第36話 『少年の心』vs『成長の守り人』 開幕

 そんな感じで移動を続けていると、『少年の心』の本拠地にたどり着く。


「じゃあ、私が一番最初に行くから、合図したら飛び込んできてくれ」


 そういい、ザバンさんが一人で敵地に入っていった。


 そしてドアを開く。


 隙間から見えたものは『成長の守り人』の部屋とは明らかに違う規模の部屋と人数。


 さすがに僕もこの勢力差で強襲するのは気が引けるが、まぁ、もう行くしかないだろう。


 先に行ったザバンさんはよく分からないが、何やら喚いている様子。


 急に登場した客人に対応している人も何やら困っている様子でおろおろしている。


「もういい!行くぞ!」


 何がもういいのかは分からないが、これがザバンさんの行ってた合図だと信じてみんなで突撃していく。


 僕もモーニングスターを振り回しながら進んでいく。


 僕が突撃しに行った段階で扉の奥から「カチコミじゃぁ!」「野郎ども命知らずのロリコンどもを一人も生かして返すなぁ!」と怒声が響き渡って建物を揺らすような足音が響き始めた。


 僕は戦闘集団にいて、相手は人数が多く、もともとこの集まりは戦闘を目的としたものではないので雑魚も多く振り回せば振り回すだけ当たってくれるので気持ちがいい。


 僕たちエルメ『固位』を発現できる人たちが先頭を行き、道を切り開く。


 どこにフィリーネさんがいるのか分からないがこういうときには奥に行くときっといるだろう。


 そういうことなのでよく分からないが、一番奥の部屋を目指す。


 突然突撃してきた集団に何やら驚いた様子の人が多数だが、何人か倒していくと武器を取り自衛をする人が出てくる。


「急になんだよ!エルメ『固位』『纏毛』」


 武器をもって立ち向かってくる人の中にエルメ『固位』を使える人が現れる。


 一番小さな僕に眼を付けたのか、僕の方にやってくる。


「フンッ!」


 モーニングスターを頭に向かって叩きつける。


 手には僕が力を込めた衝撃とは程遠い、弱い衝撃。


 それだけでまだぴんぴんしていることが分かる。


「フリード様!そいつは防御力だけはなかなかの奴です。よく自爆覚悟の攻撃をしてくるうざいやつです!」


 隣で無双しているイオーレさんが教えてくれる。


「ちょっと後ろの奴、先頭変わってくれ!」


 グランさんがそう言って後ろの人と交代する。


 そのせいで、一気に進むことのできる距離が減ったし、だんだん対応されてきて人垣が大きなものへとなっていく。


僕とイオーレさん、グランさんの三人がかりで一人と戦うことになる。


 動きを見る限り、この人はただ、エルメ『固位』を発現することが出来ただけで確かに戦闘の心得があるように思うが、大したことが無いように思える。


 三人に囲まれたことで体毛を体に覆っている奴は絶望した表情をしている。


 少々可哀そうだと思うが、早めに倒しておくに越したことはない。


「じゃあ、さっさとやりますか」


「ええ」


「一瞬で嬲りますか」


 能力の特性上、相手は近接向きだろう。


 それも肉弾戦特化の。


 負ける要素がない。







 五分後、一人の青年がボロボロの服で倒れていた。


「クソ!雑魚のくせに……思ったよりも手間取りましたね」


「攻撃が全然通らないやつだったな」


「急いで、応援に行きましょう!声が聞こえる限りでは相当抑え込まれはじめているようですよ」


 確かにだんだん戦闘音が小さくなってきている。


 あの戦力で勝つことが出来たとはとても考えられない。


 進んでいく。


 次の部屋へ行こうとドアを開けるととんだ惨状が目に入る。


「マジですか?」


「これは…………時間をかけ過ぎましたね」


「まずいことになりましたよ」


 僕たち『成長の守り人』は多くが戦闘不能になっていた。


 殺されたと分かるような怪我をしている者はいないものの僕の見覚えのない『少年の心』の人たちに比べて『成長の守り人』の倒れている人の数が多すぎる。


まだ奥の部屋では戦闘が続いているようだが、急がなくてはならないだろう。


 気を取り直して、この部屋に残ってた雑魚を戦闘不能にして先へ進む。


「「ザバンさん!」」


 次の部屋に進むと同時に先輩たち二人が駆けだす。


 僕たちとは逆にザバンさんは三対一で戦っていたようで既に血だらけとなっている。


 すでに僕たちの勢力は別動隊を除いてこの四人しか存在してないようだ。


「グハッ!」


 ザバンさんが吐血をする。


 一応ザバンさんがここの最高戦力のはずだしここで倒れてもらっては撤退するしかなくなる。


 というか今すぐ撤退した方がいいと思う。


 すぐに今回の報復を受けることになるかもしれないけど……


一応三対四になったが負傷者一名にそれを監護するのに一名必要だから実質三対二だ。


 治療するためにはきちんと引き付ける必要がある。


「何?やる気?」


「やらなきゃいけないようなので」


 イオーレさんが治療をしてくれるようだから僕とグランさんで敵を引き付ける。


