第2話 出発……準備

「父上何故ここにいるのですか?」


「……おおようやく起きたか。あと少ししたらお前学園に通うために出発するんだぞ!早く準備しなさい。それにしても妙にニヤニヤしながら寝ていたが一体どんな夢を見たんだ?」


 父上の話し声と僕の部屋の天井が目に入り何があったのかを一瞬で理解した。


「なるほど僕はミライムさんにキスしてもらえてなかったのか」


 突きつけられた現実に愕然としていると父上の呆れたような声が耳に入った。


「お前またその夢を見ていたのか?昨日も同じような夢を見ていたよな」


「うーん、言いましたっけ?ここ最近全部おんなじ夢ですよ。確か人が夢に出るということはそれほどその人から愛されているからだって聞いたことがあります!僕は毎日夢に出でいるからそれほどミライムさんに愛されているのですね!まったく僕も罪な男になったものです」


 僕が嬉しそうにそして満面の笑みで言うと……


「お前そんなこと絶対に人前で言うなよ!もし言ったら学園を退学させるからな」


 父上が今までにないくらいにすごんだ声で僕を脅してくる。


「い、いったいなんでそんなにひどいことを言うんですか。そんなことで退学するというのであれば僕が今まで学園に入ってミライムさんに頼りにされるようになるためにやってきた<雪山!裸一週間のサバイバル生活>や<寝ている間も気を抜くな!寝ている間に千尋の谷へ突き落し>などとてもしんどい訓練に耐えてきた努力は一体何だったんですか」


 僕が悲痛な声を出して抗議する……


「言わなきゃいいだろ!……コホンそうだ、だからこそ今までの努力を無駄にしないためにも言うんじゃ無いぞ?分かったか?」


 父がこんなことを言うのは一年位前にミライムさんのお屋敷に僕がメイドさんたちと初めて作ったきゅうりや茄子、大根などを届けようとした時以来だ。


 うーん、謎だ。


「父上がそこまで言うのでしたら従いますけど、どうせまた理由は教えてくれないのでしょう?」


「ん?また?過去にもそんなことを言ってたのか?」


 父上が”まさかこいつ”といった顔をこちらに向けてくる。


「??父上覚えていらっしゃらないのですか?あの…一年位僕が野菜を送ろうとした時のことですよ」


 僕がそう言うと父上は納得がいったような顔をした。


「あ~、あの時のやつか、でもな、もし送ってたら近い将来後悔することになるぞ」


「しかしその後悔を言っていただかないとなぜダメなのかがわかりませんよ。でも今回はせめて何故いけないのかを教えてください!」


「うーん、まあこれは言ってもいいか。よく聞いとけよ。」


「焦らさないでさっさと言ってくださいよ!」


「気持ち悪いからだよ!」


 酷い……………



 <フリード・ボルベルク>


 僕の名前だ。


 この名前を知らないというものは世界でも少ない部類に入るだろう。


 ヴァレリア王国は世界で最も栄えている国だと言われており、ボルベルク家はそんなヴァレリア王国の四大公爵家といわれている公爵家の一つでその影響力は他国の王様ですら顔色を伺うほどである。


 白がメインで少し黒の加わった感じの色の髪に右が黒、左が白といった配色の瞳、とても珍しい配色らしくいろんな人から興味深いといった目で見られる。


 世界には“エルメ”と呼ばれるその人特有の能力を持っている人が数多く存在しており、この世界の戦いの在り方は、どのようにしてエルメを活躍させるかを重視している。


 そして僕の視力はだれにも負けないほどよく十キロ以上離れたところに立っている人の顔ですらはっきりとみることが出来、透視はもちろんのこと見ることに関しては僕の右に出るものはいない。


 ボルベルク家は兵士の育成において頭一つ飛び出た実績を持っており、この領地で育てられた兵士は各領地で重宝されており、一定の期間が過ぎるとほとんどの人が別の領地に勧誘されていくため、ボルベルク家の兵士の数はそこまで多いというわけでもなく、さらにエルメは帝都に使えさせるようにお達しが来ているため戦力はほかの領地に比べて、少ない可能性すらもある。


