第37話 ギリギリの戦い
「それは済まないと思っている。これからバルテルのところに行くつもりなんだろう。あいつは弱い部類に入るが一応『六寮の王』の一人だからな。少し回復するついでにあいつと同じ武器を使った戦いを見て、対策を考えていろ。あいつらは俺が持っている特殊な石と同じ性能の指輪を持っている」
そう言うとザバンさんは吹き飛ばした二人に向かい合う。
誰も上に乗っていなくなったので足を見てみるとなかなか大きな穴が開いている。
ここから戦闘が出来るようになるまで回復できるかは分からないが、ポーションを取り出し、一本全部かけ、もう一本取り出し、今度は全部飲む。
いったいいくらの出費になるかは分からないが、こんなことを気にする規模の家の出身ではない。
飲むだけで効果は実感できる。
水蒸気を発しながら傷口が塞がっていき、体の倦怠感は少なくなっていく。
「さすが、良い薬使ってますね」
「当然です」
余裕そうにザバンさんはしているが大丈夫なのだろうか?
反対に二人は緊張した雰囲気を醸し出している。
この様子を見るだけでどちらが強いかなど明白だ。
僕はエルメ『固位』を解除して、その『六寮の王』が使うという戦闘方法に注目する。
「『風竜』解放」
ザバンさんは首から白を基調とした奇麗なネックレスを取り出し魔力を大量に込める。
「『竜の翼』『竜の爪』」
ザバンさんの背中から羽が腕からは爪が生える。
翼を動かし始めると暴風が巻き起こる。
「慌てないで、しっかり見て動きますよ」
ガノンがクラウスと言うらしい名前も知らない君に言う。
「『点火』」
ザバンさんの動きを制限するためにそこら中に火を生成する。
僕に使うことがなかったのでわからなかったが、ガノンの矛は炎を操ることができるようだ。
ここはあくまで室内なので特に翼を出す必要性は分からなかったが、かっこよく作られている。
「『エアリアルブロークン』」
翼を強く動かすことにより作り出された火がかき消される。
それと同時に低空ではあるが宙に浮き、高速移動を始める。
爪を使いながら相手を牽制し、逃げ道を塞ぎながら一点へ誘う。
「『ドラゴンクロー』!」
一点に集められたところを二人まとめて爪で一薙ぎで意識を地に沈める……圧倒的だ。
………だけど、甘い。
僕は弓を構え、ガノンとクラウスの足を打ち抜く。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
ガノンとクラウスの口から悲鳴が漏れる。
これで、致命傷にはならないが、しばらくは動けないはずだ。
「仕返しか?」
ザバンさんが元の姿になり、苦笑いになりながら言う。
「いえ、それもありますけど、僕の爆発が直撃してもまだ動けるような人があれだけで倒れるとは思わなかったので」
「あれ?まだ意識あったか?」
「僕たちが油断するのを待ってる様子でしたよ」
「そうか、なら助かった。……俺はこれからグランとイオーレを助けに行かないとならないから、フリード様は向こうの部屋でまだ『幼少の誓い』のみんなが戦ってるはずですので、援護に向かってください。そこにバルテルもいるはずです」
するとザバンさんが来てくれたドアから誰かが入ってくる。
「ガノン!クラウス!……『早天の覇者』ザバン・クレブラスともあろうものが見上げた根性だな!」
「『聖望の覇者』ルーベル・キャスティの統べる『少年の心』と言うところは人攫い組織じゃないか。弱い者いじめをする方が何倍もマシだと思うが?」
怒り心頭といった様子で現れたのは『少年の心』の頭目のようだ。
ドアの隙間からルーベルの後ろの様子が目に入る。
「グランさん!イオーレさん!」
二人がガノン、クラウスと同じくらいの怪我をして倒れているのが見える。
そっちも同じじゃないかと思うが、そういう話ではないのだろう。
「フリード様、ここは任せてフィリーネ様を頼みましたよ」
「僕の方もギリギリになると思うので負けてその人をフリーにしたら承知しませんよ」
「もちろん勝つつもりですよ」
そう言うと苦笑いをしながらルーベルが口を開く。
「いいのか?そんなこと言って。まだ俺に勝ったこと無いだろう」
「だから今日勝つんだろ?」
ルーベルの馬鹿にしたような、むしろ逆に引き締まったようなそんな表情をする。
「まぁ、いいさ。また同じような結果にしてあげるよ」
二人がネックレスを取り出す。
「『風竜』発動!」
「『雷竜』発動!」
ルーベルのネックレスは黄色を基調としたものだ。
「いってください!」
