第14話 馬鹿の従者の正体
さすがの先輩も優しく接してくれていたが、僕がずっと質問ばかりしていたせいで少しずつそわそわしだしてきた。
「そろそろ疲れたろ。一緒にこの子たちと遊ばないか?」
「僕は今日新鮮なことばかりなので、少し休んでますよ」
僕はそう言うと部屋の中央部にあるこの子たちが使うようではなく、大人が使う用の大きな椅子に座る。
「なら外を見て、怪しい人がいるかどうか見張っていてくださいよ。あと遊びに来た子がいたらちゃんと対応しないとしかるべきところに報告しますから」
そう言うとグランさんは周りで話しかけたそうにしていたけど、僕たちが話しているので遠慮していた子を引き連れて奥の部屋へ入っていった。
僕は特にやることもないし、グランさんに言われたとおりに外の見張りをしていた。
見張りという役割に関しては僕は誰も肩を並べられるものがいないという自負を持っている。
こんなエルメを持っているだけあってボルベルク領にいたころは一番最初に学んだのは索敵技術だったことを覚えている。
眼鏡さえ外したら僕はビカリアさんが全力で隠れて忍び寄ってきたとしても見つけることが出来る。
そんなわけで時間つぶしのために見張りを受けたとしても僕は真面目に行った。
そしてグランさんのところへ報告に行く。
「どうかしましたかフリード様?」
「いや、見張りを受けたので、外に何人か僕たちと同じくらいの年齢の人たちがいるのですけどどうしたらいいですか?」
グランさんは驚いた表情で僕を見ていたが、すぐに緩んでいた表情を引き締めて受け答えをする。
「それは具体的に何人くらいで、武装とかはしてましたか?」
「五人くらいですね。武装は潜伏を重視しているようで、我々とは大差はないもののみんな首輪や大きな袋を持っているようですね」
それを聞いてグランさんはひどく真剣な表情になる。
「みんな集まってくれ」
グランさんが大きな声を出して集まるように指示を出す。
女の子たちとおままごとをしながら遊んでいた先輩たちが恨めしそうにこっちを見ながら、グランさんの真剣な表情を見てすぐ不満一つ浮かべない真面目な表情になる。
後ろから「お兄ちゃーん」や「お父さーん」や「ぺこー」などそれぞれの役割を指して呼ばれているが、先輩たちは振り向かず、親指を立てて返事をした。
その時の顔は鼻の下が伸びていたがそれは内緒にしといてあげよう。
「それでグランさんどうしたんですか?」
不満そうな感じでは無いが、疑問に思ったのかイオーレさんが代表して質問する。
「偵察だ」
その一言でこのあたりの空気が五度は下がったのではないかというほどの殺気が辺りの充満する。
「所属は?」
「いつも通り『少年の心』だろう。数は五人武装している。こちらも五人だから各個撃破で潰すぞ!」
そう締めくくるとグランさんは僕に質問する。
「それでフリード様。その後人はどこら辺にいますか。後、これから戦闘に入るのですが、参加してもらっていいですかね?一応こちらからも報酬を出しますので。それに相手を殺してはいけませんよ。『成長の守り人』の活動時間内で人を、特に学園の人間を殺したとあってはこれから活動を監視する目が強くなりますので、だからフリード様も決して殺されることはありませんので安心してください」
「問題ないですよ。一応殺さないように気を付けておきます」
そういうと僕はみんなにこちらを覗き込んでいる人たちがいる場所を正確に共有していく。
「すごいですね。これだけの情報。さすがボルベルク家の人間といった感じですね」
先輩たちから感嘆の声が漏れるが僕は表面的には気にせず内心では舞い上がっていた。
この施設には一つしか今開けている窓はない。
今僕が外を見ていた窓がそれで、ここから見えない範囲で監視する意味はないし、一応調べてみたがそんな気配はなかった。
その窓から正面にある屋根の上に二人、その右隣の道路沿いに隠れているのが二人、さらにこの施設の庭の中に堂々と潜入しているのが一人いる。
