第11話 抗議

 次の日の放課後僕は急いで『成長の守り人』の集まっている教室へ急いでいった。


「すみませんザバンさんいますか?」


「ここだよ」


 入り口付近の床で寝っ転がりながら何やらプリントに記入しているザバンを発見した。


「何でもういるんですか!」


 僕が疑問に思うのは普通のことだろう。


 この部屋は五年生の部屋から相当な距離離れており、さらに僕は授業が終わってからこの部屋まで急いできた。


 にも拘らず、すでに来て寝っ転がっているのはどういうことなのだろう?


「だって五年生になったら好きな授業を受けるだけでもうほとんどが自由登校みたいなものだからね」


 その一言で納得しておく。


「あんたら昨日僕を洗脳してたでしょう。すごく恥ずかしい目にあったんですからね。何か言い訳があるのだったら言ってください」


 僕の言葉に「ああー、気づいてしまったか」といった雰囲気が教室内に醸し出される。


 だがなぜかばれてしまってやばいことになるといった悲壮感はどこにも見当たらない。


 何か理由があってのことなのかと疑問に思ってるとザバンが口を開く。


「気づいちゃった?一応だけどなんでばれちゃったか教えてもらえるかな?」


「話をそらさないでください!」


 僕は強い意志を込めてザバンの質問に答えるつもりはないと伝える。


「まぁ、ばれてしまっては仕方ない。実はね……」


 ザバンの話を要約すると、どうやら学校側から許可を取っての行動らしい。


 というのもギルドの活動において推薦で選んだメンバーにのみ洗脳することが許されているという。


 それについては厳正な審査や親の許可など様々なことをしなければならないらしく、それにより推薦できる人数も減ってくるそうだ。


 やけに真剣に勧めてくるくせに実際に推薦する人が少ないと感じていたが、理由が分かった。


 ということは僕は両親に洗脳してもいいと言われたのか。


 何故洗脳が認められているかについてはよく知らないようだが、おそらくは将来洗脳されても気づいたり対処できるようにするためらしい。


 ついでに二度の洗脳は認められないらしく、僕はもう安全らしい。


 僕はこのことを思いっきり攻め立てようと思ったが、『成長の守り人』のみんなは「我々を導いてもらうはずだったのに」と嘆き続けて口をはさむ余裕がない。


 だが、そんな中にもお構いなしと開き直ってるやつもいる。


「そういうわけでどうだい?『成長の守り人』。この調子ならうまくやっていけるような気がするけど」


 どういうわけか分からないが、まだ僕を誘おうとすることにびっくりする。


 すると後ろから入ってきたグランさんが、入ってくるなりどういう状況なのかすぐに判断したらしく少しの間嘆いたものの僕に対してフォローに回ってくれる。


「ごめんね、フリード君。ザバンさんは君のアンケートを見たときからたった一日だが君が『成長の守り人』に入ってくれるのを心待ちにし続けていたんだよ!」


 そうなのかと内心びっくりする。


 確かに結構歓迎されてた雰囲気があったから居心地もよかったし、少しぐらいは『成長の守り人』で活動してもいい気がしてくる。


「しばらくすると心の中で間違え無く入ってくるってストーカーみたいな思考回路を持つようになってしまったんだよ」


 うん?


「しまいには“フリード君と『成長の守り人』で楽しく活動する夢を見た”とか言い出してね、さらに“夢に出てくるそれ程フリード君も入りたがっている”ってどういう考えでそう至ったのかは甚だ疑問ですが、ザバンは真面目にフリード君に『成長の守り人』に入ってきてもらいたいと思っているんだ。どうかもう一度考えてもらいたい」


