第13話 少年のころの友達

 放課後になると今週のノルマをさっさと達成し、ザバンさんに催促に来られたりしないようにするため『成長の守り人』の集合場所へ向かう。


「相変わらずここは吐き気がするほど汚らわしいところですね。僕がこんなところに通っていることがミライムさんにばれてしまったらどうするのですか?もう少しきれいにして普通の人に見られても引かれないぐらいにはしてくださいよ」


「まぁそういわずに。この部屋にはどうせ『成長の守り人』のメンバーぐらいしか来る人いないし気にする必要は無いさ」


「そう言う問題じゃないですよ。こんなに汚い部屋にいるだけで僕は気分が悪くなるのできれいにしてほしいだけです」


 何歳も年上の先輩たちに対して一応敬語は使っているものの何年も一緒に過ごしてきたかのような口調で話しかけても一切気を悪くした様子はなく、きちんと答えてくれることはいい先輩だなと思わないことはないが、それを覆しても余りあるほどの部屋の汚さ、趣味の気持ち悪さに呆れてしまう。


「そんなこと言うなよ。この部屋にはなぜか学園御付きのメイドさんたちが入ってきてくれなくて汚れていく一方なんだよ」


「それはそれほどまでにこの部屋が気持ち悪いからでしょう。考えてみてくださいあなたは小さな男の子の絵がたくさんちりばめられてて、さらにその上に涎のかかった部屋があるとすると入りたいと思いますか?」


この部屋の現状を見ながら言うとザバンさんはその身をブルっと震わせた。


「男の子?そんな気色の悪い部屋に入りたいわけがないだろう。てか、そんな部屋があったらその部屋の持ち主が正気がどうか疑うぞ!」


 ザバンは心底気持ちが悪そうにそういう。


 僕からしたらお前たちがそんな気持ち悪さなんだよ!


 そう思ったが、話の腰を折らないためにあくまで一般論であるかのように言うよう感情的にならないよう我慢する。


「女性からしたらこの女の子の絵やパンツ装飾品だらけの部屋は気色が悪いと思うと思いませんか?」


「???」


 ザバンさんは首をかしげてまるで何を言っているのか理解できてないかのような表情をする。


「だからあなたは小さな女の子の持ち物だらけの部屋を作っていますが、ある女性が小さな男の子の持ち物や写真、パンツだらけの部屋にいたら気色悪いと思いますよね。女性からしたら小さな女の子の持ち物だらけの部屋を作っているあなたが気色悪いと思いますよね!」


 最初の方は冷静に話すことが出来ていたと思うが、最後のほうになると感情的になっててしまったかもしれない。


 いつも出来るだけ冷静であるよう意識している僕らしくない。


「まぁ、いったん落ち着け」


 ザバンさんにも指摘されてしまった。


 そこまで冷静で無かっただろうか?


 それでも誰のせいだと腹が立つ。


「冷静になれよ。小さな男の子と俺たちが大切に見守っている小さな女の子では全然違うじゃないか。全くそんなことも分からないのか。一般常識ぐらい忘れるなよ」


 ザバンさんではなくザバンは言語が通じないのだろうか。


 それにこいつに煽っているかのような気持ちはないのだろう。


 まるで小さな子供に物事を教えるかのような優しい顔つきで窘めてくる。


 それがまた僕にストレスを与えてくる。


「いや、……うん。もう何でもないです」


 これが大人になったということか。


 僕は自分と文化の違う人間に対して、お互いに全く違う意見をいいこちら側の主張が通じない場合、訂正するより、従った方が楽であることを学んだ。


「ああ、そうか。言いたいことがあったら言ってくれっていいからな」


 急にいい先輩風吹かされても腹が立つだけだった。


「いえ何にもないです」


「ならいいけど。それじゃあ人数も大分集まったことだし、そろそろ活動を始めるか」


 そういいながらザバンは立ち上がって、『成長の守り人』の他のメンバーを呼びに行き始めた。


「やれやれやっとかよ」


 僕がザバンさんと話し合いをしていた間に十人くらいの先輩方が僕の後ろに立っていた。


 気づいてはいたが、反応するのもばかばかしくて無視していたのだが、ある一人の先輩が僕の肩に手を置いて「まだまだだな」と言ってきたのが腹立った。


 すぐに十人あまりがやってきてザバンとグランさんの言葉を待っている。


「今日はザバンさんと俺との二チームで動こうと思う。チーム分けは後で行うとして、ザバンさんは第五施設、僕は第一施設に向かおうと思っている。みんな自分が行きたいと思っている施設の方のチームに言ってほしいと思っている」