施設の庭にはいくつか植物が植えられており、隠れる場所がいくつかあるとはいえ、堂々とここまで来たことに正直びっくりしている。
「それであの人たちがわざわざここに来た理由とかって何ですか?」
「すまないが、私はあいつらが一秒でも長くこの子たちを覗いていると思うと吐き気が催すほどの怒りが湧いてくるので、あいつらを追い返してから出いいですか?」
「ああ、分かりました。僕は屋根の上の二人をやるのであとはお願いします。後、庭にいる人はなかなかやると思うので心してかかった方がいいですよ」
わざわざこんな貴族が気になるほどのものがあると思えないが、どういった目的でここに来ているのかは気になったが終われば教えてくれるらしいし、すぐに終わらせるか。
一番強そうな人は先輩たちに押し付けたし、パパっとカスでも片付けて新鮮な話題を持ってミライムさんと雑談でもしたい。
「ああ、知り合いだからわかってる。イオーレは私とガノンをやるぞ。後の二人が道路沿いに二人をやって可能ならフリード様の応援をしてくれ。……行くぞ!」
そういうとグランさんたちは武器を以てドアからそっとに出て行こうとするので僕も剣を持って追いかける。
覗き魔たちは双眼鏡を持っているがはっきりと見たいからなのかなかなか近くに来ていたので僕たちがそこに到着するのにそんなに時間はかからなかった。
腰にかかる剣の重みをしっかり感じながら到着したときには覗いているだけあってこちらの状況を把握しており、僕相手に戦闘する準備ができていた。
二人とも僕より年上で、身長差が三十センチくらいはありそうだ。
僕より体格のいい人とは何度も戦ったことがあるが、結果はあまり芳しくない。
それでも受けに徹すれば援護が来るくらいは持たせることが出来るだろう。
「おやおや、俺らが覗いていることがばれてると思ったらフリード様がいましたか。
親の七光りで、せっかくのエルメが目がいいだけでも索敵ぐらいは出来るんですね」
嫌味たっぷりに僕にそんなことを言ってきたのは確かどこかに伯爵家の五男で名前は忘れたが微妙な立場の奴で親にまともに相手にされなくて上下関係をあまり理解しておらず、なまじ使用人に敬わられてきて社会というものを分かっていなくてその伯爵家の当主も気が付いたときにはこのような性格でびっくりさせたという逸話がある。
ちなみにこの学園には上下関係を理解してもらいたくて入れたらしいが、あまり効果は見られないようだ。
僕でも一応王族や他の公爵家の当主、大切な交渉相手になりうる可能性があるだけの人でも心の中でこのブスと思いながらでもしっかりへこたれながら対応している。
それはそれで僕の将来を見据えてのことで僕が損得勘定抜きで相手をしているのは僕の実家の友達と、ミライムさん、エレーファを含むなかなか少数だ。
そう考えると名前は覚えてないがこの人の将来がかわいそうになってくる。
まぁ、もう会って話すことは無くなるだろうけど、隣でバレないようにペコペコ僕に頭を下げ続けている人とは少し話してみたいような気がする。
この人の名前も知らないが、なかなか良い鍛え方をしているように思える。
もしかすると僕より強い可能性もある。
僕は屋根の上で戦うと後始末が面倒になってしまうので広く開いた場所を目指して走り出す。
「おい、俺が相手だからって怖気づくなよ!」
まぁ、このタイプは馬鹿だから追いかけてくるよな。
「ちょ、待ってくださいよアルバード様~」
僕と同じくらいの実力だと思っていた人からの以外とは言えないが情けなくなる声に思わず僕は振り返る。
それで思わずぞっとする。
僕が正面に立っていた時は頭を下げていてあまり顔は見えなかったし、見張りの時もアルバートとかいうやつの機嫌を伺っていたからなのか顔の確認はできていなかった。
どうせ不細工なので特に気にせずにいたが……この男どこかに貼られていた手配書で見たことがある。
それもなかなかの額が掛けられていたはずだ。
