第21話 休日に向けて
明日は丸一日休暇らしい。
僕には縁のない言葉だったのであまりピンと来てなかったが、授業が終わっても周りを見るとうきうきしている。
休みがあっても一体何をするつもりなのだろうか?
それに休みが欲しいなら授業をさぼればいい。
実際僕もたまにさぼっているし他の人も良くさぼっている。
僕たちは貴族なので、いろいろと用事が出来ることがある。
何をおいてもそれが一番大切なもので、誰がさぼっていたとしても誰も文句を言わない。
もちろんその分課題は出されるが、理不尽な量というわけではない。
なのにどうしてそんなに楽しみにしているのかクラスメイトに聞いてみる。
「どうしてそんなに楽しそうなんだ?」
「ああ、フリード様。明日の休みのことです?」
「ああ」
「やっぱり公然と認められた休みというものは友達皆いますし、普段は悪いことはしていないと言ってもさぼっているわけですから罪悪感があるのですけど、認められることってすごく気持ちのいいことなんですよ」
僕にはこの一か月で友達と呼べるのかたくさんの人たちに囲まれることが多くなった。
基本はやはりエレーファとミライムさんの三人で行動しているが、一人で移動していたりするとよく話しかけられるようになった。
基本的に僕のことを立て、ちやほやしてくれるし、僕がボルベルク家に生まれることによって知らなかった新たな常識を知ることが出来た。
それと同時に僕は僕に対していつか労ってやらないといけないなと思った。
やはりボルベルク家の環境は異常だったらしい。
それは知れてよかった情報なのだろうか、それとも知らなかった方が幸せだった情報なのだろうか僕には判断することが出来ない。
「そう言うものなのか。ありがとう」
「いえいえ、これくらいなんでもありませんよ。いつでも聞いて下さい」
全くここにいる人間というのは権力に従順な人間が多くて、面白い。
そそくさと僕が話していた人はどこかに行ってしまう。
「フリード様、明日どこに遊びに行きます?」
僕がさっきまで話していた人の背中を目で追っていると後ろからエレーファが話しかけてくる。
「お?行くのか?」
「何言ってるんですか。一か月くらい前に遊びにいこう!みたいな話してたじゃないですか。その時は時間と場所がなくて諦めましたけど、明日ならいけるでしょう。ミライム様も来ますし、異論は認めませんよ」
僕としても嫌なわけがないし、いい気分転換になってむしろいいこととすら思う。
「別にいかないとは言ってないさ。行きたいとすら思っているけど、行くこと自体に驚いただけだ」
「ならよかったです。ミライム様にも言っておきますね!」
そういいながら、どこかへ行こうとする。
「おい待って。どこ集合かとか何をしに行くかとかきいてないぞ」
「そう言えばそうですね……………明日までにどこに行くかを考えておくので、荷物は自衛用の武器とお金ぐらいでお願いします」
そういい、またエレーファは歩いていった。
まだ計画を練りたかったが、エレーファがするようだし諦める。
エレーファに任せていれば問題ないだろう。
エレーファは完璧という言葉の似合う非の打ちどころのない奴だ。
人格的にも優れており、たくさんの人からの信頼を集めている。
その分自分から信頼を集めようとしている節も見られるが特に問題ないだろう。
だから付き合いの長い僕もエレーファのことはしっかり信頼している。
「分かった。準備いておくよ。それでどこ集合だ?」
「集合場所ですか……なら噴水前で、朝の九時にお願いします」
今度こそエレーファは行ってしまった。
必要最低限の情報は聞きだしたし問題ないだろう。
どこに行くかは分からないが明日みんなで遊ぶのが楽しみだ。
僕は速足で自分の部屋に戻り、必要になりそうなものの準備をする。
「あの……フリード様……」
何か落ち込んだような声が後ろから聞こえてきた。
イルミナのすぐ後ろから話しかけて来ることにもう慣れてしまった。
だがイルミナの落ち込んだ声には慣れていない。
どうしたんだろうか。
いつも人をいじめることしか考えてなさそうなのに、落ち込んだ声何てに合わないものだして……………
「何かありました?」
「それが……………私今日、ボルベルク領から集合命令が出て、明日から離れないといけなくなりました」
本当に何があったんだろうか?
