第3話 到着しそう
五歳の時の誕生パーティーで初めて出会ったミライムさん。
あの日ミライムさんを見て僕は何か心の中にある鍵が吹き飛んで消えて行ってしまったかのような、視界にかかっていた靄が消えていったように感じた。
庭仕事について知りたくなった時「お坊ちゃまにこのようなことを教えるわけにはいきません!」と断られたとき無性に腹が立って花などをめちゃくちゃにした後二度と花が生えないように塩を蒔いたとき謎の農力が発動してとんでもない強さになった庭師のベルク爺。
初めて魔法を使えた時全魔力を使った魔法で倒れた木、その木を見ながら泣いていたベルク爺。
そしてたまには旅行に行ってみたいという僕の要望を叶えてくれた父テンザン。
その旅行で初めて行った雪山で楽しくなって一人で遊んでいると迷子になり、防寒具がびしょびしょになり裸一貫で洞窟に逃げ込み、もらったばかりの炎魔法で生き残った七歳の誕生日。
八歳からは毎晩剣を持ったベルク爺に泣きながらなぜか襲われた。
父上の大事にしていた貴重な武器をかっこよくデコレーションしたら、次の日には寝ている間に滅多に使うことできない転移魔法で本当に何もない谷底で一週間のひもじい生活。
農民の生活を知れと言われ偽装のために体中土だらけ、歯にまで泥を付けて送り出された農民の料理が珍しかったためがつがつ食べていると、やっぱり厳しくしすぎたと反省した両親がレイヴンに僕を連れて帰るように頼まれ護衛を連れて着いたときに出会った泥まみれの姿でがつがつ食べている姿に幻滅された九歳の夏。
腕試しのため最近出没するというモンスターを退治しようとしたとき、そのモンスターが思ったより強くて焦り、最後の捨て身の一撃を放った時ミライムさんへの愛を叫んだ十一歳の春。
その後僕は愛の戦士という二つ名を頂いた。
本当に今までたくさんあった。
僕が今まであった思い出を懐かしんでいると、御者の人たちや護衛の兵士たちが急いで準備の確認をしているようだった。
外を見ると母上とビカリアさんが微笑みながら来ている途中でそのあとを追うように父上とレイヴンが来ていた。
外の慌てようは母上とビカリアさんたちの準備ができたかららしい。
母上は優雅に馬車に乗り込もうとする。
「遅くなってごめんなさいね。さあ出発しましょうか」
「ええ、これからの学園生活が楽しみで仕方ないです」
父上たちと別れの挨拶を済ませようとそのに目を向けると父上とビカリアさんが何かを話しているようだ。
「ビカリア、道中とフリードにおいてはこれからのことについても頼んだぞ!」
「心得ておりますテンザン様。確認ですが、フリード様には特別メニューを施してもいいのですよね」
「構わん。ただし殺したりはするなよ。学園の武術のカリキュラムでは我々の立場に立つとすぐに死ぬくらい甘いからな」
「わかりました。私にできる最大限のスパルタ教育をしましょう。そういえば来年レイヴン様においても同じようなメニューでよろしいのでしょうか?」
「うーん…レイヴンの場合かぁ…レイヴンは根性が腐っていればスパルタをいい子ならば優しめにしてやってくれ」
何か恐ろしい会話を聞いてしまったような気がするが真偽を問いただすのも怖いので苦しながらにスルーしていく。
レイヴンは何をしているのかが気になり目を向けてみると、来年行くことになるであろう学園への楽しみな心の表れか行事予定のプリントを凝視している。
「おいっ、おい、レイヴン!」
「兄上はもう出るのですね。向こうに言っても気を付けてください」
む、珍しいなレイヴンが僕に対して丁寧に接してくれている。
こんなこと父上がレイヴンに対して「これ以上僕の悪い噂を立てたらさすがに怒るぞ!」といわれた後のレイヴンの僕の接し方に似ている気がするぞ。
ま、まさか、いや別に変な話でもないレイヴンもさっきの話を聞いていたのか。
今頃内心冷や汗ダラダラで慌てて僕に媚びを売っていいところを見せようとしているのだろう。
こいつは面白い!
「なあレイヴンは前の誕生日の時にあげた僕の育てた野菜のことをおぼえているか?」
ギクッ!!
