第10話 洗脳
結局のところ見学だけでもしていこうと考えた僕はいつの間にか張られていたポスターを見てその教室に突撃した。
「ごめん下さい」
ノックして入っていった先に見たものは………
「キモッ!!」
絶賛帝都で活躍中の冒険者グループ『幼少の誓い』のメンバーのイラストを愛で続けたり、幼い子用のパンツが散らばった部屋だった。
「おや新入生かい?あははは、恥ずかしいところを見られてしまったね。ギルドの見学に来たのだろう。入りたまえよ」
帝都で活躍中の冒険者『幼少の誓い』のメンバーの一人、『絶壁のロリータ』ことレスキュラを愛でていた男がさわやかな笑顔でこちらに滲み寄ってくる。
「いえ結構です」
そう言って僕はその部屋から急いで逃げ出した。
「いやいや待ちたまえよ。君フリード・ボルベルクくんだよね。待っていたんだ、歓迎するよ」
そういうと男はその場にあった鞭を使い僕を拘束した。
「なに!」
男のあまりに手慣れた動きに僕は呆然と立ち尽くす。
「大丈夫だよ。今は君が割ると思ってしまうだろうが、一週間もすれば居心地のいい場所になるから」
「いや!居心地のいい場所になるのはそれはそれで嫌だよ!」
そういい僕は鞭をほどこうとするが、一瞬のうちに絡まってしまったため身動きが取れない。
「君のアンケートを拝見したときからきみは逸材だと気づいていたよ。ぜひ一時間だけでも見学していってほしい」
拘束され、身動きの取れなくなってしまった僕は仕方なく………
「イルミナ!」
イルミナを呼ぶ。
「はい。どうしました?」
「どうしましたか?じゃないでしょう。僕、今、捕まっているんです。そばで突っ立ってないで助けてくださいよ!」
――っていうかいるなら助けろよ!
するとイルミナは「うーん」とかわいらしくうなってこう続けた。
「テンザン様の命によりこれは想定外の事態に含まれませんのでここはご自身で何とかしてください」
「役立たずだなおい!」
ビカリアさんに後で文句を言ってやろうと決心した僕は父上が嫌いになった。
そしてテンザンという言葉を聞かないために、もうイルミナを呼ばないことをそっと心のうちに決意した。
「覚悟はできたかな?」
僕が不本意ながらそっと頷くと男は満足そうな顔をして拘束をほどいた。
「よろしく、俺はザバン・ボルスーン。侯爵家の長男だ。こんなところをほかの人に見られでもしたら俺、恥ずかしくて外を出歩けなくなるな」
当たり前だ!
――っていうかイルミナがいるだろ、もしかして気づいてないの?
「イルミナ様にはさっき下見に来ていた時見られてしまったがご厚意により見なかったことにしていただいたから無効とする」
イルミナが下見に来ていたことにも驚きだが、下見の時に来るとわかっていてやめない先輩にはもっと驚いたな。
「では、早速我々の活動の説明をする。だがその前に…お前たち持ってきてくれ」
ザバンの号令で僕たちが来ていたにもかかわらず未だに愛で続けていた先輩たちが一斉に動き出し奥の準備室から何か檻に布をかぶせたようなものを取り出してきた。
「リーダー例のものを持ってきました!」
いつの間にかこの部屋に入ってきたグランさんがザバンに敬礼する。
どうでもいい話だが、グランさんよりザバンのほうが偉い人の様子だがどうしてもザバンにはさん付けする気にはならないな。
「さてここでテストだ!ここに二つの折がある」
そこで両方の檻に覆いかぶさってあった布を勢いよく“ザバッ”と外す。
「かわいいのはどちらだ?」
ザバンが決め顔をしながら聞いた檻に入っていたものとは右に気色悪いブクブク太ったメスのオーク、左に入っていたのはギリギリかわいらしいと言えなくもない子供のオークだった。
「左?」
『おおー』『さすが我々の選んだお方』
僕が答えると部屋の中にいた人たちが作業を止めてまで僕の回答をほめてくれる。
どこがそんなにすごいのだろう?そんなことを思いながらどうでもよさげに一応返事を返す。
「えへへ~、そんなにですか?やめてくださいよ」
僕は興味なさげに答えた。大事なことなのでもう一度言う。
「そんなフリード様ならば我々の活動も理解できるはずです!」
それからというものの僕は勧誘という名の洗脳を受け続け一時間もすると完璧に出来上がっていた。
「なるほど!なんちゃらプレイとかそういったものはいまだに理解できませんが、とにかく『少年の心』の人たちは変態野郎どもで『成長の守り人』のみんなでかわいそうな女の子たちを守っていくのですね」
一時間にも及ぶ洗脳は僕を確実にロリコンへと変貌させた。
