますか?」
「わかりました」
ボゴン!
荷物をいっぱい持ってき過ぎたかもしれないと後悔しながら、大きな音を立てながら僕の大荷物を置くビカリアさんを尻目に言葉を発する。
「僕は今日の一日は荷物の整理に充てようと思っているのですが、母上やビカリアさんにこのようなことをさせるわけにはいかないですし、これからどこかに挨拶などに行ってきてはどうですか?」
「まあ、行かなければいけないところもありますし、フリードはちゃんと先輩方に挨拶に伺うのですよ」
「フリード様部屋の整理整頓のきちんとできない軍人に強き者はいないと言われるほどですからきちんとしておいてくださいね」
母上とビカリアさんはそう言い残して部屋から出て行った。
一人だけ残った僕は、大雑把にベッドの位置だけ決め、必要なものがあればすぐにそろえることが出来るのであまり持ってきていなかった荷物の中から財布と、身分を証明することが出来るものを取り出し、今年から同じ学年に当たるミライムさんの部屋を探しに行こうと旅に出る。
「確か、母上はこの赤の寮に大物貴族が集まってるって言ってたよな」
そうなるとミライムさんもこの寮にいるはず。
しかも、この寮は階が上がるにつれて部屋のグレードも上がっていく。
もしかするとミライムさんと近くの部屋になってるかもしれない!
逸る心を無理やり抑えながら部屋を出る。
結果的には、ミライムさんの部屋は僕の部屋の隣でびっくりして失禁してしまいそうになった。
その後僕は無言で僕の部屋に戻り“うおおおおおおお”と声が枯れてしまうまで叫び、たまたま近くを通った看守さんにこっぴどく叱られた後急いで部屋の片づけをして、昼過ぎまでにすべての用事を済ませることのできた僕はパッと目に入ったお小遣いを握ってミライムさんに挨拶するためのお菓子を買いに行った。
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