 そんな領地で育てられた僕は、幼い時より父上専属の護衛の兵士に鍛えられており並大抵の人より強い自信がある。


 しかし僕はまだこのエルメを操ることが出来ず、本気で見ようとするととんでもなく頭が痛くなるため普段から不可視の呪いのこもった眼鏡で視力を制限している。


 普通の人だと何も見えなくなってしまうらしいのだが、僕の場合は打ち消し合ってもなお一般人を遥かに超える視力を持っている。


 このことから僕のエルメは目に関するもののはずだが、今後の成長に期待である。

 また顔立ちは整っているでは言い表せないほどの美形である。


 まだ十三歳であるためかわいらしい感じであるが、あと五年ほどすると誰もが振り返るほどのイケメンになるだろう。


 五歳まではだれに対しても冷酷で無関心な態度をとって、いつの間にか何人かを敵に回してしまったり、メイドさんに何か食べたいものがあるか聞かれた時があったときに「食べても毒にならないもの」と答えて困らせていたらしいが五歳の時の誕生パーティーに来ていたミライムさんに一目惚れしてしまったことが運の尽き、それ以来ミライムさんの追っかけと化しミライムさんに好かれる人になろうと必死に努力した結果ここまで話しかけやすい真人間になれたといえる。


 本当はこのまま自分の領地で訓練を続け、自分の兵士たちからの信頼を築き上げていくことが求められていたのだが、ミライムさんとの青春のため僕は無理を言って他の領地に学びに行こうとしている。



 <テンザンボルベルク>


 僕の父である。


 ヴァレリア王国の軍部に関する責任者であり本人もまた自主的に体を鍛えており、他人に厳しく自分にはもっと厳しい性格をしているため部下の人たちにはとても慕われている。


 しかしながら自分の子供には厳しくできない様でフリードに普段は軽く見られているものの、仕事をしているときには尊敬されている。


 青色の髪に青色の瞳そして相手を威圧するような貫禄のある顔、それらはある者には絶望をまたある者には希望をもたらすと言われている。



「それはともかくこれからダマスクスへ行くのに七日はかかるからな。旅の準備はもう済ませているがせめて身だしなみを整えてレイヴン会っていってやってくれよ。俺は忙しいからこの前も言った通り入学式に出られるのはアリストだな。お前にはビカリアがだいたい近くについてるから旅も安心だろう」


 レイヴンは僕の妹でとてもかわいらしく、悪戯好きで、また演技もとてもうまいため、‟これは嘘だな“と、分かるようなことでもあまりに不自然なくやり切ってしまうため、うっかり騙されてしまうことが多々ある。


 僕のことを舐めきっていて、そのことに腹は立つものの可愛い家族には手を出すことも出来ず、悶々としている。


 せめて殴っても本人のためだと言い訳が利くような大きなことをしてくれれば、僕としても、気兼ねなく僕の偉大さというものを教えてあげることが出来るのだけど、まだその機会はない。


 アリストは僕の母で優しくほんわかしており大抵のことは笑って許してくれるが努力も何にもせずに只々失敗しただけのことについてはとても怒る。


 その怒り様といえば僕がそれから一か月はまともに話せなくなるほどである。


 相手の気持ちを考えずにひどい行いをした場合にも怒るのだが、その場合はまるで幼い赤ちゃんを諭すかのようにひどいことをしてくる。


 また魔術に関してとても精通しており僕も母上から習ったものだった。


 ビカリアさんについては人獣族で白色のつやつやとした毛をしており白砲のビカリアと他国の軍人から恐れられておりとにかく強く、体術に関してずっと教えていただいていた。


 ヴァレリア王国の軍部において幹部の一人であり、重要人物でもある。


「まあ、あのビカリアさんがいるので旅の心配はしてませんが、来ないのですか」


 やはり父上は入学式に来ないという。前々から知ってたとはいえショックだ。


 するとトントンと僕の部屋のドアがノックされた。


「…どうぞ」


 誰が来たのかわからないためカッコつけた声で答えた。


「失礼します。ああ、兄上ようやくお目覚めになったのですね?もうすぐ出るのですよ、普段はきちんと起きているというのにどうして今日に限って起きていないのですか?母上はもう準備ができています。確かに昨日までは十時頃に出ると言っていましたが兄上には早めに行動しようという気持ちはないのですか?さあ、ボケっと突っ立てないでさっさと寝癖を直してください」