キラキラした目で答えたせいか先輩たち目は罪悪感に泳いでいた。
「その通りだ!とにかく『少年の心』の奴らはひどいのだ」
そんな中でもザバンには罪悪感がないのか更にあおってきた。
「それでは今日のところはこの辺でありがとうございました」
そういい僕は帰っていく。
さっき新たな考えに至った僕は新たな目で校舎からの帰りにたくさんの小さな女の子たちを見た。
そして愕然した。
「こんなにも女の子たちはかわいかったのか………」
それは僕にとっては天地がひっくり返るほどの衝撃で、僕にとって女と呼べる人はミライムさんのみ、ほかの女子はただ性別上女なだけの生き物だと考えていたからだ。
そしてその子たちは僕が視線を向けると頬を赤らめるようなかわいらしい子たちばかりだった。
「ぼ、僕はミライムさんをあきらめればほかの女の子たちを選び放題なんじゃないのか?」
僕のその考えはクズだとわかってはいるが、そんなことどうでもいいほど周りの子たちをいとおしく感じてしまう。
何も考えないように意識しながら僕は寮へと帰っていった。
寮の中に男は男もいたが、女の子も多く、荒くなってしまった鼻息を鎮めようと必死になった。
僕は天使に助けを求めた。
慈愛の心を持ち誰よりも優しいミライムさんの部屋へと入っていった。
「ごめん下さい。今少しお話よろしいでしょうか?」
「ん?はい、いいですよ」
ミライムさんは今、今日の晩御飯を自分で作っていた様子で突然来た僕にどうやらとても驚いた様子だった。
ミライムさんを見ててもさっきの洗脳の影響のせいなのかすごくドキドキする、すごくドキドキはするのだけどちょっと前ほどではなくなっていると思う。
今ではおそらくいきなりまえに出てくおられても気絶したりすることは無いだろう。
「あの…実は僕おかしくなってしまったんです!」
突然の訪問でおかしくなったと言っても困るだけだなとは思うが、
キョトン→頷く(理解した様子)→びっくり
ミライムさんの反応は見事に区切られていてとても微笑ましかった。
「い、一体何かあったのですか?」
しかし何と言おう。
何となくここに来てしまったがどう説明しようか「女の子がみんな愛おしく思えて仕方がないんです」と言ってもさらに反応に困らせてしまうだけだし、それに何と言ってもミライムさんを見ると、他の子たちは女の子じゃないという考えに至ってしまった。
というわけで『成長の守り人』の洗脳はすでに解けてしまった。
というのを説明したいのだが、洗脳の解けた僕が大好きなミライムさんに他の人たちに惚れそうになったというのを説明するのはいささか抵抗がある。
どうしたものか…………
「実はですね、フリード様はさっきまでギルドの説明を聞きに行って洗脳されてしまったのですよ」
「うぉ!!」
急に現れたイルミナに僕とミライムさんは驚くもののミライムさんはすぐに立ち直る。
「洗脳とはどのようなものなのですか?」
「それはですね」
イルミナの急な登場に驚き、さらに言いたくなかったことを勝手に言われた僕は固まってイルミナの口を止めることが出来なかった。
説明している内容を聞くとどうやらイルミナは未だに僕が洗脳にかかったままでどうしようか必死になっているらしい。
「まぁ、それはなんてひどいことになってしまっているのでしょう!」
ミライムさんもその説明をまともに受け止めたらしく、僕を見る目がどうしたらいいのと涙に潤んでいた。
そんなミライムさんの圧倒的可愛さに罪悪感を感じながら僕は「本当?」と目で聞いてくるので頷いておく。
とっさについた嘘にイルミナが僕の洗脳を解くのをミライムさんに協力するように頼んでくれないかなと考える。
そして僕のファーストキスをささげて……
おっと涎が。
「そういうわけなので洗脳を解くの手伝っていただけますでしょうか」
「もちろんですよ!」
洗脳をされているのに洗脳をされていることを自分で言うことに疑問を持たないのかミライムさんはあっさりと頷いてくれた。
それにイルミナも洗脳されて困るなら最初から止めろよと思うがどうしたものか……
僕のために何かしようとしてくれるミライムさんの好感度が思ったより高くてびっくりするが今はミライムさんがどこまで僕にしてくれるかで頭がいっぱいだ。
「それで具体的に何をすればいいのでしょうか」
「そうですねぇ……フリード様何かありますか?」
「それなら……キスとかして欲しいです!」
そういうと僕は目を瞑ってミライムさんの方へ顔を向ける。
僕の顔が真っ赤になってしまっていることを感じる。
「「………………もしかして洗脳解けてる?」」
ヤバ!
