第28話 裸が見たい
まぁ、そんなことをミライムさんに言ってもしょうがない。
ミライムさんの両親に交渉しなくては……
戦争でも起こして、ミライムさんの実家の領に敵の軍勢でも仕向けたら交渉を有利に進められるかなぁ?
結婚は今言っても仕方がないとして、ほかに何かあるかなぁ?
何か軽いものならいくらでも思いつくけど、ミライムさんが今回の件について納得ができるくらいで叶えることができるもの……
……ミライムさん結構気にしているみたいだし。
難しい。
何か宝石とかで作ったアクセサリーを手作りでお願いしようかなぁ?
結構作るのは手間だろうし。
納得はしてくれるだろう。
それか……あれかな?
いや、あれを頼んでしまうと僕はミライムさんに嫌われてしまう可能性がある。
それに頼んでしまうと断りずらい今この時ではいやでも断れないかもしれない。
でも……思い浮かんでしまっては頼みたい!
だってこんなチャンスめったにないんだから。
「……ミライムさんは僕が芸術作品を作ることに余念がないことは知ってますか?それは……僕が強くなることと同じくらいであることも……」
「ええ、もちろん。この前見せていただいたドラゴンもすばらしい出来栄えでしたし、フリード様の作品は私の実家にも飾られているくらいに有名ですから」
え?
なにそれ……嬉しい!
「なら、話が早いです。僕の作品のモデルになってください!」
僕としては珍しく頭を下げる。
「ええ、もちろん構いませんよ」
ミライムさんはわざわざ頭を下げてお願いする僕に驚きながらも即答してくれた。
なんてありがたい。
嫌われてしまうかと思ったのに、了解してくれる声に僕に対する嫌悪感は感じられなかった。
「いいんですか!」
「ええ、二言はありません。私、モデルやるなんて小さいころには宮廷画家に書かれたことはありましたが最近はそういうこともなかったので緊張しますね!」
二言はないという言葉まで、やはり神か。
「よし!僕も人をモデルにして作品を作るのは自分自身をの属と初めてのことなので楽しみです」
「そうなんですか?フリード君ほどの腕前なら作ってくれって声も多いでしょうに・・・・・・」
「いえ、僕が断っているんですよ。確かによく注文は受けるんですけどね。……作品を作るためとはいえ、人の裸なんて見たくないですし。僕が見たいと思えるのは僕自身かミライムさんだけですよ!」
「――え?」
僕が話し終わると同時にこれまで温和な反応を見せていたミライムさんの表情が固まる。
「人の裸?……裸?」
「ええ、裸です。人に頼むのは初めてですので緊張しました。勇気を出してみてよかったです!」
僕の反応を見たミライムさんは何とか言葉を紡ぎだそうとしていたが、なぜだか、それからは一言も話すことがなかった。
ただ、顔面を蒼白としていた。
それでも僕のテンションは高く、たとえ、ミライムさんが一言も花咲く手も僕が一方的に話しかけることで僕としては楽しい時間だった。
ミライムさんのジェスチャーによると今日は都合が悪いらしく、ヌードデッサンはまた後日にやることとなった。
「今日とか空いてませんか?今日なら僕もしっかりと時間がとれるのでお勧めですよ」
「今日はその………課題が多いので遠慮させていただきます」
「課題なら僕と一緒にやりましょう!すぐに終わらせてみせますよ」
「いえ、一人でやることに意味があるので………」
ある朝、いやここ最近毎朝ミライムさんに話しかける不届き物がいる。
明らかに嫌だという雰囲気を醸し出しているにも関わらずその不届き物は諦めない。
ミライムさんが席を立ち歩き出してもついていく。
そんな礼儀知らずで面倒な奴は一体誰なのだろうか?
「昨日もそう言ってたじゃないですか。僕は早くミライムさんの美しい裸体を芸術家として表現したいですよ」
僕だった。
ヌードでモチーフになってくれるとミライムさんが僕にった日から毎日のように僕はミライムさんにいつが都合がいいか聞いており、毎日用事が詰まっているため断られていた。
そして一か月が立った頃。
「分かりました。今日はもう言い訳も思いつかないですしいいですよ」
ミライムさんが毎日聞いてくる僕に折れ、了承してくれた。
うすうすそう感じていたが言い訳だったのかと僕はこんなにも乗り気なのにミライムさんは嫌だと思ってたのかと少し悲しく思う。
裸を見られることの何が嫌なのだろうか?