ザバンさんがそう言うと同時に戦闘は始まり、僕は次の部屋へと駆け出した。
僕が次の部屋に行った直後、部屋から大きな爆発音が鳴り響く。
「完全に犯罪じゃないか……………」
次の部屋の中では複数の幼い女の子相手に複数の男子が襲い掛かっている様子があった。
「あ!フリード様、手伝ってください!」
『絶壁のロリータ』ことレスキュラさんが僕のことに気が付くと頬を緩めて助けを求めてくる。
六対四で一人一人の体格の違いにより抑えられ気味だった『幼少の誓い』だが僕が来たからにはそうはさせない。
「もちろん!言われるまでもなく」
周りを見渡してどんな奴がいるのかをまずは確認する。
デブ、ブス、ブス、アホ面、アルバード、バルテルとなかなか骨のありそうな連中ばかりだ。
人数的に言うとこの中の全員がエルメ『固位』を発現していることになる。
それにアルバードは前、落とし穴だけで戦闘不能になってたような奴なのに、前とはずいぶんと雰囲気が違うし、動きも悪くない。
アルバートも僕の方を見て驚いてるようだが、話しかけてくる様子はないのでとりあえず弓を取り出し、弱そうなやつ、もしくは動きの鈍そうなやつを狙っていく。
「まずは疲れてきている雑魚から行きます!」
僕から放たれた矢は僕が狙っていた、これまでの戦闘で疲れ切っていて、肩で息をしている人へ向かう。
いくらエルメ『固位』を発言しているとはいえ、実践では練習よりもはるかに早く体力が消耗される。
「おっと!」
「危なッ!」
「ギャア!」
僕が狙った三人の内もっとも疲れていた人の足に僕の矢は当たった。
「一人脱落~!」
続けてポーションを使ってもしばらく動けなくするためにさらに矢を打ち込む。
「ギャアアアア!」
四肢に矢が刺さり、見知らぬ先輩は叫びを上げながら倒れていった。
僕は残った人に目を向ける。
さすがはエルメ『固位』に至っている人だ。
僕の矢が避けられてしまった。
「すごい腕ですね。なかなか崩せなかった数の壁を……………」
レスキュラさんが僕には目もくれず襲い続けている人の攻撃をよけながら僕をほめてくれる。
「皆さんのおかげですよ。さすがの僕でもここまで消耗させてなかったら当てられなかったですよ」
レスキュラさんたちを襲っている人に狙いを定めて、せめてあと一人くらいは仕留めておきたい。
僕が一人を仕留めたことにより、大分警戒されてしまったようだ。
だが僕は警戒されてない状況での訓練なんて意味がない。
僕は警戒されての状況から当てる訓練をしている。
それも消耗している相手となれば当てられないということは許されない。
今から僕が狙うのはさっき“危なッ!”と言っていたやつを狙う。
「死ね!」
僕の放つ矢は警戒されていたことにより、紙一重で避けられる。
それでも、何度も何度も撃ち続ける。
「クソッ!いつまで俺を狙うんだよ。そろそろあきらめろ!」
僕が狙い定め続け、とある人のところへ導く。
「今です!レスキュラさん!」
僕は誰かに追われ続けていたレスキュラさんの走っている目の前に追い込む。
「はぁあ!」
レスキュラさんの剣が僕の追い込んだ奴を殺さない程度に瀕死に追い込む。
これで、僕たちは四対五。
あとは任せて僕はバルテルとの一騎打ちに持ち込むことにする。
「おいバルテル!僕のことを忘れたわけではないだろう?あの時の仕返しをしてやるから来い!」
僕が部屋の隅で特に何もせずに戦況を見守っていたバルテルに向かって叫ぶ。
「あの時の……俺にやられて自慢の顔が酷いことになってた奴がでかい口を叩くなぁ。まぁいいです。また白い眼を向かせてやるよ」
これで僕がいる前と比べて三対四。
四対六の状況で耐えきることが出来るような人たちだったんだ。
これで相当の援護になっただろう。
僕は目の前の相手に集中することにする。
「周りに人がいたらやりにくいしこっちの部屋でいいか?」
僕がバルテルたちの阻みたそうにしている部屋とは違う、部屋を指さして言う。
「いいのか?そっちに行くと助けが来てくれないぞ」
「必要ないことだからな」
バルテルが納得したようにこちらに来たので、僕も歩き出し、先に部屋に入る。
部屋に入った瞬間を狙って奇襲でもしようかと思ったが、さすがにそれを警戒しているのか、バルテルの目はしっかりとこちらを向いているので渋々ながらもあきらめる。
部屋の入口から少し離れた場所で待っていると少ししてバルテルが入ってくる。
「エルメ『固位』『シルバーアイ』『恋着』」
僕があとエルメ『固位』を発現できる時間はどれくらいだろうか?