 この場の雰囲気から察する限りここには『聖望の覇者』ルーベル・キャスティがいる。


 ついでにガノンもいる。


あと一人は僕の知らない相手だけど、エルメ『固位』を発現しているようだ。


でもここにバルテルがいない。


恐らくは『幼少の誓い』が戦っているところにいるのだろうけど、あとのことばかり考えてこの場がどうにかできるとはとても思えない。


「さっさと全滅させて、奥に行った子たちを確保する必要があるな」


「そんなことを私たち相手に出来るとでも?」


 グランさんがかっこつけるが、正直厳しいと思う。


 だからと言ってやるしかないけど……


「グランさん、一番強そうなのお願いできますか?他は僕がどうにかしますから」


「厳しいな……時間稼ぎくらいなら少しは出来ますよ」


「ならお願いします。エルメ『固位』『ブラックアイ』『怒瑠』」


 薬を飲み、僕の目が赤色に輝く。


「エルメ『固位』『幻影顕現』」


 僕とグランさんで立ち向かう。


 僕はガノンともう一人めがけてモーニングスターを振るう。


 ガノンは矛をもう一人は剣を持っている。


 既に二人ともエルメ『固位』を発現させており、いつでも攻撃してきそうな状況だ。


「また、会いましたね。今度は負けるつもりないですから」


 ガノンが僕に向かって話しかけてくる。


「誰ですか?」


 それを聞いてもう一人の人が話しかけてくる。


 当初の予定とはだいぶ異なってくるが、僕の目的は変わらない。


 バルテルを倒すために僕はここに来た。


 でも、ここでエルメ『固位』を使ってしまうと、バルテル相手に使うことが難しくなってくる。


 どうしようか…………とりあえず目の前の戦いに集中を欠いて、負けてしまっては仕方ない。


「前に戦ったことがある人ですよ」


「へー、こんなまだ小さい子なのに…………」


 名前も知らない人が僕のことを尊敬した目で見てくる。


 もしかしたらそんなに悪い人ではないのかもしれない。


「見た目では判断できないものですよ」


 僕は近くに駆け寄り、モーニングスターを振るう。


 さすがに剣の様に早く振ることは出来ず、剣の様に動きが読みやすいというわけではないので相手は受けることよりも避けることを選び、地面に激突する。


 モーニングスターが勢いよくぶつかったことで、地面が少し陥没する。


「た、確かにこれは見た目じゃないですね」


 僕の作り出したクレーターを見て名前も知らない君が驚いたような声を出す。


「でも、前はギリギリ負けただけだから今回は勝てるはずですよ」


 ガノンが明るい声をだしながら、僕に向かってくる。


 振り下ろしからの横薙ぎ、斜めからの振り下ろし、ガノンさんの矛が僕の血を吸おうと必死になっている。


 だけど、そのどれを一度は見た動き、そしてそこから連想することが出来る動きである。


 年齢は低くても、経験だけはいくらでもできるような環境で僕は一度見た動きくらいならもう敵ではないくらいの強さがある。


 ガノンの矛の間合いに入らないように意識してのから一転して、僕は矛の刃へ駆けだす。


 振り下ろしてきた矛をモーニングスターの棒と球を繋ぐ鎖の部分で受け止め、球を回して固定する。


 そして残った棒の方でガノンの手を殴り、矛から片腕を離させて、ねじりながら矛を奪う。


「なっ!」


「……これは」


 一連の僕の動きを見て二人は驚いたような声と感嘆したような声を出す。


「負けたってことにしてもうあきらめてくれないですかね」


 相手の武器を奪った僕は得意げになりながら言う。


「ガノンさんすみません。こんな小さな子に負けたって、少し馬鹿にしてました」


 名前も知らない君がガノンに僕にも少し来る悪口を言う。


「まぁ、この年で何歳も年下に負けたなら馬鹿にさせてもしょうがないとは思いますよ」


 それを受けてガノンは特に怒らず素手ではあるが僕をしっかり見据えている。


「これ使ってください。俺が持ってても意味ないので」


「悪いな」


 そういい、ガノンに剣を渡す。


 僕としてはモーニングスターに矛、矛は両手を使わなければまともに使えないような武器であるため、どちらかを置いて戦わなければならない。


 でも、武器を地面に置くなんてことをしたら失礼な人だと思われたりしないか不安だ。


 …………それでも置くけど。


 名前も知らない君が足に隠していた物を取り出し、組み立てる。


 四つの短い棒もつなげるとなかなかの長さになり、結合部位も堅そうだ。


「行きますよ!」


「ええ」


 二人は一斉にかかってくるが、ガノンは僕に攻撃せずに名前も知らない君と挟み撃ちにすることを優先しているようだ。


 挟まれる形になるといくら見切った人が相手だとしても不覚を取る可能性が高くなる。


僕は挟まれまいとバックステップを踏みながら立ち回っていく。


「『吹飛・一点砲』!」


 名前も知らない君が棒術で僕をついてくる。


 正直、浅すぎる攻撃だと思う。


 ここは避けて攻撃することが正解なのかもしれない。


