第39話 さらわれた子供の処遇
「だ、大丈夫ですか?」
「問題ないですね。行きましょうか」
少し頭に手を添えながら元の部屋に戻る。
部屋にはあの時『幼少の誓い』のみんなと戦ってた残り二人が倒れて、みんなはいなくなっている。
「捕まってた子はこちらですよ」
アルバートが先導してくれて僕は次の部屋に入る。
「あ!フリード様!大丈夫でしたか?」
僕が部屋に入ってくると『幼少の誓い』のみんなが僕にかけ寄ってきてくれる。
肝心のフィリーネさんを見るとなんだかおなかを押さえて、苦しそうにしている。
「僕は大丈夫なんですけど……フィリーネさんこそ大丈夫なんですか?」
するとレスキュラさんたちはあきれたような、あきらめたような表情をする。
僕が不思議に思っているとフィリーネさんが必死になって弁解する。
「こ、これは……ふぅ……違うんですよ。私は嫌がったんですけど……無理やり突っ込まれてしまったんです」
フィリーネさんは涙目になりながら見ているだけで苦しくなるくらい必死だ。
僕はすぐに駆け寄り、僕の腰に常に装着している道具袋から通気性の悪い袋を取り出し、背中をさする。
「大丈夫ですか?」
「はい大丈夫です。……感謝しますけど、一度口にしたものを吐くのは……あまり褒められたことではないので……ありがとうございます」
「それにしてもどうしてそんなになるまでいっぱい食べたんですか?」
フィリーネさんは口の周りに小さな食べかすをつけながら、ヒィヒィ……ふぅーと息をしながら食べ過ぎで苦しそうにしている。
「それが……ここに無理やり連れてこられた後、当然訳が分からないまま抵抗したのですけど、回復担当で接近戦の経験がほとんどない私ではなすすべもなく無力化されてしまったのですよ……」
話を聞くとその後、この大人向けで、とてもフィリーネさんに似合うとは思えない服や装飾品、化粧品の詰まった部屋に連れ込まれたようだ。
これから何をされるのかも分からず、泣きそうになっていたところ部屋の中に大量の料理が運び込まれたらしい。
食べていいと言われて警戒したらしいが、香り立つおいしそうな食事に砂糖に群がるアリの様に引き込まれていったらしい。
ついつい食べ過ぎてしまい、これからは控えようとしていたところにデザートが運び込まれてきて、そこからは覚えておらず気が付いたら腹がパンパンになるまで食べた自分がいたらしい。
そこでレスキュラさんたちが来て訳を話しているらしい。
部屋で山積みになっている食料の山を見る限り特に変なものが入っているようには思えないので問題は無いだろう。
「まぁ、無事で何よりですね」
「私たちが苦労してここまで来たのに、助けられる本人が食べ過ぎでぐったりしてたって、他の皆さんに心配かけたこと、しっかり謝りなさいよ」
レスキュラさんは呆れたように言うが本心では安心しているのか、ここに来る前に比べて頬が緩みっぱなしだ。
「はい!ありがとうございました」
フィリーネさんにもそれが伝わったのか、嬉しそうに返事をする。
とはいえ、ここは一応敵地。
ここに来るまでの敵は殲滅してきたとはいえ、緊張を解いていいわけではない。
早く帰るに越したことはない。
「じゃあ、先輩たちを起こして帰りましょうか」
苦しそうにしているフィリーネさんを起こし、僕も確かな足取りで歩くことが難しく『不屈のロリータ』マルティナさんに肩を貸してもらって移動する。
「あ、その前に僕がずっと一緒に移動していると僕の立場が危うくなってしまうので、僕に適当に怪我をさせて行ってくれませんかね?フラマさんの攻撃で私の仲間が全滅したところで自分だけ回復して駆けつけたので、仲間を回復できなかった言い訳が欲しいです。せめてさすがに自分で傷つけることはしたくないので……」
アルバートの視線がフラマに移り、つられて僕も見てみるとフラマはすごく鼻が高そうに胸を張っていた。
「ああ、そうかアルバートは『少年の心』だもんな。なら僕が直々に大怪我に見えるのにあまり痛くないところを切ってやる」
「ありがとうございます」
「というわけなんで剣を貸してもらっていですかね?」
僕が今肩を貸してもらっているマルティナさんの持っている剣は今の状態の僕では扱うのに一苦労しそうなので『隠顕のロリータ』イルマの持っている小刀を借りる。
「これですか?いいよ!」
イルマさんも朝は表面は元気だったが、時々暗い表情が見え隠れしていて心配していたけど、今では陰りのない笑顔でニコニコしているから安心する。
「ありがとうございます」
マルティナさんに貸してもらっていた肩から外れて、自分で立ち小刀を構える。
「どれくらいの傷がいい?」
「治療しなくても問題ないくらいでお願いします」
「任せろ」
とは言ったものの、治療をしなくていいとはどれくらいのことを言うのだろうか?