 そういうと「俺は前第五施設行ったし」とか「第五施設楽しかったな」などと言いながらみんなザバンとグランの前に列を作り始めた。


 僕まだなにも説明受けてないのになと思いながらザバンと一緒にいたら腹が立つだけだろうと思い、真面目そうなグランさんと一緒の第一施設に行くことにした。


 そもそも第一施設とか何があるんだ?


「お、フリード様はこちらに来るか。いいだろう。みんな戦闘の準備をして出発するぞ‼」


「え、戦闘?」とはとても言いづらく、最低限やることは言われているので最悪の場合を考え、僕の普段つけている護身用の剣と大金をはたいて作ってもらった赤斑という異名の付けられた熊の皮製の軽い鎧など街中に出るらしいのでフル装備は必要ないかと思い、やり過ぎかな?とは思いつつもそのまま向かう。


 僕は寮まで取りに行き、なかなか時間をかけてしまったが、他のみんなは部屋に置いていたらしく結果的に待たせてしまう形になってしまった。


「すみません、待たせてしまいました」


「いや、大丈夫だ。よし、行くか」


 みんなも僕と同じような、フル装備ではないものの急所だけは守る、最低限の装備で安心した。


「敵には容赦するなよ」


 ザバンのチームとはその言葉を最後に別れて、僕たちは六人ほどで第一施設というところへ向かった。


 これからどんなところへ行くのか不安になりながらもそれを顔に出さないように気を付けながら先輩たちの背中を追いかけていく。


 僕の心の中に反して先輩方はとてもうきうきしている様子でこれから戦闘をしようとしているとは思えなかった。


 速足で前を歩くグランさんに追いつき、話しかける。


「すみません。これからどこに向かっているのですか」


「それはついてからのお楽しみだよ」


 グランさんもそんなに気負っている様子もないので、そこまで危険なところではないような気がしてきた。


 むしろあの気持ちの悪い『成長の守り人』の人たちがウキウキしながら行くようなところだ。


 なんだかさっきとは違った意味で行きたくなくなってきた。


 それでも約束は約束だし、いやいやながらも顔に出さないように意識しながら後ろをついていく。


 第一施設は学園領につながる噴水の意外と近くの貴族など階級の高い人たちが好んで住むようなところから一般人が住むところの境界辺りに立っており、意外とすぐ着くことが出来た。


 それはここら辺に立っている建物にしてはなかなか見ることがないほど大きな建物で小綺麗な僕が入る施設だとしたら不合格と言わざるを得ないが、これまで実家で鍛えられてきた僕は特に気にしないくらいの奇麗さだ。


「よし、着いたな。みんないつも通りまずは挨拶から、かわいがるぞ!」


 僕たちはとある建物の前に一列に並び僕以外が同時に右足から歩きだし、その揃った動きで息の合った様子に、後ろから見ていた僕は、もう夕方だし帰りたいという感情に襲われていた 後ろから見ていた僕は夕陽の方へ歩いていく先輩たちを見ながらもう夕方だしもう帰っていいかな?と考えていた。


「何してるんですかフリード様。行きますよ!」


 グランさんももうグランでいいかなと考えながら後を追っていく。


 先輩たちが第一施設と呼んでいた場所に入るとそこは保育園だった。


 子供がたくさんいるだけあってそこそこ散らかったりしているものの埃っぽくなど決してなく、よく手入れされているのが見て取れる。


 外からだとあまり音が漏れていなかったが部屋の中に入るとたくさんの子供たちがキャッキャしながら遊んでいた。


「みんなー!遊びに来たよー」


 いつもすかしている奴だとは思えないグランさんの子供受けを狙った声に僕は気持ち悪さを感じていたが、その声を聞いたこともたちの様子は一変した。


「キャー、グランさん久しぶりー!」


 受け答えのはっきりできる子もいれば。


「こんにちはフェリーちゃん」


「おにいちゃんだれー?」


 記憶が弱く、あまりろれつが回らない子もいる。


「お兄ちゃん初めてだよね。お名前教えて」


 元気がよく、人懐っこい子がいれば。


「プシーちゃんも遊ぼうよ!」


「……………」(プイッ)