 だけどそれが狙いの可能性もあるのでなかなかする人が少なそうな、棒の突きをモーニングスターの持ち手で受ける。


「うおっ!」


 持ち手からから来る衝撃は大したことなかったのだが、僕の体は後ろへ吹き飛んだ。


 そしてその吹き飛んだ先には…………ガノンがいる。


「よくやった!」


予想外のことが起きたせいで僕はろくに体勢を整えることのできないままガノンの刃にかかった。


背中を切りつけられた僕はその痛みにろくに立つことも出来ない。


背中から血がダラダラと流れ、僕のカッコつけた服を赤色に染める。


とにかく立たなくては!


体が動くなと言っているかのように痛みを発して警告してくるが、僕には今日やらなくてはならないことがある。


気合で立ち上がり、腰のポーチからポーションを取り出し傷にかける。


「クソッ!」


 傷口にポーションをかけたことで皮膚が再生して体は発していた警告は小さくなる。


「まともに背中を切りつけられてすぐに立ち上がるか……」


「気を付けて。前戦った時も血だらけの状況から逆転されましたから、動けなくなるまで警戒をしていてください」


 相手を吹き飛ばすエルメか……


 一対一だと面倒な相手なだけで負ける要素なんて一切無いが二人になるとその厄介さは全くと言っていいほど変わってくる。


 だけど幸い相手の技量は大したことが無いように思える。


 警戒さえすれば問題ない。


 僕が立ち上がるのを確認すると二人同時に攻撃してくる。


 ガノンの攻撃は問題なく受けることが出来る。


 だがそれはガノン一人だけの時のことで、もう一人、それも攻撃を受けてしまってはいけない攻撃を放つ相手だ。


 僕の体には受けきれなかった攻撃を少しずつ浴びることになる。


 まともな防具さえ着ていれば傷にならないようなものも多く正直僕は後悔した。


 それにしてもイルミナさんたちはどこから僕たちを見ているのだろうか?


 どこに向かってポーズを決めたらいいのか分からないので少し困る。


 このまま何もしないでいると僕は少しずつ押されていきいつか負けてしまうだろう。


「『爆裂』」


 大規模で、腹の底に響くような爆発が放たれる。


 ガノン向けて放つが、何されるか警戒されていたようで避けられる。


 それでも爆発を連続して発射し続けてガノンを狙い続ける……


 しばらく狙い続けていると直撃させることに成功する。


「ガノンさんーー!」


 名前も知らない君が僕に向かって思いっきり棒で突いてくる。


 攻撃を放っていて、背中を見せている僕は何もすることが出来ず、ただただ受ける。


「う、ゔゔ……」


 技量は大したことないくせして年上でエルメ『固位』を発現しているだけあって力強い。


 やがて痛みに耐えかねて、僕が攻撃を止めてしまう。


 光が消えると防具がボロボロになり、白目をむいているガノンが現れる。


「ガノンさん!」


 体中から煙を発しながら、膝から崩れ落ちそうになあるが、直前で耐える。


 名前も知らない君が駆け寄ろうとするが僕がそんなことを認める程良い性格をしているわけがない。


「これで終わり」


 モーニングスターを振り上げ、勝利直前の相手の絶望した顔をこの目に焼きつける。


 この僕に向けて媚びるようなこの眼、僕がいつも向けている眼、この目を見ていると僕が強いんだっとことを示しているかのようで安心する。


 そしてモーニングスターを振り下ろす。


 すると、名前も知らない君の顔面に当たる直前に何か別の物に遮られる。


「行け!クラウス!」


 その刹那、僕の右足に何かが刺さり、後ろに押し倒される。


「急いで武器を奪って!」


「はい!」


 何があったのかと


少しの間呆然としていると、いつの間にか僕の手に武器は無くなっており、ガノンはポーションを飲んでいる。


 そして僕は足を剣で刺された跡があり、手には何も持ってない。


 さらに言うと上には僕よりも体格にいい人が二人乗っている。


 何とか抜け出そうとしてもこの状況、やはり僕の力はエルメ『固位』を発現させていても二人には及ばないのか全くと言っていいほど動かない。


「一人では勝つことが出来ませんでしたが、今度は私の勝ちのようですね」


「どちらか一人なら確実に勝ててたんだけどな」


「数っていうのは武器ですね」


「これが組織の規模の大きさの違いというわけですね」


「それでも、質の重要性もあるとは思うけどな」


「けど、今回は質においては私たちの方が劣っていましたけど、数で勝ちましたよ」


「なら、数があれば僕が勝てるということですね」


「まぁ、勝ってたとは思いますけど」


「なら僕の勝ちですね」


 僕が言い終わると同時かどうかというところあたりで上に乗っていた二人が吹き飛んでいく。


「勝てると思ってましたけど、俺の気のせいだったかな?」


「いや、ザバンさん、回復するにしても遅すぎますよ」

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