「戦争ですか?」
とっさに思い浮かんだ単語を口にする。
「いいえ、なぜだか私が護衛の仕事をきちんと果たしてないみたいな声があるらしく、そのことでいろいろ質問されるらしいです」
「頑張ってきてください!」
全くくだらない報告なんかしてないで、さっさと行け。
僕の声をちゃんと父上は聞き入れてくれたようだ。
僕は久しぶりに父上を尊敬する。
「そうではなくて、ビカリア様も明日は城に用事があって忙しいようですし、私もいないのであればだれも護衛に着くことが出来ないのですよ」
確かにそれは死活問題だ。
これまで僕は街中を歩くだけで何度か殺されかけている男だ。
特に恨みを買うようなことをした記憶もないのにこの始末である。
そんな僕が護衛のいない状態でたち中を歩くなんて殺してくれと言っているに等しい行為だ。
だが、幸い僕のこれまでの護衛たちは私生活に影響が出来る限り少なくなるように、気を利かせて隠れながらやってくれていた。
これはその実力によってのみなす事が出来るのだが、計画的に狙っている奴であれば僕の護衛が隠れていることを知っているはず。
だから護衛がいないっていうことには誰も気が付かないはずだ。
「でも、エレーファも一緒にいますし、ミライムさんの護衛もいます。一日ぐらい問題ないのでは?」
そういうとイルミナは不思議そうな顔をする。
「あれ?知らないのですか?ミライム様とエレーファ様には護衛はついていませんよ」
どういうことだ?
僕はよく暗殺者に襲われている。
僕の命に迫れるような奴には誰一人としていなかったが、俺でも襲われた。
「どうしてですか?僕ですらよく襲われているのにミライムさんに護衛を付けないなんてどう考えてもおかしいですよ!」
「だから知らなかったのですか?エレーファ様は護衛を必要としないくらいの強さを兼ね備えているのでいませんし、ミライム様には誰も傷つけることが出来ないので必要ないのですよ」
ミライムさんに誰も傷つけることが出来ない?
どういうことだろうか?
僕はそんな話聞いたことがない。
愛おしすぎて誰も傷つけようとしないという話だろうか?
僕はボルベルク領の幹部に護衛についてもらっているというのにみんなはついていない。
なんだか僕だけみんなよりも劣っているみたいでなんだか嫌だなぁ。
「ならむしろ必要ないのでは?護衛が必要ない人が二人いるのであれば僕が一人くらいいても僕もエルメ『固位』を発現させているわけですし、大丈夫だと思いますけど」
「それでもエレーファ様はある程度戦うことが出来るのですけど、ミライム様は自分のことを守ることしかできません。自分を守るだけならそれこそ誰にも傷つけられることはないのですが、あまり直接的な戦力はありません。さすがにエレーファ様もご自分を守ることぐらいしかできないでしょうし、やはり危ないですよ」
それでもせっかくの休日、明日行かないわけにもいかないし、まぁ大丈夫だろう。
「そんなに帝都の治安が悪いわけでもないでしょうし、大丈夫じゃないですかね」
それでもイルミナの顔からは不安そうな表情が取れない。
いったいどうしてここまで心配するのだろうか?
……………まさか僕に惚れたか!
そんなことは無いだろう。
僕を鍛える時の拳に愛を感じられなかった。
感じられたのは狂気と興奮のみであれは只々恐ろしいだけだ。
「分かりました。ならばせめて完全防備で行ってください。何かあったときには私の首が飛びますので……」
やっぱり僕のことを思ってのことではなかったか。
自分可愛さのためだとは……とはいえ、そのために僕のことを本気で心配してくれているのも確かだ。
遊びに行くだけなのに完全防備で行くのもどうかと思うが、服の下に来て、武器はカバンの中に入れていればいいだろう。
武器も持ってこいと言われていたし問題ないか。
「分かりました。ちゃんと持っていきますので安心して絞られてきてくださいよ」
「本当にどうしてですかねぇ。私、ちゃんとフリード様が出してた手紙は処分してたのに、いったい誰が……………」
何やらとんでもないことを聞いたような気がするが、この女どうしてくれよう。
これは確かに護衛以前に一から教育をやり直してほしいレベルの問題児だわ。
「それでは、お疲れさまでした」
「しばらく会えなくなるかもしれませんが、お気をつけて」
そういい、イルミナはどこか行った。
それにしても僕の手紙がちゃんと届いていなかったとしたらいったい誰が父上に垂れ込んでくれたのだろうか?
次の日、僕は完全防備で部屋の中に立っていた。
一番下にはよく汗を吸って、肌触りもよく、破れにくい高いインナーを着て、その上に丈夫な鎧の様に全身を覆っているわけではないが、急所はしっかりと守り、戦闘でよく使う腕のサポートまでしっかりついているデザインと機能ともに優れたものを身に着ける。
お金はいくら持っていけばいいのか分からないが、あまり使い過ぎないように自制するため少しだけにする。
大きな手にもつカバンの中にはこの前もらった矛を差しすぐに取り出せるようにし、戦闘用マスクとゴーグルが入っている。
その他回復薬などクロームさんにもらったものも入っているが、冒険に行くわけでもなく、ただ遊びに行くだけなのにどうしてこんなにも準備しなければいけないのだろう。
まだ時間に余裕はあるがここで待っていてもしょうがないし早めに出ることにする。
防具をしっかり付けたままみんなの前に出るのは正直恥ずかしいところもあったので上に一枚大きな服を着る。
妙にもこもこした格好になってしまったが、その文僕はかっこいい。
みんな新しいファッションだと思って見逃してくれるだろう。
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