あまり人に風潮していないとはいえその気になればいつでも服を透かせることのできる僕には理解できないし、僕がこれまで裸見せてと頼んだ女の子たちは喜んで見せてくれた。
ただ、スケッチしただけで終わったが、終わると悲しそうな表情をしていたことを覚えている。
でもそんなことよりも今の僕にはミライムさんと裸の状態で同じ時間を共有することが出来ることについてのうれしさしかない。
なぜだろうか、僕はこれまでミライムさんの裸だけは見たことがない。
見てはいけない。
なぜかそんなことが頭によぎり見ることが出来ずにいる。
ミライムさんの裸の状態の像を彫り上げたときも想像だけで作り上げた。
そんな想像するだけの日々も今日が最後。
僕は今日ミライムさんの裸を物色する。
「ええ、そう言ってくれる日をずっと待ってましたよ」
「いや、待ってないじゃないですか」
僕のこれまでのつらい、悶々とした時間を振り返ろうと思いながら放ったその言葉にミライムさんは一瞬の間もなく言いかえしてくる。
確かに僕は何回かミライムさんに僕の気持ちをほのめかすようなことを言わなかったわけでもないけど、すぐさま言い返すほどのことだったかな?
「私一応いいとは言いましたけどその場の雰囲気も相まっての失言で、さすがにヌードは嫌ですよ!失言とはいえ一度やるといったものはキチンとやらなければならない。だから少しでも忘れてくれることを願って言い訳をしましたけど一向に忘れてくれる気配がないのであきらめたのですよ」
「そこまでヌードが嫌ですか?」
「嫌ですよ!」
「それまたどうして?」
「人前で肌を晒すなんて恥ずかしいに決まってるからじゃないですか!」
「なら僕も裸になる予定ですし、これで問題ないでしょう」
「それはもう、逆に問題が増えてます」
ここまで人前で肌を晒すことに抵抗を持っている人だったとは。
僕個人としては他の人もまだ見たことがないということにつながるので正直うれしいことではあるが今の僕としてはそれが少しもどかしい。
ここ最近、僕はボルベルク領では手に入れることのできなかった様々な知識を手に入れている。
………ジャンルは一つだけど。
そのような知識で僕のこれまでの謎であった子供とはどうすれば生まれることが出来るのかということと、どこから生まれるのかということを知った。
その他たくさんの専門用語にそこから派生する隠語の数々それらの知識を人づてから得ている。
それらの言葉を僕としては理解しているが、実感は出来ていないという状態。
普段から見ようと思えばいつでも女の子の裸を見ることのできる僕には新鮮味がない。
だから一応ミライムさんがどういったことを不安になっているかは理解できているつもりだ。
だが、そこに実感が湧いてないからどのようにすればその不安を取り除くことが出来るのかが分からない。
「そんなに嫌だったなら普通に言ってくださいよ。本当のことを言ってもらえればすぐに諦めましたのに………」
「なら今日のところはもうこのまま帰ってしまってもいいですか?」
「……よし!気を取り直してして僕の部屋に行きましょう!」
「ちょっと!」
「どうかしました?」
「どうかしましたじゃないでしょう!」
「………もしかして僕の部屋は嫌でした?それならミライムさんの部屋でもいいですよ」
そう言うとミライムさんを脱力して何かを諦めた哀愁のようなものを漂わせる。
だが、そういったことは気が付かないふりをしていれば何とでも言い訳が付く。
自分の目的のためなら相手が嫌がっていることに気が付いてもそれを押し通す胆力が必要なのである。
「行きましょうか。私の部屋は嫌なので、フリード様の部屋でいいですか?」
「もちろんです!」
相手に後ろめたいことがあったりすると無いも言いかえしたりしてこないのだから。
だから僕は今回のようなその場のノリによる失言を何よりも恐れている。
もちろん僕よりも身分の低い人たちなら問答無用で無かったことにするけど。
僕が約束をきちんと守るのは僕と同等、もしくはそれ以上、そして僕が認めている人だけだ。
基本的にボルベルク領の人たちとの約束を守らないと殺されそうになってしまうのでそれだけは絶対に守らなくてはならない。
