第30話 変態どもの戦い 始動
今更だが、我が帝国学園初級には『五醒の覇者』と呼ばれる実力、人望のともに優れた五人と、各寮を統べる『六寮の王』と呼ばれる者たちが存在する。
この十一人が実質この学園を支配しており、いざこざがあったときの仲裁役として活躍するなど、設立当時は反発があったそうだが、今ではその有能性と実力から誰もその存在に歯向かおうとする者はいなくなった。
『五醒の覇者』の方が『六寮の王』よりも上位の存在として位置しているようだが、これと言って争いはない。
今では先生だろうと自分からこの者たちに争うとする者はいないと聞く……………まぁ、それは出まかせだろう。
ビカリアさんたちが人に気を遣うところなんて僕には想像することも出来ない。
「へぇー、そんな人たちがいたんですか」
僕がそんなことを言うと意外そうな声を出す。
「帝国学園だったら誰でも知ってると言ってもいいくらいメジャーな情報だと思うのですが、知らなかったのですか?」
グランさんは僕にこれまで知らなかった帝国学園の情報や世論、挙句の果てに性教育まで施してくれていた。
全てにおいて、特に性教育などは僕にとって新しい世界を見ることと同義でとてもためにはなるものの、正直あまりピンとこない。
いや、こなかった。
だが、今の僕は違う。
ミライムさんのヌードデッサンを終えた今の僕には性的興奮というものを実感した。
それと同時に理性が崩壊してしまいそうなほどのあの経験はミライムさんが僕の目の前で裸になることにどうして危機感を抱いていたのかを実感させた。
今となってはどうしようもできないが、もしも裸になってくれと毎日頼んでいた僕にもう一度会うことができるならあのデリカシーのない男をぶん殴ってやりたい気分だ。
そして、その危機感を抑えて約束を守ってもらったミライムさんには何かお礼をしていたほうがいいだろう。
というか、ここまでしてくれたのなら結構僕に気があるんじゃないかと疑ってしまう。
いや、でも僕がミライムさんに気があることには気が付いているようだし、もしも僕に気があったらもう少しアクションがあるはずか……
どうしてこう僕はある程度のことは知ることの出来る立場のはずなのに何も知らないのだろうか。
自分から何にでも興味を持つことの大切さを学んだ。
「そんな話を聞いたのは初めてなんですけど、どんな人がいるんですか?」
「ああ、我らが『成長の守り人』のザバンさんを含めた五人の『五醒の覇者』は『少年の心』で『聖望の覇者』ルーベル・キャスティと『征服の矛』の『残虐な覇者』アルノルト・シュミット、『鉄壁の執事』の『虐壁の覇者』アンゼルム・シュティルナー、最後に『特殊の巣窟』の『属性の覇者』イザーク・ヴァレリアの五人ですよ」
なかなかの有名人ぞろいで僕も少し驚く。
どの人もなかなかの家の出身で、強いと評判の人たちだ。
ザバンさんも『五醒の覇者』の一人だったことに少し驚く。
「『六寮の王』の人たちの名前も聞きます?」
「いや、さすがに覚えられる気がしないんでやめときますよ」
僕たちの参加している放課後活動には五つのグループが存在するが、そのグループの中でも最高派閥である『少年の心』は別格に勢力であるらしく、その対抗派閥でもある僕たち『成長の守り人』はあまり堂々と行動しては不興を買ってしまい、潰される可能性があるらしく、出来ないらしい。
僕の所属しているところだというのになんて情けないことだろうか。
最近、僕はイルミナがなかなか帰ってこないので『成長の守り人』の活動をして実践を積んだり暇つぶしをするようになっていた。
イルミナたちからの訓練を普段受けている僕にとってこの活動は比較的ぬるいものではあるが、戦う相手は年上であることが多く、僕よりも力の強い相手と戦えることは結構いい経験になっていると思う。