そんな効果音が僕には聞こえたような気がした。
レイヴンが僕の顔を見て「ひどい!」と抗議をしているのだろう。
そう僕は、去年のレイヴンの誕生日に僕手作りの野菜をあげたのだ。
そしてその野菜をボルベルク家にのみ建設を許されているオーク養育場にいるオークの餌にしていたことを僕は知っている。
僕はきっとこの時今までにないくらい悪い顔をしているのだろう。
しかしそんなことは知ったことじゃない、僕が頑張って作った野菜をこの美しい顔に土をつけながら作った野菜をオークみたいなごみに食われたのだぞ。
このうらみはらさでおくべきか
そんなことを考えている僕に気がついているのかいないのか、「絶対にあきらめない!倍返ししてやる!」といった表情だ。
油断ならない。
「…すみません兄上。兄上に頂いた野菜を私はオーク養育場にいるオークにあげました」
いつからか聞き耳を立てていたらしい父上とビカリアさんが‘ギョッっとした顔をしており何かこそこそ話をしているようだ。
この勝負勝った。
「ホ~ホ~それはどうして?答えてみなさいお嬢ちゃん」
僕はまるで悪い魔女のように芝居かかった声で促した。
「……そ、それは…」
「おいおいレイヴンお前本当にそんなひどいことをしたのか?フリードがなんか一生懸命世話していたことはレイヴンだって知っているだろう」
おお父上まで加勢してくれた。
ビカリアさんまで僕のことを気の毒な子を見る目で見てくれている。
これで移動中の訓練も楽にしてくれるかもしれない!!
これから本当のこと嘘のこと適当に言ってレイヴンにも僕が味わうことになるであろう苦しみを与えてくれるわ。
「さあさあはっきりといいなさいレイヴン」
「あの…」
「ん?なんだい?」
「だから…」
「だからなんだい?はっきりといいなさい!」
「お前は黙っていろ!」
父上に怒鳴られてしっまた調子に乗りすぎてしまっていたかもしれない。
「それでレイブンどうしてそんなことをしたんだい?」
む、僕が調子に乗りすぎてしまったせいで父上が甘やかしてしまう空気になってしまった。
「だって私にくれようとしていたやつは兄上がミライムお姉さまの誕生日に渡そうとしていたものを、父上に止められたから渋々近くに誕生日が来る私に渡したのでしょう。私、兄上が頑張って作っていたのを知っていたからとてもうれしかったのにベルク爺が本当のおことを教えてくれてとても腹が立ったからなんです」
レイヴンが涙目になって訴えかけてくる。
その言葉を聞き届けた瞬間父上、母上、ビカリアさんまでもがこちらを向きクズを見る目でこちらを見てくる。
その目を見届けてから僕は思う。
「これってもしかして僕が悪いですか?」
みんなまとめて果ては出発の準備を済ませた兵士たちまでもが「うん」とうなずいた。
そしてとうとうビカリアさんも馬車に乗り込んで出発した。
父上がビカリアさんに何か耳打ちをしていたのを見てしまったが、僕は何を言っていたのか知ることが怖かったので見なかったことにした。
レイヴンが妙にやりすぎてしまったような顔をしていたので腹が立った。
周りが冷え切った空気の中僕の学園への第一歩が進められたのだった。
僕たちの出発の後このような会話がされていることを知らずに……
「なあレイブンどうしてフリードはあんなに性に関することに疎いのか分かるか?」
テンザンがレイヴンに問いかけた。
「そういえば兄上がファッションについて学んでいたことは知っていますが、性に関して勉強していたのは見たことも聞いたこともありませんね」
テンザンはレイヴンの言葉にやっぱりかと項垂れた。
「やっぱりか。フリードは女の子についてたくさん学ぼうとしていたからなてっきりもう知っているのかとばかり思っていたな。うっかりカリキュラムの中から外してしまった」
「もう学校に行ってしまったので仕方ありませんよ父上。こうなったからには王国学園での性教育に任せましょう。ついでに私は十人に賭けます」
「ん?何にだ?」
テンザンは頭の上に?を浮かべる。
「卒業までにできる子供ですよ。中身はアレでも見てくれは最高級ですし地位もありますし何かといって優しいですからね、何人できるのかが楽しみですね」
「家族の前でならその態度でもいいが、他人と話すときはもう少しおしとやかでいてくれよ。ついでに俺は二十人で」
一時間程すると早すぎる休憩に入り何故か僕たちの乗っている馬車だけの馬がビカリアさんの判断で外されて行ってしまった。
「あの…」
「どうした?」
「ビカリアさんどうしてこの馬車の馬を外しているのですか?」
ビカリアさんは困ったかのように「うーん」とうなってしまった。
「確かに馬がいなくなってしまったな~。(棒読み)よしフリード様が運んでしまえば、訓練にもなって丁度いいですね。さあ運んでください」
「さすがビカリアね、確かに馬車を運ぶことはいい訓練になるわ、さあ運びなさい!」
「ちょっと待って、それはさすがに飛びすぎでしょう。あと母上も‟さすがビカリアね“じゃないでしょう、どうして止めていただけないのですか?」
