第53話 上陸
僕は重度の魔力切れを起こして水中気息をすることも跳砲で早く水面に上がろうと頑張ることも出来ずぷかぷかと浮力に身を任せて漂っていた。
オオスジニべとの衝突は僕の矛と角が衝突して僕の矛の力に圧倒されたオオスジニべは角が頭の中にめり込み、大きな頭が潰れてなくなってしまった。
僕も魔力切れを起こして何もすることが出来ず、ただ酸素の消費を抑えるようにだけ気を付けて目を瞑りボーっとする。
……どれくらい漂っていただろうか?
二分程度なのだろうが、正直もう息が持たない。
というか薬の効果が切れてしまって頭が爆発しそうになるほど痛い!
このまま意識を落としてしまうと流石の僕でも死んでしまう。
何としてでも生きなくては!という思いだけでここまで耐えている。
僕は一体どれだけ深く潜っていたのだろうか気になるが、そんなことは今更気にしてもしょうがないかもしれないが、そろそろ終わってくれたら有難い。
悲しいことは肌で感じる水圧がまだここが海深くだということを教えてくれることだ。
いくら僕が耐える行為そのものに慣れているとはいえ、限界というものがある。
全力の戦闘、それも劣勢だった戦闘の後で普段だったら荒げた息を整えたいくらいなのにさらに耐えなくてはならないなんていくら僕でも経験したことがない。
耐えに耐えきってその十分後に僕の我慢という決壊が崩壊して僕の意識が落ちてしまう。
それと同時に顔に当たる何の感触で一瞬だけ落ちていた意識が再び覚醒する。
「プッハ!――し、死ぬかと思った!」
僕が水面から顔を出すと丁度そこは波が立っている場所で海水が思いっきり開いた口の中に入ってくる。
「ゴホォ!ゴホォ!――ペッ!ペッ!」
ここはどこだろうか?
運よく僕が最初にいた孤島にたどり着いてくれたらと願っていたが、それほど僕の運は良くなかったようだ。
海水に流されてたどり着いたこの場所に僕は見覚えがない。
もちろんここは海の上だから見覚えがあるはずがないのだからしょうがないのだが……
どこかに島でもあってくれたら有難いのだけど、どうだろうか?
周りを見渡してみるとまだ明るいお陰で遠くの方にポツリと奥が最初に連れていかれた島よりは大きそうな島がかすかに見える。
「おおっ!」
ちょっと遠いかもしれないが時間さえかければたどり着けないことはない。
進行方向を頭にして腕全体を動かすことによって波の動きに翻弄されながらも少しずつ進んでいく。
波のせいで時々顔に海水がかかってきて水を飲んでしまいそうになったけど何とか腐らずやっていける。
何分もかけながらもすすんでいくとついに島にたどり着くことが出来た。
久々に陸地に着くことが出来て初めに眼に入ったのはあらぬ方向にグネグネと曲がった左足とベコベコに凹んで変色してしまっている胸。
鏡があったら僕の顔もとんでもないことになってしまっている様子を見ることが出来るのだろうか?
右足も思ったよりも深い傷でズキズキとさっきから痛む。
打ちあがることが出来た浜辺から何とかして這いずり回って陸地の奥まで上がるが、正直これから二週間生きていける気がしない。
股に挟んでいた矛を杖にして何とか立ち上がろうとするが、あまりの痛さもあるが、筋肉を損傷しているせいで精神的な問題ではなく肉体的に動かすことが出来ない。
しょうがない。
僕の一番上に羽織っている服を一枚脱ぎ、矛で切れ目を入れて線状にちぎる。
そして僕の右足にぐるぐるにして巻けば傷口が見えないだけまだ頑張れるだろう。
あと何か添え木になるものがあればいいのだけど……
しょうがないし少し危ないし大きすぎるような気がしなくないけど、矛を添え木として使おうか……
グネグネに曲がってた足の骨を力ずくでもとに戻す。
ガリガリと骨と骨がすり合うようなことがしたが気のせいだと思いたい。
布でぐるぐるに巻くと矛の大きさが大きすぎるので甲冑を着ているような動きずらさを感じる。
しばらくしたら……一日でも安静にしていたら僕の体の治癒力をもってすれば骨折程度一日で動けるようにまで回復するはずだ。
問題ない。
今日何度僕は意識が落ちかけるような経験をしたのだろうか?