 ツンとした声ですらなく感情のこもっていない声で言われるためとても怖い。

「もう母上は準備ができているのですか?それは申し訳ないことをしていた。でも父上どうして母上が準備ができていたのを教えてくれなかったのですか?と聞くのは後にするのですみません、母上をあまり待たせたくないので急ぎますね!」


「お、おう、早く準備しな、アリストを困らせたりするんじゃないぞ!後でどんな態度だったか聞くからな」


 父上の声を背中で聞きながら僕は「グッ!」っと親指を立てて返事した。


 僕は走った…メイドさんたちの注意も、僕の部屋を去った後に行われていた「レイヴンどうしてそんな嘘をついたんだ?」「兄上が変な寝癖を付けてたし、起きたばかりでアホそうな顔をしてたから」「ひどいなお前」といった会話を聞きもせずに、僕は走った……


 そしてメイトさんに教えてもらった手順を自分なりに省きながら身だしなみを整え、用意してもらっていた朝食を口に突っ込んだ後急いで正門に向かっている途中、僕は朗らかに笑ってビカリアさんと身だしなみを整えている母上の声を聞いた。


「レイヴーーーン!!」


 僕は血反吐を吐きそうになるほど叫んだ、それはもう心の底から。


 五秒ほどしたのち「は~~い」と感情のこもっていない間延びした声が響いたのちトントントンと足音が聞こえたのちにレイヴンが姿を現した。


「どうして嘘なんて吐いたんだ、嘘をついたら今後信用してもらえなくなるから吐くなといつも父上が言っているだろう!」


 僕は感情的になりながらレイヴンに問い詰めた。


「すみませんでした兄上。ただ兄上が後少しすると出発するという会話をしているのを母上がしていたのを聞いてまだ起きてない兄上のことがほっとけなかったのです。」


 本当かな~?


 だけど僕もこの時間帯まで寝ていたのも確かなので謝っておく。


「そ、そうだったのか。すまなかったな確かにこんな時間まで寝ていた自分も悪かった。怒鳴ったりして悪かったな」


 僕はレイヴンのシュンとした態度を見てこの様子なら大丈夫だと確信してさっきからどうしたのか気になっている様子の母上に話しかける。


「母上、出発するができましたがいつごろ出る予定ですか?」


「フフッ、フリードったらそんなに学園に行くのが楽しみだったの?なら悪いけどもう少し待ってもらえるかしら。あと三十分もしたら出発するのですから!」


 アリストは遊園地ではしゃぐ子供をあやすように言った。


「ではそれまですることも特にないと思いますので、荷物の最終確認と枕が変わると眠りずらくなるので取りに行ってきますね」


 僕が颯爽と立ち去ろうとすると、馬鹿にするような声が聞こえた。


「えっ……兄上は枕が変わると眠れなくなるようなせんさいなひとだったのですか?びっくりしましたまだそんな変わり者がいるだなんて」


「お前絶対に友達ができないぞ!」


 相手を馬鹿にする時、うまく声に感情を乗せる妹に吐き捨てるように言って、僕はまた自分の部屋へと戻った。


 宣言した通り自室に置き忘れていた枕を回収して長い廊下を通りながら玄関に隊列して五台ぐらいある馬車のうち最もきらびやかなものに乗り込む。


 広くまた美しい馬車の中で僕はこれからしばらく帰ってこれなくなるであろうボルベルク家での思い出を思い浮かべる。




――――――――――――――――――


 今後の話の中に僕の作品の紹介文と異なる設定で物語が進んでいる可能性があります。

 僕自身、確認はしているのですが、何度か探しても見つけることができなかったのでもしも見つけた場合は報告していただけるとありがたいです。

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