自分の欲望を全開にしてしまった。
「ねえ、答えてよ。洗脳既に解けてるんじゃないの?」
しかしどうしてさっきまで気づかなかったのにキスで気づいたんだろう?
ほんの二日前まで顔見ただけで気絶していたとは思えないほどの進展っぷりだ。
学園力おそるべし!
「い、いやー、実は…ミライムさんの顔を見たらすぐ解けてしまっていました」
何故ばれた?
僕の頭の中にはそのことしか浮かんでこない。
嘘をついたという事実が、ミライムさんの僕に対する評価を落とす物と考えると恐ろしくてしょうがない。
一応とぼけてみたもののミライムさんの中でどんな評価が下されるのか恐ろしい。
「よ、良かったー」
「え?」
「大丈夫ならちゃんと言ってくださいよ!心配したんですからね」
やはりミライムさんは天使だ。
僕ならばこのような反応をすることを思いつきすらしなかっただろう。
ミライムさんには惚れ直してしまう。
「いやいや、流されないですよ。どうして言ってくれないんですか心配するものなのですよ。特にあなたは公爵家の人間なのですから、一人が洗脳されてしまうとそのまま国にとんでもない影響が出ることすら考えられるのですよ!」
国に使えている人間らしい言葉がどこからか聞こえる気がしたが、気にしないでおこう。
「ミライムさんあの、心配かけてすみませんでした。入学式の件にも何度も迷惑をかけて、本当にすみませんでした」
「ここは謝るのでなくありがとうって言ってください。そしたら何度でも迷惑かけてくれていいですから」
教科書に出てくる聖女のようなことを言うミライムさんは、後光がさしているかのように眩しく、さっきから耳元で聞こえる騒がしい声が喝さいを挙げているかのようだった。
「なんで私を無視するんですか!私も一応心配してましたからね、もうつべこべ言いませんが今後同じようなことがないようにしてくださいね!」
「ミライムさん♡」(うっとり)
「もういいです!」
耳元で聞こえる声は消えてしまったが、ミライムさんは相変わらず美しい。
「それにしてもどうして洗脳が解けていると気づいたんですか?」
少し気になっていたが、いろいろヒントがあっても気が付かなかった二人が気付いたのだろう。
「それはですね、イルミナ様の説明で確か“小さな女の子を襲うのではなく、守るのだ!”と言っていたので、き、き、キスをねだったフリード君は違うなって思ったんだよ」
そういえばそんなことを言っていた気がする。
まぁ襲うってなんで襲うのか理解できなかったから気に留めてなかったが、どうやらミライムさんはそこのところが気になるということは襲うっていう意味を知っているんだろう。
「んー?襲うってどういう意味なの?」
「え?え?襲うってそれはもうあれだよ」
あれってなんだ?
その説明ではよく分からなかったが、もう一度聞かせてくれる雰囲気ではなくなったのでここはおとなしく引いておく。
「それでは今日はありがとうございました。また明日ね」
そう言い残して出ていくが一つ疑問が出来てしまった。
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