 なんかザバンさんを責めるはずの言葉が、僕に刺さってきてるような気がしてきたが、これはきっと気のせいというやつなのだろう。


「そして苦労して洗脳許可書に署名してもらった分働いてほしい」


 こいつ僕をこの公爵家の長男である僕を働かせようとしているのか。


 思わぬところでグランさんの本音が飛び出てきて僕は一層『成長の守り人』に対する警戒心を高めた。


「すみません、折角ですが僕には少々荷が重いようですのでこの話はなかったことでお願いします」


「うそ、ちょ、ちょっと待って!」


 僕は何か言われてまた意見が変わってしまわないうちにこの部屋を出てこの人たちと関わらないようにする作戦に出る。


 そうして寮へと走って戻った僕は自分で自炊した料理に舌鼓を打ちながら優雅な時を過ごしていた。


しかしその後、僕の部屋へとやってきた『成長の守り人』の人たちによる二時間の説得の末、週に一度ギルドに通うことが決定したのだった。




「そんなことがあって結局僕は『成長の守り人』に通うことになったんですよ」


 僕はミライムさんとエレーファに対してそう愚痴をこぼした。


「まぁ、最後は自分で決めて後悔しているわけではないのでしたらいいんじゃないですか?」


「そうですよ。それに先輩方からそこまで有利な条件を引き出すことが出来たんですしよかったじゃないですか」


 僕は洗脳したお詫びとして先輩方から『幼少の誓い』のお世話券というものとその他もろもろたくさんのお詫びの品をもらった。


 そこまでするかと若干驚いたが、有難く頂戴することでその場は丸く収まり僕は週に一度ギルドへ向かうこととなったのだ。


 そのことに対してミライムさんたちは特に悪い気持ちを持ってないらしく、洗脳したことに対する償いはもうすでに済んだと考えていいだろう。


 そして僕は少し気になっていたことを聞く。


「そういえばエレーファもギルドに行ったはずだよな、洗脳とかされたりしなかったか?」


 そう聞くとエレーファは顎に人差し指を当てて左上を向き始めた。


 可愛いとなぜか僕の心のどこかが呟いたが、その行動に“まさか!”とよくないものを感じ、僕とミライムさんは固唾を呑んでエレーファの次の一言に耳を傾ける。


「特に僕に対する害はありませんでしたね。みんな私の頭脳の前に何も言えない状態になってましたよ」


 どうやらエレーファは洗脳しようとした先輩方に先輩方の考え方の不備などを徹底的に指摘して帰ってきたのだろう。


 もし僕にエレーファと同じエルメがあったら同じことが出来るのだろうか。


 もちろんエルメのおかげというのもあるとは思うが、所詮は思考が早くなるだけ。


 エレーファの頭脳はもともとがとても優れているのだろう、嫉妬がわかないほどの差が僕たちにはある。


 エレーファの言葉を聞いて僕たち二人は安心したのか、ため息を吐いた。


「それで、エレーファはそれから『特殊の巣窟』だっけ?そこから接触を受けてるの?」


「いえいえ、あの人たち泣きながら“さっき言ったことはもう取り消すから許してください”って言っていたので私を勧誘するのはあきらめたのではないのでしょうか」


 あの理論派の変態たちと同じように『特殊の巣窟』の人たちも理論派の人もいたのだろう。その人たちにそこまで言わせるとはやはりエレーファは天才なのだろう。


「じゃあ、僕だけがギルドにたまにだけど通うことになったのか。それでもたまにの話だから今週末どこか遊びに行こうよ」


 おそらくだが、エレーファはこの誘いを断るだろう。


 これまでにも何度か一緒に遊ぼうと誘ってきたが、ことごとく断られてきた僕が考えるのだから間違えない。


 ミライムさんは恐れ多くて僕など愚かな人間が遊びに行こうと誘っていいような人間ではない。


 だが、二人を誘ってはどうだろう。


 エレーファも誘えば、僕は気軽にミライムさんを遊びに誘うことが出来るのだ。


 現在僕の心臓はバクバクなって、足も少し震えているがそんなことはどうでもいい。


 今回もエレーファは僕の誘いを断るだろう。


 そしたらどうか、僕はミライムさんと遊びに行くことが出来るのだ。


 さぁこい、早く僕の誘いを断るんだエレーファ。


 そしたらミライムさんは優しい人だ。


 僕に気を使って必ずや一緒に遊んでくれるだろう。


 ミライムさんとデート。


 その他の言葉を頭に浮かべるだけで僕は……


「私はその日ビカリア様に訓練していただくように頼んだので遠慮させていただきます」


 よし!


 これでミライムさんさえ行くと言っていただけると僕はミライムさんとデートすることが出来る。


 膨らむ妄想を鼻血へと変換させながらミライムさんの返事を待つ。


「そうですね、その日は特に用事はないのですが両親が私の様子を見に来るので行くことが出来ませんね」


 その時僕はどういう顔をしていたのだろうか。


 その時の僕の顔を見た二人は垂れていた鼻血も指摘することが出来なかったという。



 

 それから僕はしばらくの間放心状態で、その場を動くことはなかった。


 僕が帰ったのはイルミナがさすがにそろそろ帰りましょうと僕に声を掛けたときくらいで、次の日僕は珍しくも昨日出された課題を済ませてなかったことによりいろいろな先生に苦言を頂いた。

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