体感的には後十分ほどしか残されていないように思える。
決着がつくには十分な気がするが、もし膠着状態に陥ると確実に負けてしまう。
それでも前回戦った時のコンディションを考えるとまだ良い方だ。
問題ない。
「エルメ『固位』『吸握不離』」
バルテルが前回見せた四つ足の構えになる。
前回は何を目的とした構えなのか分からなくて苦労したが、もう何がしたいのか分かっている。
四つ足の状態で僕に向かって走ってくる。
僕は前回と同じように後ろに周りにあるものを適当に投げながら牽制する。
それでも特に近くに投げて痛くなるようなものはなく、すぐに僕の近くに来る。
僕はバルテルが地面に着いた場所をしっかりと確認しながら襲い掛かってくるバルテルの手を避け、モーニングスターを叩きつける。
「グゥァア!」
叩きつけたところから血があふれてくる。
バルテルが呻き声を出したのを確認するとモーニングスターを引き戻そうとするがバルテルくっついて離れる様子はない。
ならばと、モーニングスターの衝撃で痛みに頭を押さえているバルテルの首にモーニングスターの持ち手と球の間にある鎖でバルテルの首を絞め、持ち手を別の場所にくっつけて離れる。
「グ、グェぇエええ……………」
さては強く締めすぎてしまったか?
自分の能力でバルテルの自滅してる様子を見ていると腹の底から何かがこみあげてきていそうな気がする。
「おぅえ!ゲホゲホ」
バルテルはエルメ『固位』を消したのか、僕のモーニングスターを取り除き、涙目になって僕を睨む。
「すぐに終わらせてやる!『執心傾倒・恋の盲目』」
鎖が解けて息を吸うことが出来始めたとき、僕の必殺技を放つ。
ピンク色でハート型のビームが『少年の心』建物を抉り取りながらバルテルに向かって放たれる。
「がぁぁああ!」
毎度毎度別の種類の悲鳴を上げて忙しい奴だ。
「やったか?」
さすがにこれで僕の勝ちだろう。
昨日から続けて何度もエルメ『固位』に必殺技に僕もさすがに疲れてしまって魔力も体力ももう限界に近いや。
「……ケホケホ……あと少し遅れてたら負けてましたよ」
バルテルの首から白色の指輪が輝いている。
そして、バルテルの体に甲羅のような白色のものがある。
丁度タートルに似た感じだ。
ただただ硬いだけでよく防具に使われているタートルは攻撃力がその巨体故低いというわけではないが、何と言ってもその防御力で一目置かれている魔物だ。
さっきのザバンさんが使っていた様子を見ると魔物の体の一部を自分に取り付けるのだろう。
正直僕はもう体力も魔力も限界に近い。
さすがにガノン相手に何度も『爆裂』を使ったせいで特に魔力がしんどくなってきている。
「マジですか……!」
「『六寮の王』としての力を年下に使わなくちゃいけなくなるとは………」
恥ですね。と小さな声で付け加える。
ここで僕の一番苦手なタイプの持久戦がくるか………
それにもうあと三十秒ほどしか僕がエルメ『固位』を使える時間は残されていない。
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