そういえば、以前僕がガノンを倒した時もザバンさんが交渉を間違えるとまずいことになってたらしい。
命に関わるほどの大怪我をしていたからだ。
いくら本物の武器で戦うことが黙認されていたとしても、命がかかわることは極力避けるべきだと推奨されているし、もし志望者が出ると命を奪ったグループには大きなペナルティーが科せられる。
来たのは向こうから何だから僕には一切責任があるとは思わなかったけど、大分怒られてしまった。
僕の権力を傘に着たら黙らせることは出来たけど、そんなことをするとみんなが僕に気を遣うのはむしろ推奨されることだけど、やりすぎると面白くない。
だから僕は何も言わずに怒られた。
「ていうかザバンさんも『五醒の覇者』なんですか?」
「そうだよ。ザバンさんってこの学園で相当な有名人だよ。注目度と言えば、フリード様とミライム様よりは下だけどね」
そんなことは当然分かってる。
最初はまだあったばかりで話ずらかったのか、あまり話しかけられることはなかったけど、最近になると廊下を歩いてるときとか、ボーっとしてるとき、ちょっとしたことでいろんな人から話しかけられるようになった。
別にそれは構わないが、なれなれしく話しかけられたり、急いでいるときにしつこく話しかけて来る奴の顔だけはしっかり覚えている。
「そう言えば今日って何をする日なんですか?」
「今日は依頼をこなす日のはずだよ。あの子たちを養うためにはどうしてもお金が必要になってくるからね。個人的なお金を出すとトラブルのもとになるからみんなで一緒に稼いでるんだよ」
「僕はどこに行くとかそういうことはもう決まったりしてます?」
「いいや、まだそういうことは聞いてないよ」
「そうですか。だから皆さんさっきから武器の整備とかしてたんですね」
周りを見ると先輩たちが真面目な表情で武器の整備をしている。
初めてここに来た時には考えられなかった光景だ。
「僕たちの命を預けるものだからね。みんな真面目にやってるよ」
「そうですか……」
僕は毎日出来るだけどこにいても武器を持つように心がけている。
もちろん整備を怠ったりしていない。
前の戦闘で刃こぼれが大分できていたので『炎耀・タンダリオン』は返して別のものを貸してもらった。
武器をすぐに傷つけて怒られてしまったが、僕の心までには決して届くことはない。
次は持ち運びが簡単になるように短剣を二本選んだ。
それに合わせて防具も動きやすい金属製の物ではなく、最低限だけ守る形で簡単なものとなっている。
「おっ!もうみんな集まってたか。今日やる依頼を見作ってきたからこの中から人数が均等になるように分かれてくれ」
ザバンさんが部屋に入ってくるなり、持っていた紙を机の上においてみんなを集める。
砂糖に群がるアリの様に僕たちは集まっていく。
「今日はスペシャルゲストで『幼少の誓い』のメンバーの僕たちと一緒に依頼に行くようになりました!」
「「「おお~!」」」
みんなから感嘆の声が漏れる。
後ろからぞろぞろと五人組が入ってくる。
「今日、皆さんと一緒に冒険します『幼少の誓い』リーダーのレスキュラです!よろしくお願いします」
チマっとした子で、僕の身長よりも小さいくらいの女の子がお辞儀をする。
確かにかわいらしいとは言えなくもない。
こんな集団と行動してたら嫌でも目に入ってくるグループ『幼少の誓い』の『絶壁のロリータ』レスキュラ。
僕もそんなみんなに敬われている人たちに会うと、僕はその何倍も敬われている立場なのになんだかすごい人だと思えてくる。
「同じく、フィリーネです。今日はよろしくお願いします」
この緊張気味の子は『癒しのロリータ』フィリーネ。
回復系のエルメを持っているらしい。
回復系のエルメは珍しいというほどではないが、そのエルメが発現すると一生職に困らないと言われるすごく有能なものだ。
「マルティナです。精一杯頑張りますので今日はよろしくお願いします!」