 あまり人と関わるのが好きじゃない子もいる。


 多種多様な性格の子供たち.がここにいる中、一致していることはここにいる子供たちはみんなグランさんたち、先輩たちにすごくなついていることと女の子であることだ。


 なつかれていることに関してはキチンとお世話して相当の労力と時間をかけてきたのだなと素直に感心することが出来るのだが、女の子しかいないことに関しては気持ちが悪いし、自我を形成されていないころから異性との関りが薄すぎるのはよくないことだと思う。


 僕には関係のないことだし、先輩方にとってもかわいがる際に邪魔になる可能性の高い異性などいないほうが都合の良いだけなのだろう。


「先輩、ここにいる子たちみんな女の子じゃないですか。これは何の集まりですか?」


 おやつやこの子たちの親にお金を握らせて無理やりここに閉じ込めてたりしたらどこの団体に助けを求めようか、真剣に考えていると。


「ここにいる子供たちはみんな親に売られて行ってしまった子たちだよ。自分の責任でもないのにその後の人生を狭められてしまうのはかわいそうなことだろ。だからみんなでお金を出し合って買い取って、こういった施設にみんな一緒にして生きていくうえで必要な教育をしていっているんだよ」


 子供とはいえ、人を育てる際には必ずまとまったお金が必要になる。


 それをここまで大きく、たくさんの子供たちを集めているとなると相当のお金を投資しているはずだ。


 貴族がほとんどの僕たちとはいえ、子供である僕たちには湯水のようにお金は湧いてこない。


 先輩たちは性格はなかなか歪んでいるが、好きな子供たちのために自分の生活を少しずつ切り詰めているのだろう。


 それはとても尊敬できることだし、なかなか真似できることではない。


 なんせココまでできる金があるのだ。


 自分で健康的で顔がよく、自分に懐いてくれる子供を見繕えば簡単に手に入れることが出来る。


 これは確かにすごいことではあるのだが、これはこれとして一つ気になることがある。


「なら……」


「どうしたんだい?」


「男の子はいないですけど、男の子の場合は自己責任ってことですか?」


 これまで慈善活動など一切してこなかった僕だが、それはそれとして疑問を口にする。


「男の場合は別だよ……と言いたいところだけど。そんなに睨まないでくれ」


 僕が睨んでいることに対して誤解だよと言いたげに手を振る。


「男の子はここにいないだけだよ。ちゃんと奴隷商の人たちから買い取ってるよ」


 そう答えてくれたのはさっきまで小さな女の子たちに囲まれながら、人気者はつらいよ的なオーラを出していた人だった。


「えっと……名前は何でしたっけ」


 一応顔は覚えているし、これまでにも何度かあったことのある人なのだが、名前だけは教えてもらってない気がする。


「イオーレ・アンバーですよ。そういえば自己紹介してなかった気がします」


 少し恥ずかしそうに頬を搔きながら、答えてくれた。


 大らかで優しそうな雰囲気を醸し出していて、いい人そうなのにどうしてこんなところでこんなことをしているのだろうか本気で気になってしまう。


 というか、『成長の守り人』のメンバーみんなこの趣味だけなかったらただのすごくいい人なのに、人は好きになるものを選べないのだなと思う。


「ならその子たちは一体どこにいるんですか?」


 僕がそう聞くと先輩たちは少し僕をかわいいものを見るような目で見てクスッと笑った。


「どうしたんですか?」


「いや、知らないんだなって思って」


「何のことですか?」


「まぁ、少しは考えてみてよ」


 僕はその言葉を素直に受け取って考えてみる。


 イオーレさんは知らないんだなっていった。


 ということは僕の身の回り近くのことだと思う。


 僕の周りで子供がたくさんいる元と言えば学園ぐらいだ。


 でもここは貴族をターゲットにした学び舎だ。