しばらくは安静にした方がいいかもしれない。
そのまま意識が落ちて次の朝、僕は高熱にうなされていた。
息をすることすらしんどく、全身から汗をかき、うなされていた。
原因を考えても昨日の怪我ぐらいしか考えられない。
流石に精神的にも参ってしまったのか今回ばかりはだめかもしれない……
本気でそう考えていた。
経過は順調だろうか?
昨日何となくぐるぐるに巻いた包帯を剥がしてみる。
赤黒く血が固まっている様子を見ると、僕がこれまでそだててきた自然治癒力は無駄ではなかったのだと感動しそうになる。
仰向けに寝ると岩肌で傷を負った背中が痛くてうつ伏せで寝ると折れた肋骨が肺に刺さりそうになって死ぬかと思った。
精神を奮い立たせても既に小枝よりもか細くなったささえを奮い立たせてもかえって荒れてしまうかもしれない。
自然治癒力を最大限に高めて少しでも治りを早めようとするが、重症すぎるとあまり効果を感じることが出来ない。
それでも残りの期間をこのまま何もせずに過ごすというわけにはいかない。
時間がたてば腹は減るし喉は乾く。
もしかするとこの島の中に魔物がいるかもしれない。
右足にそっと力を込める。
同い年の子供に比べたら倍近くあるのではないかという太い足は少しだけ筋肉の収縮を受けて太くなり、宙に浮く。
膝も一晩中動かしてなかったが関節は固まってなかったようで問題なく動く。
チクリと痛みが走るが血は止まっているし動かせないことはない。
矛を地面につけ、右足に痛みを走らせながらもさらに力を込めて一本で立つ。
ここは背骨が折れなかったことにひたすら感謝である。
左手に矛を持ち、疑似的に左足として働かせるおいう試みは思っていたよりも簡単にできた。
バランス、力加減なかなかい調整が必要だが、水中気息に比べたら簡単なことこの上ない。
僕が想像してたよりこの島は大きくないようだ。
だけど草木は生えているし、もしかしたら何か食べられるかもしれない。
未だに魔力は回復しきってないが、ある程度は戻っている。
水を生成して口に入れてくちゅくちゅとして吐く。
それだけでさっぱりするからありがたい。
再び水を生成して今度は飲む。
腹の方から減るような感覚に少し下がる体温に少し気持ちよく感じる。
そろそろ島の探索に行った方がいいだろう。
太陽の角度的にもまだ昼だということは分かるが、夜になると活動できなくなるしそれまでにはしっかりと体を休めることが出来る場所を確保しておきたい。
砂浜は矛をつくたびに少し埋もれてバランスがとりにくいし、草のある所では場所によって少しずつ地面の硬さが変わってくるし、凸凹した舗装のされてない道でとんでもなく歩きにくい。
そんな道を一歩一歩踏みしめながら歩いていた。
僕はこんなところでこんなクソみたいなイベントでまだやりたいことがあるのに死にたくない。
そんな思いで歩いた。
そんな思いを裏切るようにして森に入り込んでしばらく歩いたころ僕の障害物をも見通す眼が後しばらく歩いたところに魔物がいることを感じ取る。
それと同時に急いで気配を消す。
――しまった!
野生の感覚というものはなめてかかっては痛い目に見ることがある。
よくあることだが、気配を急に出したり消したりするということは我々人間にとってはまり違和感を感じたりしない。
そればかり考えているわけではないんだ。
色々と考えることが出来る頭を持っているがゆえに気配を感じることの優先順位が必然的に下がってしまうが、野生生物はその限りではない。
原始的で、狩りをして生きている野生生物は気配という情報は睡眠、生殖、本能、と並んで優先されることであると聞いた。
そんな大切な感覚が急になくなってしまうと、その生き物はどうするだろうか?