ちょっとふっくらしたこの子は『不屈のロリータ』マルティナ。
パーティーの壁役を担っているらしい。
こんな小さな子に出来る仕事なのか気になるが、これまでうまくやってるんだ。
問題ないだろう。
「イルマというものです。どんな仕事をする予定なのかまだ聞いてないですけど、任せてください!」
この自信満々な子は『隠顕のロリータ』イルマ。
盗賊の仕事をしていて、それもなかなかの腕らしく、狩人の仕事と併行してやっているらしい。
「フラマだよ~。私は肉壁が丈夫な人となら最高の仕事ができると自負してるよ」
よくわからない頭の緩そうなこの子は『破壊のロリータ』フラマ。
魔法使いで完全な後衛であり、放たれる一撃は文句なしの威力なのだが、攻撃の狙いをつけることが苦手らしく、そのため毎度毎度過剰攻撃をして敵を殲滅するため魔力の消費が激しく連戦は厳しく、前衛も生傷が絶えないらしい。
さっきから気になるのだが、この子たちずっと僕の方しか見てない。
まるで僕しかいないような態度をとっており、もちろん本人たちにはそんなつもりはないのかもしれないが、気になる。
というか、先輩たちの視線が痛い。
これも僕がかっこよすぎるせいだと割り切るしかないだろう。
「じゃあ、みんなには五グループに分かれてもらって一グループずつに一つ依頼を受けてもらうからよく読んで均等になるように分かれてくれ」
ザバンさんの声掛けで僕たちは動く。
依頼の内容はと言うと《森の中に生息するミノタウロスの討伐》《放置されたゴーレムの破壊》《すごく強いアルミラージの討伐》《ロック鳥の討伐》《ブラックドックの討伐》
……………なかなかというか、相当ハードな依頼が山積みだ。
僕一人ではいろいろと試行錯誤したら何とか倒せそうなものばかりだけど、これをいくらパーティーで挑むとはいえ、先輩たちにも求めるのは酷なことだろう。
一応上が決めたことだ。
僕がわざわざ逆らうこともない。
並べられている紙を見て、少し悩むが面白そうだからミノタウロス討伐を選択する。
「ザバンさん!いくら何でも勘弁してくださいよ。私、あまり戦闘向きではないんで、少し荷が重すぎます」
一人の先輩がザバンさんに文句を言う。
確かに見る限りこの人は体の線も細くとても戦闘向きだとは思えない。
魔法の腕がどれほどかは分からないが、本人の話を聞く限りあまり得意ではないようだ。
正直この依頼は危険だ。
最近殺されかけた僕が言うのも変かもしれないが、僕でも殺される可能性のある依頼だ。
他のみんながどれくらいの腕前か知らないが、僕と同じくらい戦える人はそう多くないだろう。
足手纏いがいても困るしここは待機にしてほしい。
「うーむ、どうしたものか、エドガーの魔法は使えるからな…………どうしても嫌なのか?」
しかし、ザバンさんはエドガーと言う人の魔法を高く評価しているらしい。
『五醒の覇者』と呼ばれているらしいザバンさんがそういうんだからそうなのだろうが、エドガーは難しい顔をしたままだ。
「いつも通りみんなが持ってきた材料とか素材を加工して売りさばくのじゃダメ?」
「まぁ、そこまで言うなら別に構わないが、その分しっかり働いてもらうことになるぞ」
「うん、今日の依頼は大変そうだし、さすがにいつも通りでは心狭いしね」
そのほかにも何人か依頼を受けない人がいた。
この活動自体戦闘力で選ばれているわけではないので、特に不思議はない。
活動に参加できるのは推薦をもらった人だけではない。
僕は『成長の守り人』から推薦をもらったから入ったが、それがすべてではなく後からでも志願という形で参加することが可能だ。
それで人数自体は結構な数いるので、非戦闘員がいても特に問題はない。
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