僕が先日倒したハーム・ウルの幹部だったはず……名前は確かノルザ。
「これぐらいついて来いよ。安心しろ、戦闘は俺がやってやる。お前は俺の雄姿でもしっかりその目に焼き付けて周りに広めてくれさえすればいいから」
「分かりました。任せてくださいよ!」
アルバートはこの男の正体に気が付いていないようだ。
なぜハーム・ウルのリーダーがこんなところに……
流石に学園に侵入していたということはありえないだろう。
あそこは貴族が多く通うこともあり、一般生の入学には念入りな調査を行う。
つまりこいつはアルバートの個人的な付き合いを持つ人間ということだ。
さらに言うならアルバートの名前こそ僕は覚えていなかったが彼は僕の耳に届くくらいには貴族の恥さらしとして有名な人間である。
そんなアルバートに近づこうとする人攫いグループの幹部。
良からぬことを考えていることに違いは無いだろう。
「アルバートとか言ったか。その男はどこで会ったんだ?帝国学園の生徒ではないだろう。一体どういう関係だ」
僕は屋根の上を走りながら目的の開けた場所を目指して走りながら聞く。
「はぁあ、今それは関係ないだろ。俺の気をそらせようとしてもそうはいかないぜ」
僕の質問にはまともに相手してもらえなかった。
いくら自由に育てられたといっても自分より圧倒的に地位の高い人間に質問されたら本当に殺し合いをしてない限り答えろよ。
いや、むしろこれは露骨に話題を変えようとしているのか……?
「いいだろ。それぐらい。どうせ僕が止まるまで追いつけないんだから暇つぶしに教えろよ」
さっきから僕らしくなくため口ばかり使っているが、僕はこいつ相手に敬語を使いたくないだけのただのわがままだ。
「はぁあ、最近のお坊ちゃんは自分が手加減してもらってるかどうかも分からないくらい甘やかされてるのか?天下のボルベルク家も終わりだな」
僕は今すぐ鏡を持ってきて自分の顔を見せてやりたい衝動に駆られたが、何とか我慢する。
アルバートも僕が少し煽るだけで走る速度を上げて、ぐんぐん追いつこうとする。
丁度その時僕も目的の広場に着いたので屋根から飛び降り、立ち止まる。
「お、あきらめたか?それとも体力の限界か?」
アルバートはそう言いながら屋根から飛び降り、僕にそのまま飛び蹴りをしようとする。
「これが実力の差だぜ!」
僕は飛び蹴りを必要最低限の動きでよけ、すれ違いざまに足の腱に切れ込みを入れる雰囲気を醸し出しながら、最低限歩けるようにふくらはぎあたりを切り込み、大量に血を出させる。
神経を使う作業をしながらも、僕の注意は奴に向いている。
アルバートが「足の腱を切られた」「くそ、弱そうな雰囲気を出しやがって!油断した!」などと大騒ぎをしながら歩けはしないという雰囲気を出し、足を振り回しながら血をまき散らしている。
僕の勘は当たっていたようだ!
後ろの方で何やら雑音が聞こえるが僕は集中を切らさずに警戒する。
「あれ?アルバート様もうやられちゃったんですか?」
来た。
相変わらず小物感あふれるしぐさをしており、頭では強敵だとわかっていても心の底から警戒することをさせてくれない。
「おい!ノルザ俺はまだやられてない。卑怯な罠にはまっただけだ。見てないで早く俺を逃がさないか!」
今のところ僕を攻撃する気配がないので、アルバートの方を向く。
彼は激しく動き回っていたせいか下半身全体が血で完全に汚れ切ってしまっており、だんだんと動き回って血を流しすぎて疲れてきたようで動きが弱弱しくなっている。
「あれ?アルバート様もう動けないのですか?」
ノルザの言う通りだ。
「見ればわかるだろ!こののろまめ!足の腱が切られて動けるわけがないだろ!」
確かに血は最初から大量に流れていたが、命がかかった戦いでこの程度で動けなくなるような人がわざわざ正々堂々の戦いを挑んでくるとは考えにくい。
しかも、この程度の実力で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます