第31話 ミノタウロスとの闘い

「じゃあ、俺これで……」


「僕もこれを……」


「私はこれにします」


 どんどん依頼を受ける人が決まっていく。


 『幼少の誓い』のみんなもどれにするか悩んでたみたいだが、均等に分かれるようにしていった。


 各班六から十人に別れてパーティーが決まった僕のところに来たのは『癒しのロリータ』フィリーネさんだ。


 僕はアタッカーも盗賊も狩人も壁役もほとんどのことをすることが出来るが回復はポーションに頼るしかない。


 だが、僕が怪我をするような敵と戦っているときにポーション飲むことなんて到底できるようなことではないので、回復役の人が来てくれて正直うれしい。


「よろしくお願いしますね」


 前に出て、にっこりと微笑みながら挨拶をする。


 すると顔が真っ赤になり僕から目を逸らす。


 こんな反応を見てるとやっぱり僕ってかっこいいんだなって思えて自身が湧いてくる。


「こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします!」


 噛みながらも僕に返事を返してくれる様子を見てるとなんだか意地悪したくなってくる。


「ええ、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 周りの先輩たちに遮られて僕の視界からフィリーネが見えなくなる。


 僕のことばかり見ているのが腹立たしかったのだろうか、先輩たちは必死になって気を引こうとしている。


 他の先輩たちもそうだ。


 僕の方に時々視線をやる『幼少の誓い』のメンバーに気を引こうと必死だ。


 僕からちょっかい出したりするのはよした方がよさそうだ。


 このままでは僕がみんなから嫌われてしまう。


 僕は女の子たちから歓声を浴びながら生活するのは気分がいいが、もっと気分が良くなるには嫉妬される余地なく僕のことを称賛する男子がいることも大切だ。


 それに僕の本命はもういるんだ。


 他の女の子に手を出して、軽い男とでも思われてしまったら僕は嫌だ。


「それじゃあ、みんな気を付けて怪我をするにしても最小限に、死んだりしないように頑張ろう!いくぞ円陣組め!」


 ばらばらに雑談とかをしては先輩たちが急に同じ行動をしだす様子には組織の統率力が表されてるみたいで身分の差はあれど、同じ学生で、わがまま放題生きてきた人もいるだろうに凄いと思う。


 みんなで肩を組み、僕の周りにまだ顔を合わせてそんなに時間の経ってない男たちが来る。


「俺たちが守るものは」


「「「「「成長!!!」」」」」


「俺たちを理解しないものは」


「「「「「邪道!!!」」」」」


「俺たちは」


「「「「「守り人!!!」」」」」


 一応僕も大声で一緒に言う。


 関係者以外が見てたら少し恥ずかしいいけど、身内だけでやるのは一体感を実感できて楽しい。


 掛け声が終わるとそれぞれの班で役割の確認荷物の準備、獲物の情報の擦り合わせを行い、冒険に出る。


 昼が過ぎたぐらいのこの時間帯は森を歩くだけで少々汗をかいてくる。


 僕は盗賊としての仕事である獲物の発見と周りの警戒をしてた。


 武器が短剣であるので、それに合わせた薄く、動きやすい服装の僕は森を歩くときに蛇に噛まれたりしないか、虫に噛まれたりしてないか、毒を持つ植物はいないかなどそういったことに気を付けながら行動しなければならない。


 学園領から噴水を通して帝都の戻らずそのまま壁の外に出ると緑の深い森がある。


 生徒の安全のため、たまにボルベルク家の騎士たちが演習のために狩りに出るが、それだけでは森の中の魔物は活性化したままである。


 それで、僕たちのようなお金の欲しい生徒やお金に困ってる生徒に白羽の矢が立つ。


 帝国学園には強さ自慢の生徒が多数在籍している。


 暇な生徒たちにお金を渡して魔物を狩ったりしてもらう、冒険者のようなシステムが学園領内にも存在する。


 生徒たちのストレス発散にもなるしこれは多くの生徒に愛用されているシステムだ。


 僕たち『成長の守り人』のみんなはこのシステムを利用して施設にいた女の子たちを養うお金を手に入れていたのだ。


「ここから大体直線で五百メートル離れたところでミノタウロスを見つけました。特に何かしている様子はなかったですし周りに魔物もいませんでした」


「分かりました、ありがとうございます。でしたらこれから討伐に行きましょう」


 僕の報告を受けて班長が方針を固める。


 ちなみに班長はフィリーネさんだ。


 これが一番あっさり決またことだ。


 みんなを先導しながらミノタウロスのいる方向を目指す。


「作戦はどうしますか?」


 僕がフィリーネさんに尋ねる。



「そうですね……………どんな場所にいましたか?」


「ええっと、少し開けた場所でした。下は石で出来ていて、そこだけ円形になってた場所の中心でした」


「ならまずフリード様が弓で牽制してください。その後は適当に攻めてください」


 随分とその場その場な計画だが、どうしたものか。


 僕はやることを教えてもらったからいいけど、他の人はどうだろう。


「さすがフィリーネさんだ。牽制という言葉まで知ってるとはさすがです!」


「ええ、少し我々の扱いが雑なのが気になりますが、身分というものをよく理解してらっしゃる。最高の作戦です」


 このよう様子なら大丈夫だろう。


 だけどこのグループで行動することが少し怖くなってきた。


「えへへ、ありがとうございます」


 フィリーネさんは少し照れくさそうな仕種をする。


 まぁ、何とかなるだろう。


 草木をかき分け、歩いているととうとうミノタウロスのいる場所にたどり着く。


「じゃあ、僕は木の上から弓を撃っていますので頑張ってください」


「分かりました。任せてください」


 僕は木に登り、弓を構える。


 奇襲として狙うならどこがいいだろうか。


 一撃で最も攻撃力を上げることが出来て、防御力の薄いところ……………あそこしかないか。


 これから撃つという合図を送り、弦を引く。


 僕が狙うのはあそこ、あそこだ!


 耳元で空気を切り裂く音が聞こえてミノタウロスに向かって矢が飛んでいく。


「よし!」


 僕の矢は一寸も狂わずにミノタウロスの急所の片方をつぶした。


「ギエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」


 急所をつぶされたミノタウロス(♂)のけたたましい咆哮が響き渡る。


「さすがですよ!漢の象徴を躊躇もなくつぶすなんて」


 どこかから僕をほめたたえる声が聞こえるが、気にしない。


 僕は一刻も早く生き別れの双子の兄弟を同じ場所に連れて行ってあげなければならない。


 これが片割れを失ったミノタウロスの息子にできる唯一の弔いだ。


「死ね」


 弓を構え、再び矢を放つ。


 しかし、居場所を知られた狙撃手の弓を食らうほど、ミノタウロスという魔物は弱い生き物ではない。


 自分の武器なのか、傍にあった斧を盾に僕の弓を防ぐ。


「行くぞ!」


 それを見て未だに動いてなかった先輩たちが動く。


 盾が二枚、攻撃が二枚となかなかバランスよくいる。


「「「「おお~!」」」


 四人で勢いよく突っ込んでいくが、ミノタウロスの大きさからするとあまりに迫力不足だ。


 そしてたどりたどり着き、剣をミノタウロスに振るう。


 だが、温室育ちの子供の剣ではミノタウロスの強靭な肉体に大した傷を作ることが出来ない。


 ミノタウロスはそれを見て、防御を一切無視した攻撃をする。


 こちらはいくら攻撃しても肉の壁に阻まれ、大した攻撃にもならず、向こうの攻撃は一撃でもまともに食らうと二度と起き上がれなくなるだろう。


 やっぱりこの依頼、厳しすぎたのではないだろうか。


 盾役の先輩は腰を低くして、上から来るミノタウロスの攻撃を何とか耐えている。


 しかし、一撃一撃の重さで、盾は少しずつへこみを作り、あと少しすると使い物にならなくなってしまうだろう。


 その盾に隠れながらこまごまと攻撃してる先輩たちは攻撃を食らうのを怖がって腰が引けながらなので、ただでさえこまごまとした攻撃が、人間相手でも傷つくのか疑問に思う程度の攻撃しかできてない。


「先輩たちもっとしっかりしてくださいよ!さっきまでなんだか余裕そうな雰囲気出してたじゃないですか!」


 そう言っても聞こえていないのか、聞こえていても返事をする余裕はないのか何も帰ってこない。


 その様子を見ながらフィリーネさんを見ているとその戦闘様子にひやひやしている様子だ。


「もっと、腰が引けてますよ!怪我してもフィリーネさんがいるんですから。膝枕しながら直してくれると言っているのに何もしないんですか?」


「へ?」


 突然話題を振られてフィリーネさんが驚いたような声を出す。


 そういった後にまず空気が変わったのは盾の二人だ。


今戦線が持っているのはうぬぼれでなく僕のおかげだろう。


 片割れを失っているミノタウロス(♂)は本能的にももう片割れが失うことを恐れているのか、僕の矢を過剰なくらい警戒しているようだ。


 押されていたものは少しずつ五分になり攻撃役の人も思い切った攻撃が出来るようになった。


「もっと……もっと軽い攻撃でお願いします!」


「そんなに強そうな攻撃だと死んでしまうからもう少し弱く!」


 なんだか情けない声が聞こえるが気のせいだろう。


 しかし少しずつ押してきて、攻撃も大振りの物が当たるようになってきたのは事実だ。


 ミノタウロスの体に血が滴り始め、動きが鈍く鳴ったころに、僕の恐れていたことが起こった。


「はひゅ~はひゅ~」


「ぜぇ、ぜぇ」


「あっ!盾が壊れた」


「嘘!足ひねった」


 前衛に出てた四人全員が一度に戦闘不能になった。


 それもそうだろう。


 普段大して運動してないのに急に大振りで剣を振り続けたんだ。


 それは息も切れるだろう。


 それに盾もさっきから壊れかけてた。


 足については予想もつかなかったけど。


「フィリーネさん!足首やった人の治療をお願いします!」


 僕のいた班でもしものことがあると輝かしい経歴に傷を作りかけない。


 肩を上下に揺らしているミノタウロスは少し落ち着いたのか、先輩たちにとどめを刺そうとする。


 そんなことをさせないため僕は全力で走る。


 ゴーグルを取り、エルメ『固位』『ブラックアイ』『怒瑠』を発動させて。


 さすがの僕も女の子の前で恋とか叫んだりするのは恥ずかしいようだ。


 ビカリアさんたちなら何にも感じないのに……………


 斧を振り上げ、力をしっかり込めてくれてので、何とか振り下ろす先に飛び込むことに成功する。


 僕の短剣ではとてもじゃないが、ミノタウロスの攻撃を受け止めきることは出来ない。


 膝と腕を精一杯使って衝撃の来る時間を長くし、威力を少しでも軽減させる。


 それを僕の左側に逸らし、股間を蹴り上げる。


「グアアアアアアア!!!!!!!」


 ミノタウロスの苦しそうな声が聞こえてきてあまりに無惨で少し同情してしまい、笑いが止まらない。


「鬼だ」


「『征服の矛』の回し者か?」


 後ろからよくわからない言葉が聞こえるが、気にしない。


 『怒瑠』を発動させると僕は少しだけ残虐な性格になるそうだ。


 ちなみに『恋着』を使うと顔が少しだらしなくなるそう。


 これはビカリアさんに聞いたことだが、僕にだらしない顔なんてあるわけないし僕は信じない。


 僕の足に走る感触でミノタウロス(♂)がミノタウロス(♀)になったのが分かる。


 ならばこんな魔物にエクスカリバーがあることはおかしいだろう。


 切り落として普通の存在にしてあげなくては……………


「グオオオオオオオオオ!!!!!!!」


 さっきとは一味違う咆哮が響き渡る。


 守るべきものを失い、それを奪った者への復讐か、さっきまでとは目の色が違う。


 ならあっさりといけそうだ。


 重心を低く保ち、ミノタウロスに突っ込む。


 それだけで僕の頭はミノタウロスの膝くらいまでにしか来ていない。


 攻撃にしか頭に入っていないミノタウロスは僕みたいに小さな存在を殺すにはたいして力を籠める必要がないことを知っているのか、斧を軽く振る。


 しかしその分スピードが段違いに早くなっている。


 それにミノタウロスの体格に合うような武器だ。


 それを振るってくるだけで僕には脅威でしかない。


 武器のリーチが誓うので、僕が攻撃を当てるためには接近するしかない。


 その間にも攻撃を振るわれ続ける。


 ザシュッ!


 鮮血が舞い、何やら肉片が舞う。


 ミノタウロスのブルンブルン振るっていた第二の武器、エクスカリバーが宙に舞う。


 もう、ミノタウロスに反応はない。


 あるのはただ純然たる殺意と目じりに浮かぶ涙だけだ。


 しかしさっきまでと違い、表面に出てない怒りが具現化したかのように周りに赤い覇気のようなものをまとっている。


 焦っていたことでとんでもないことを思い出す。


「しまった薬を飲み忘れてた」


 さっきから頭がズキズキ痛いと思っていたら、焦って薬を飲み忘れてた。


 既に二十秒ほど経っている。


 最近クロームさんの薬を飲み始めて頭の回転が早まることに慣れたのか、その後の頭の痛みに慣れたせいなのか、少しだけ薬を飲まなくても使える時間が伸びたとはいえ、あまり長くない。


 焦って、エルメ『固位』を解く。


 僕の雰囲気の変化を野生の本能か敏感に感じ取ったミノタウロスは僕に向かって蹴り上げる。


 エルメ『固位』を解いたばかりで身体能力の変化にあまり対応できてなかった僕はその蹴りをまともに受けてしまう。


 ドゴォッ!


 僕の腹から発生する鈍い音を聞きながら僕の体は気に叩きつけられえる。


 吹き飛ばされた僕は木にぶつかり、まともに受け身をとることも出来ずに地面に叩きつけられる。


「フリード様!」


 何やら僕の名前を呼ぶ声が聞こえるが、まともに反応することが出来ない。


 ミノタウロスはチャンスと見たのか、地面を蹴り大型モンスターだとは思えないほど機敏な動きで僕との距離を詰める。


 そして僕に向かって斧を振るう。


 痛みに耐えながら、振るわれる斧を見ながら、今何をするべきか考え、必死になって横に飛ぶ。


 僕が避けたことによってまともに斧を食らった後ろの木はすさまじい音を立てながら倒れていく。


 あまりの威力に冷や汗が止まらない。


 明らかにさっきまでとは威力が違う。


 どうしてか……………もしかして僕が双子とエクスカリバーをつぶしてしまったからだろうか?


 それとも弓を放つ存在がいなくなったことで攻撃に集中できるからだろうか?


 間髪入れずにミノタウロスは僕の逃げた方向に後ろ蹴りを放ってくる。


 腕をクロスして受けながら後ろに吹き飛ぶ。


 先輩たちを見てみるとさっきとは明らかに違うミノタウロスの雰囲気にあてられ、ビビッて動けないでいる。


 むしろ後ずさって、この場から離れようとしている……………いや、離れた。


 年上なだけで使えない先輩たちにイライラするが、さっきまででもギリギリだったのに明らかにパワーアップしているミノタウロスに挑んできても邪魔になるだけだとしか思えないので手伝えとも言えない。


 僕だって普段からいろんな人からいたぶられ続けてきているんだ。


 痛いには痛いが、この程度の痛みで値を上げていては殺されてしまう。


 空中で態勢を整えながら木を足場にしてミノタウロスの次の攻撃に備える。


 さっきの攻撃で、武器を持っての攻撃よりも肉弾戦の方が攻撃が当たると思ったのか、斧を捨て、拳を放ってくる。


 風を切るものすごいスピードで放ってくるが、それは僕がいつも食らっている攻撃に比べるととてもお粗末なものだ。


 体を捻りながら短剣をミノタウロスの腕に添える。


 ミノタウロスの腕から血が流れるが、とても致命傷だとは言えない。


 素早く方向を切り替え、まだ体がこちらに向ききっていないミノタウロスの角を掴み、首に足を回す。


 短剣を目に突き刺し、ぐりぐり捻る。


 手に伝わってくる気持ちの悪い感触に眉を顰めるが、さらに力を籠め、奥に突き刺そうとする。


「グモオオオオオオ!!!!!!!」


 痛みからか、すごい悲鳴を上げる。


 ミノタウロスが首に捕まっている僕を掴み引きはがす。


 その際とんでもない力が籠められ、僕の肋骨から嫌な音が鳴る。


「アグッ!」


 口から声が漏れる。


 僕は片手一つで持ち上げられ、地面に叩きつけられる。


 僕が叩きつけられる衝撃で地面に小さなヒビが出来る。


 さらにダメ押しと地面に叩きつけられた僕をその巨体を生かして、おもいっきり踏み抜く。


 口から血を吐き、呼吸できなくなった僕の肺に必死に空気を取り込む。


 ミノタウロスも目を押さえて悶えている。


 ほんの数瞬で僕の体は思い通り動くようになる。


 衝撃で手から離れた短剣を手に取り、ミノタウロスの残った片目を突き刺す。

「ブモオオオオ!!!!」


 視界が完全に消えたため、ミノタウロスは戸惑ったような声を出す。


「これで……………僕の勝ちだ……」


 視界が消えたことで見えなくなった僕を探して、腕を振り回しているミノタウロスに向かって、呟く。


「あれ?ミノタウロスの声っぽいのが聞こえたと思ったらもう死にかけてるじゃん」


 後ろの方から誰かの声が聞こえる。

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