第47話 僕の……
「レイブン!お前しばらくは絶対に許さないからな」
拷問も終わって治療を済ませてもらうと同時に僕は気を失ってしまって次の日の朝、僕はミライムさんとエレーファを含めて家族全員で朝食をとっていた。
あれから僕は全身の血をすべて抜かれる勢いで拷問を受けていた。
そのせいで未だに頭がクラクラしてものごとに集中しずらいけど、あと二時間ぐらいしたら通常通りに戻るだろうと思う。
「確かにテンザンが索敵をするなんて隠れようがありませんし、流石にかわいそうですよ」
母上も僕の味方のようで同情はしてくれる。
同情してくれたぐらいではやられたことは変わらないのだけど、それでも同情してくれると気持ち的に楽になる。
「それにしてもやっぱりテンザン様って強いですね。仕草から集中の仕方まで参考になります」
エレーファがそういうと父上はその程度の褒め言葉いくらでも聞いてきたといった感じでぶっきらぼうと言うわけではないが特には感じていないようだ。
そういえば昨日僕を探したのはエレーファとミライムさんと訓練をした後だったのか。
昨日のあの様子が常日頃の父上だったなら確かにみんなが父上を恐れるという気持ちも納得できるというものだ。
「ええ、私何もできずにただただ関節を極められてただけでしたよ」
ミライムさんの関節を極めるなんて!
つまり関節に触れるだけ近づいたということ!
なんて羨ましい!
「スタローンの娘の場合は自分を無力化する動きの身に対応した動きさえ勉強してある程度強く成ったら誰にも負けることは無いだろうから。それだけを学ぶつもりで頑張ってくれ」
エレーファには特に何も言わなかったということはエレーファはそれほどまでに戦い方が完成しているということか?
はたまた言わなくても理解しているという信頼なのだろうか?
僕は一回も父上に訓練してもらったことがないのに、他の人だけ父上と訓練してなんだか羨ましいような気がする。
この際、どんなつらいものだったとしてもどうせつらいのだからもっと父上と過ごしたいのに……
「じゃあ、そろそろ外でみんな出発の準備ができているころだろうから行くぞ」
父上の号令で皆一斉に席を立って、プレディア海に出発する。
外にはまるで海のようにたくさんの人で埋め尽くされていた。
みんな揃って精鋭たちで上位以上の人しかプレディア海の遠征には参加しない。
それでもこの数なのだから僕の将来の権力が一体どんなものになるのだろうか今から楽しみだ。
きっと誰も僕には逆らうことが出来ないだろう。
一人一人に豪勢な馬車が準備されており、僕は久しぶりに乗ることが出来る馬車に少しだけ興奮していた。
何より目につくのは鍛え向かれたケツをしたその馬。
これほどの馬はそうそうお目かかれないだろう。
上位の人間は地方だと最強だと幅を利かせている人が多いと聞く。
それ以上の人材がこれほどの数。
もしも他国に侵略しようものならその勢いは誰にも留めることが出来ずにあっさりと世界を統一してしまうだろう。
残念ながらそれは王国の方針ではなくある程度世界を牛耳れていればいいという考え方なので其れは出来ない。
「全軍、前進」
父上のその号令で奇麗な長方形に保たれていた人の塊がその形を維持したまま前進していく。
一足一足で地面が揺れ、僕はふかふかなソファに腰掛けているのと同じ状態のはずなのに大層居心地が悪い。
全員が騎乗しており、人数の分兵糧など大量に積み込んでいるがそこまでしてプレディア海に行く必要があるのだろうか?
僕は居残りして休みたい。
そんなことを思っていたとしても何にもならない。
それよりも今はしばらく憧れていた馬車でも移動を楽しもうと思う。
力強く僕を運んでくれる馬を僕は愛おしく思いながらミライムさんの乗っているはずの馬車を覗いて誰にも邪魔をされずに好きなだけ見ている。
この時期ボルベルク領からプレディア海に向けて大陸を二つに割るような長い距離の道の十分の一位の距離に不思議なことが起こる。
一つ目は大量に集まったボルベルク家の精鋭たちを目当てに集まった見物客と商人たちだ。
そんなに長い距離を移動するのにそんなに大量の荷物を運ぶことは出来ない。
用意しているのは必要最低限の物資と僕たちのような偉い立場の人たちの荷物ぐらいで、精鋭とはいってもこの中では下っ端の人たちは自分で持ち運ぶか現地調達しかない。
お金に余裕がある人の中には荷物持ちを連れてくる人もいるようだが、足手まといが増えるとデメリットが大きくあまり推奨されてないしあまりしている人も多くない。
二つ目は商人がたくさん集まる一方盗賊はここら一帯から姿を消し、魔物は通ったところから一匹も見つけることが出来なくなる。
僕たちは一切の妨害行為を受けることなく、山を越え、谷を越え、狭い一本道を何人も一度に通れるような広い通路に変化を遂げさせながらプレディア海に到着した。
足手纏いがいなかったにも関わらず二週間ほどかかった道のりは遠かったと言っても過言ではないだろう。
潮騒が聞こえてきて僕が馬車から身を乗り出すとそこには水天一碧という言葉の似合う波の穏やかな海が見渡す限りに広がっていた。
僕は海の匂いと他の人は言うが本当は海水の腐った臭いらしい香りに顔をしかめながら到着する。
ここら辺は年中二十五度付近と非常に過ごしやすい温度でありさらに海風が強く、暑いとはあまり感じない。
この付近の改装やサンゴ礁などは毎年この時期に現れる大量の魔物や、ボルベルク領の兵士たちにより荒らされ、定着することがなく、海風に何かが腐ったようなにおいは混ざっていない。
しかし、風景がきれいだとか、そんなものはどうでもいい。
風景なんて一分も見続けることなんてとてもじゃないが出来ない。
五秒くらい見たら十分だ。
ミライムさん位見応えがあったらいくらでも見られるのに……
でもいつもと違う場所でいつもと違うミライムさんを見ることが出来ると考えたらどうだろうか?