逃げることのできないよう、ミライムさんの左斜め後ろに陣取り歩く速さを合わせる。
少し僕の方を気にして歩きにくそうにしていたが、僕はチラチラ見てくるその視線が向けられるためににっこりと笑顔を向けた。
僕が笑顔を向ける度に歩くスピードが上がり、しばらくすると遅くなってきてまた僕の方を振り返る。
そんな感じで歩いていたとしてもいつか終わりがやってくる。
僕の部屋だ。
さすがにミライムさんに僕の部屋を開けさせるわけにもいかないし、僕は前に出てドアを開け、部屋の中に招き入れる。
「どうぞどうぞ。遠慮する必要ないですよ」
「遠慮したいのですけどね」
そういいながらもちゃんと約束を守るために部屋の中に入ってきてくれる。
そういった真面目なところも僕が大好きな面の一つだ。
「まぁ、そんなこと言わずに、いきなり脱ぐというのも変な話ですし、まずは一緒にお風呂にでも入りましょうか」
「フリード様は言葉が不自由なようですね。それは私に帰ってもいいということでいいのですよね」
「じゃあ、お茶とお菓子を用意しますので待っていてください」
僕はそう言い残して準備に取り掛かる。
僕の常に備えているお菓子やお茶を取り出して持ち運ぶ。
すべて僕がおいしいと感じるものしか用意していない。
果物を使った物や、小麦粉を使った物を出すとミライムさんも少し顔を輝かせる。
「これを食べたら早速取り掛かかりましょう!」
「この量だと今日一日かかってしまうかもしれませんね」
「大丈夫ですよ。僕も手伝いますし、ものの十分ほどで食べ終わりますよ」
「そんなに急いで食べることもないじゃないですか」
「いえいえ、これはあくまで本来の目的の回り道、直線ではやりづらいことでも回り道をすれば少しは楽になる。それでも道は短い方がいいものですよ」
自分でも何を言ってるのかよく分からないが深みのありそうで全くない、ただそれだけが目的だとあまり印象が良くないからお菓子を渡して機嫌を取ってるだけでもこういえばいろいろ考えている人だと思ってもらえるかもしれない。
僕の出す紅茶は相変わらずマズい。
ただただ見よう見まねでやってるだけとはいえ、ここまで変わるものなのだろうか?
残ったらイルミナにでもあげよう。
そういえばイルミナはいったいいつになったら『聖域』から戻ってくるのだろうか?
本当に罰ゲームにしては難易度が高すぎたようだ。
ちょっとだけ反省しておこう。
おかげでどこかに行くときには学園に在籍している元ボルベルク家の兵士である先生たちに護衛をお願いしている始末だ。
それにしても僕の出しただけのお菓子はおいしい。
僕のお小遣いを使ってイルミナが買ってくるもので、限定品などそう言ったものに目がないイルミナは基本的な味付けが至高だと思っている僕とはあまり趣味が合わないが、今日買ってやがったお菓子は僕好みのおいしいものだった。
僕にお金を使うような機会はそうそう訪れないし、訪れたとしても常に携帯している金貨で事足りるものだから僕のへそくりを使うことは一向にかまわないのだけどせめて言ってほしいというのが僕のささやかな願いだ。
「く……おいしい、です」
なぜかミライムさんが悔しそうにそう言うがなぜだろうか?
「フフフ、そうだろうそうだろう。いつでも用意しているから欲しくなったらいつでも僕の部屋にきたまえ」
「く、私はこんなものに惑わされない!」
本当にどうしたのだろうか?
ノリで適当に合わせたらさらに返しがあって正直困惑している。
「その度胸は認めてやる……だが、それはいつまで持つかな?」
「私は……私は……折れない!」
そう言いながらパクパクとお菓子を食べるミライムさんはとても可愛かった。
僕が手伝う間もなく、出したお菓子はすべてミライムさんが食べてしまった。
僕はと言えば、上品ながらも急ぎ目にお菓子を口の中に含んで、僕の出した紅茶を一気に喉に押し込むミライムさんを肘をつきながらただただ見ていた。
ミライムさんは少し気まずそうにしていたが僕はやめない。
だってこんなにもかわいいんだもの。
いつまで見ていても飽きる時が来るとは思えない。
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