僕は必死に抵抗した。この世の理不尽に抗うため、そして自分の権利を守るため僕は自規模ルベルク家の当主になるであろうとする者の権利のすべてを使い抵抗した。
そしてその抵抗は五秒も待たずに鎮圧された。
現公爵婦人に成人もしていない僕が権力においてかなうはずもなく、そこで感情的になって暴れても、ビカリアさんの手によって一秒もかからずに無力化されたのであった。
そこから僕は優しく外に引きずり出され、馬車に腹回りを縛られて運ばされることとなった。
引いてみて馬は歩いているだけなのにどうして休憩が必要なのだと思っていたが、うん休まないと体が死ぬ。
確かに息は上がらない。だけど死ぬ。
休憩ごとに母上に回復魔法をかけてもらっているが精神的にはとても疲れており今すぐにもこんな馬車ぶち壊して馬にまたがりながら帝都ダマスクスへ向かいたい。
こんな未知の公爵家の人間にあってはならないことをしたのであったが、五日ぐらいするとさすがに精神的に無理が来て”お仕置き?“は終了した。
今回はたまたま商人などに会うことはなかったのだが、もしあっていたら周りの馬車は馬が引いているにもかかわらず一番豪華な馬車のみが人が引いているのでボルベルク家が変態貴族認定されていただろう。
そこからは僕が今まで運んでいた馬車の中で優雅な時を過ごしてきた。
「ビカリアさんよく考えてみれば一度も魔物や盗賊と接触してませんよね?」
「まあそうですね」
「‟まあそうですね“じゃないでしょう。いくら何も出てこないといってもさっきから何回馬車から出ていってるんですか?」
僕が今まで気にしていたなぜビカリアさんが一定時間すると走って出て行っているのか問いただすと。
「あら、フリード知らなかったの?さっきからビカリアは馬車の進行方向にいる魔物や盗賊たちを排除しているのよ」
「え、嘘。いやいや、さすがのビカリアさんといってもこんな数分で遠くまで行きかえりするだけならともかく魔物などを倒すことは、無理があるでしょう」
僕が‟信じられないなあ~“‟嘘ついてんじゃねえよ”といった顔をしていると……
「フリード様、貴方はまだまだ基礎訓練の段階ですので、まだまだですが、あと五年も私の訓練に耐えきることが出来たのなら、必ず出来るようになるとお約束できますし、これからの王国学園の環境次第ではもう少し早く出来るようになると思いますよ」
ビカリアさんが何でもないかのように恐ろしいことを言う。
「え、あのビカリアさんのトレーニングで八年もかかるのですか?」
「あら、フリードさっきの話でもう出来ることを認めたの?」
「それとこれとでは別の話ですよ。あのビカリアさんの訓練ですよ!出来るにしてもあの訓練をしないとできないのならば、いったい何人の人が出来るようになるのですか?」
母上が揚げ足を掬うようなことを言うので、うっかり大声を出してしまった。
「私の知っている範囲では結構の数がいますね。しかしそのほとんどが私と同じ軍部の幹部ですから。しかしテンザン様もこの程度のことは、朝飯前のはずですよ」
さっとビカリアさんがびっくりすることを言う。
「父上ですら出来るのですか!ということは本当に相当の数の人が僕の想像を超えるほど強いのですね」
「フリード!‟父上ですら“とは、何ですか。フリードは知らないかもしれないけど、テンザンは今までとんでもないくらいの努力をしているのよ。なんでテンザンに対する評価が低いのかは、分からないけど今の言葉はあの人の妻として聞き捨てならないわ、訂正しなさい」
さっきまでおしとやかだった母上が“有無”を問わない勢いで突然怒ってきた。
この間本気で怒られたことに比べると全くとっていいほど迫力がないので本気ではないことは分かっているのだが、話しているとき所々見える悲しげな顔から推測するに僕が父上を軽く見ていることに対して悲しく思っているのだろう。
このような母上の表情を見ているととても申し訳なく感じてしまう。
「す、すみませんでした母上。あまり訓練をしているイメージがなかったので。今聞くことべきでないことであることは承知なのですが父上が必死に努力しているとは、本当のことなのですか?今まで稽古は何度もつけていただいたことがあるのですが、修行しているところは見たことがないため、気になったのですよ」
僕がさっき気になったことを質問する。
父上は基本的に屋敷の書庫で仕事をするか、ほかの貴族に招待されたパーティーに出席するか、城に参上するかであまりというか全く訓練などをしているところを見たことがないのだ。
「テンザンはね、大抵朝子供たちよりも早くに起きてからするのと、兵士たちがさぼってないかどうかの視察のときにしっかり汗を流しているわ」
このような会話をしながらを僕たちを乗せた馬車は帝都ダマスクスへと向かっていったのっであった。
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