それは素晴らしいことなのではないか?
そろそろ視線をそらさないと茶化してくるような奴が出てきたら面倒だ。
僕の行動は全てにおいて無駄がないのにそんなことも理解できない馬鹿が考えなしの行動で僕がミライムさんを見ているとミライムさんに伝えてしまうことがある。
盗み見ることにおいて僕の右に立つ奴がいないことは確かである。
そんなことを思っていると馬車は僕たちトップ層の人間たちが泊まるための別荘に着く。
一般の兵士たちの止まる場所はここから少し離れている、広場が幾つかあり、そこでこの一か月生活するための仮設住宅を建ててそこに泊まるはずだ。
仮設住宅なんて僕には一日二日はいいとしても一か月なんて耐えられない。
そんなところで過ごさなくてはいけない人たちに同情しながら僕の荷物を別荘の中に運んでいく。
およそ千人ほどの遠征にしたら誰一人として不満を漏らさずにいい旅なのではないだろうか?
ボルベルク家の正規の兵士の総数はおよそ十万人を超える。
その中でも上位以上の人間となると一気に一万人以下に絞られる。
それでも相当の数ではあるのだが、その分相当の人数が他の領地に働きに出てるため、実際にいる数自体では皇族、四つの公爵家に仕えてる数だけでいえば保有している戦力の数は最も少ないと言ってもよい。
もしも父上が集合の号令をかけるとほとんどの兵士が飛んでくるだろう。
それほどの忠誠心を持ち合わせている人達だから特に僕たちに不安は無いが、常に自由にできる戦力が限られているとなると少し不便なものがある。
「イシュメル、今日は疲れをとるためにしっかり休むよう兵士たちに通達しておいてくれ。明日から海に侵略する。……あと、今日の晩はみんなにごちそうと酒を振舞ってやれ」
父上は忙しそうに周りの人たちに指示しており、とても忙しそうにしているし、母上はプレディア海の辺りを治めているボルベルク家と一応肩を並べるルミナス公爵家の元に何人かを引き連れて挨拶をしに行った。
レイブンは会うとうっかり僕は顔を殴ってしまいそうなので会うべきではないだろう。
エレーファとミライムさんは母上についていって挨拶をしているし僕は特に何もすることがないので別荘の中で周りが慌ただしくしているのにゆっくりしているので一人だけはっきりと浮いていた。
それでも僕に文句を言うような奴はいないし、何もしないことも勇気だと割り切ってここはあえてメイドさんに紅茶とケーキを出してもらうように頼む。
メイドさんは良い。
ご主人様に逆らうようなことは決してないように教育されているし、腹が立ってもそれを面に出すようなことはないから遠慮なく物事を頼むことが出来る。
今日は休みで明日から頑張らないといけない。
そう考えると今をしっかりとボーっとしておかないといけない気がする。
力を抜き、机の上に突っ伏せると時間を無駄にしている感覚ははっきりとあるものの、それ以外にすることがないのも事実であり、誰か僕の相手をしてくれないだろうか?
明日、僕にはきっと幹部から任務が与えられることだろう。
僕がミライムさんと結婚するために必要な大前提をクリアするためのミッションだ。
このような任務に僕が楽してクリアすることができるような課題は一つもない。
大部分の課題についてはまだ何の情報も与えられてないが、すでに解禁されている情報の中でトップレベルで難しいのは最高幹部のうちの誰かを倒せというものだ。
いずれ最高責任者として率いる存在として率いるだけの強さがあることを示さなくてはならないのだろう。
要するに僕は明日出される厳しいと予想される課題をクリアするために体力を残しておかなくてはならない。
特にやることがあるなら少し寝ておくのもいい手だろう。
宴が始まれば勝手に目も覚めるだろし……
僕が転寝を始めて感覚的にある程度時間がかかったころ、腹の奥底から響き渡るような大きな地響きを伴う騒ぎ声が少しずつ聞こえてくるようになった。
これはボルベルク家の人間だけではない。
外部の人間によって音楽まで流されている。
みんな父上の行っていたごちそうを食べているということだろうか?
少しだけ涎がたれている僕の口元をぬぐって全身を伸ばしながらソファーから立ち、窓を見るとたくさんの人たちが広場で出されている肉を食べていた。
それならばと僕も急いでその宴に参加するために外へ飛び出す。
みんなが楽しんでいるのなら僕がいかないというわけにはいかない。
誰か僕と気軽に話せるくらい身近な人はいないかな?と探しながら僕は広場へ飛び出した。
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