僕たちと違ってやらなくてはならないことが特にない野生生物はその違和感の元へ当然足を運ぶ。
僕の今のスピードだともしも犬並みの嗅覚を持っているとすると残り香でどこに行ったのかがばれてしまう。
四の五の言ってもしょうがない。
僕も疲れてるんだ。
正常な判断ができなくなるというのが正常だと思えば今できることといえばただこの場から少しでも離れることぐらい。
足音を少しでも立てないようにしたいが、それは歩くのがやっとな状態の僕にはとても厳しいことで歩くたびにザッ!ザッ!と音が立つ。
後ろを振り向くと僕が見つけた魔物も僕を見つけて、追ってきているようだ。
決して僕の足音が大きかったから気づかれたわけではないと思う。
矛を杖にして二足歩行するのでなく、右足一本でケンケンして杖でさらに加速するよう地面を突く。
「ハァハァ……胸が――」
息を吸うたびに頭を掻きむしりたくなるほどの痛みが走る。
「――おわっ!」
胸に気を取られたことで少しぬかるんだところに足を取られ、顔から地面に衝突する。
「ガッ!」
地面に衝突すると最初に当たるのは昨日の戦闘で砕けてなお高くそびえ立つ僕の自慢の鼻。
「クッソ!こんなダサい魔物をこの僕が見上げるなんて……」
僕を追いかけていたのは四足歩行で気持ち悪い見た目と戦い方で有名のデメウルフ。
クリクリ下顔の四分の一を占める勢いの大きな目は見る人をゾッとして関節が何個あるのかはっきりと分からないクネクネした足は自分の体を無意識に確認してしまうほど。
ベタベタとした皮は刃の切れ味を奪い、拳で殴ることは憚られる。
デメウルフは僕がこけたところを見るとそれまでぬるぬると木と木の間をすり抜けていたのをゆっくりと歩きだす。
「グルルル……」
涎を垂らしながら僕を見るその様は鳥肌が立ちそうになるほど気持ちの悪いもので僕はこんなものから逃げなくてはならないなんてとさすがに悲しくなってくる。
尻餅をつきながら後ずさると、デメウルフは僕に脅威を感じなくなったのか一気に大きく跳躍して噛みつこうとする。
「オラァ!」
わざわざ身動きがとりずらい空中へ勢いよく来てくれたんだ。
このチャンスを見逃す手はない。
矛の矛先をデメウルフに向ける。
そして吸い込まれるようにして矛の刃先がデメウルフの首筋に――
「――なっ!刃が通らない!」
僕の突き出した矛に体を回し込むようにしてデメウルフが僕に近づき歯を見せる。
首に顔を近づける牙に僕の腕を突っ込む。
「オゴッ!」
「――グッ!」
僕がデメウルフの喉ちんこを掴むと同時に口が閉じる。
深々と噛まれた僕の腕から血があふれるようにして出てくる。
「クソッ!クソッ!この皮さえ貫けば!」
矛を短く持ち、叩くようにして刺してもベトベトした皮を貫く様子がない。
「グルグルグル……」
喉ちんこを握っている腕を離してしまうと今度はデメウルフが首を振り、僕の腕をちぎりにかかるだろう。
それでも力が入らない……
片手に持っている矛を離し、デメウルフの右手を握り、右足で足を救い上げるようにして僕が地面に背を向けている状態から一転して上を取る。
右手でデメウルフの首を固定し、逃げられないようしっかり力を込める。
「おら!おら!おら!」
足を延ばした状態でいたので丸出しになっていた急所を蹴る。
「キャン、キャン、キュルル……」
少しずつか細く成っていく声にこの調子だといける!
あと少しで腕を抜ける。
上と下の二つのちんこを執拗に攻め続ける。
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