 そんなところには奴隷だった子供を何人も放り込むようなことはいくらお金を積んでも出来るようなことではないし、それだとこの子たちを通わせない理由もない。


「……学園じゃないですよね」


 間違えだとは思うが、頭の中をすっきりさせるために一応聞いておく。


「お、早速惜しいな」


「え?」


 僕はびっくりして声を漏らしてしまう。


 それだと学園で働いている人とかなのか?


 そんな子供を見たことない僕はさらに頭がこんがらがってしまい、それ以上考えられなくなってしまった。


「……やっぱりわからないです」


「もうか?まだ一回しか聞いてないですよ。それに惜しかったのに勿体ない」


 先輩はもう少し考えるように促してくるが、僕はもうこれ以上考えられそうにない。


「そんな勿体ぶらないで教えてくださいよ」


「そうかなら分かりました。正解はボルベルク領の少年兵士養成施設に送って、職を得られるように促しているんですよ」


 僕はその言葉を聞いて納得してしまった。


 確かに僕が昔通わされていた養成施設では親がいないと言っていた人がやたら多かったし、絶え間なく誰かが入学してくることを不思議に思っていたことがあった。



 あの養成施設では優秀な兵士を育てる目的できちんとした教育もしているし、運動がどうしても苦手なことものために兵法を学ぶ専門のクラスもあった。


「なるほど、男の子は精一杯肉体的に苛め抜いて、女の子は精一杯かわいがるのですか」


「その言い方は少し語弊があるぞ」


 僕がとげのある言い方をするとグランさんは心外だと言いたげにしていた。


「確かに男の子はボルベルク領に送って、女の子はダマスクスに残るのは、傍から見たらすこしずるいとかんじてしまうかもしれないけど、これはこの子たちの将来を見据えてのことだよ」


「例えばどんなことがですか?」


「兵士を育てる最高峰のところはボルベルク領だというのはもう周知の事実です。戦うことが苦手な子でも、ボルベルク領には専門的な研究力は帝国学園には及ばないものの高度な教育と規律が得られます。そこを卒業しさえすればその後の生活に困るということはなかなかないことですよね。女の子の場合はメイドとしての教育をある人に頼んで、ある程度の礼儀作法を学ばせれば沢山あるギルドのうちのどこかには職を持つことが出来るだろうし、私はこの子たちが好きですが、それは僕が個人的な理由でそばにいるように押し付けて悦に浸っているのではなく、将来困らないように、幸せに暮らすことが出来るようにと考えて育てているのですよ」


説明は少し長かった気がするが、グランさんのいうことはキチンと筋が通っていなくもない気がする。


 否定的な態度をとっているものの、僕はこのような慈善活動をしようなどと考えもしなかったし、僕には否定するような権利はないことは理解しているつもりだ。


 それよりも小さい時に通ってた養成施設のみんながこんな過去を持っていたことを知らないで、無自覚に「昨日お父様がプレゼントをくれたんだ」とか「僕のお母様は自慢のお母様だよ」などそんなことをみんなの前で話したことがあって、その時泣きそうになってた子がいたけど、その様子を思い出してとんでもないことをしてしまったなという気持ちでいっぱいだ。


「なるほど、いや、思っていたよりもしかりした考えがあったので少しびっくりしているのですけど、そのお金はどこから出てきているのですか?」


 貴族の位によって所持するお金も違ってくるだろうし、いっぱいお金を出す人とあまりお金を出さない人がいたら、トラブルになったりしそうだし、そこら辺のことはどうしているのだろうか。


「それはみんなでバイトみたいなことをしているんだよ。昔の先輩に、偉い人がいて、その人の伝で金払いのいいモンスターの死体の売買とか冒険者みたいなことをして賄っているよ」


「なるほど、それだと確かに稼ぎに差があるかもしれないですけど揉め事にはなりにくいかもしれませんね」

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