僕基準で治療をしないでは何となくアルバートが死んでしまうような気がする。
動くのが億劫になるくらいがちょうどいいかもしれない。
アルバートの体に集中して、真剣が最も薄く張り巡らされているところを胸、腹、足の三部位を痛くないように意識しながら切り裂く。
これは僕がボルベルク領にいたとき、訓練をさぼりたいときによく先生に協力してもらってやったことだ。
アルバートは僕が小刀を鞘に納めると同時に崩れ落ちる。
「――こ、これってさすがにやりすぎじゃないでしょうか?」
フィリーネさんが少し引いた様子で僕に聞くが僕もまさか気絶してしまうとは思わず、少しびっくりしている。
「いや、これくらいで気絶してしまうとは思わなくって……」
「この人ってあくまで回復職ですよ。前衛と同じ感覚でいたらだめですよ」
確かに後衛にもしかしたら酷いことをしてしまったかもしれない。
「……あれ?回復系統のエルメって知ってたんですか?」
「一応、私たちが三人で戦っていた時に最後に治療してくれたので……」
「まぁでもこれはある程度治療した方がいいですよね。フィリーネさん。悪いですけど、傷を残すくらいで治療お願いします」
「分かりました」
血がダラダラと止まらずこのまま放置してたら死んでしまうかもしれないとすら思っていたがすぐに止血されて、一安心する。
「それじゃあ、戻りますか」
僕たちは『成長の守り人』の集会場所に戻るため来た道を引き返す。
すぐにザバンさんとルーベルが戦っていた部屋にたどり着く。
「クソ!いつもなら苦労もせずに勝ててたってのに……ハァ……どうしてここまで俺が追い込まれる……ハァ……」
ザバンさんとルーベルの勝負はどちらもフラフラで二人ともまるで土の中に埋められて丸一日放置されたときの僕の様につらい雰囲気を出している。
最初は奇麗な艶のあった鱗も今では剥がれ落ちたり傷ついたりしており、肩で息をして、足取りもはっきりとしていない。
「……ハァ、ハァ、ゴボォッ!……いつもはお前は基本的に私が一人でお前は『少年の心』の仲間と一緒に戦っているからだろ。コヒュゥ……本来の実力は同じくらいだよ。……だが安心しろ。私はお前の様に仲間に……………」
「ナイスアシストですザバンさん!」
ザバンさんは言いかけていた言葉を切り、僕の方を見る。
その先には弓を持った僕の姿がある。
「――しっかり頼るから……」
それを見てザバンさんがか弱い声量で言葉を付け足す。
ルーベルは僕の精密極まりない狙撃によってザバンさんにはがされた鱗の部分を矢で打ち抜かれた。
「おい……今は俺と話していただろ。……卑怯者め……」
ルーベルは僕の方を見ながらよく分からないことを言いながら倒れて行った。
「これで敵の大将も倒しましたし、フィリーネさんも助け出しました。これは完全に僕たちの勝ちですよ!」
「ああ、そうですね。……いや、そうですね」
ザバンさんは少し寂しそうに言った。
どうしてだろうか?
まさか僕が勝負を決めたから?
この僕を勝負が決まるまで待たせようとしてたというのか。
あんな泥仕合になりそうなものを見ても何の面白みもない。
それにしてもあんなにもかっこいい言葉で敵に気を引いてくれるとは僕も思わず撃たないとって思っちゃった。
「早く帰りましょう。僕はもう疲れてしまったので早く休みたいですよ」
「そうですね。帰りますか」
「じゃあ、死なないように治療お願いしていいですか?」
僕の矢は鱗のない部分を打ち抜くことを優先して急所を打ち抜いたというわけではないがなかなか消えんなところに刺さっているはずだ。
このまま放置しておくと最悪重度の後遺症が残る可能性がある。
「ええ、そうですね。……分かりました」
フィリーネさんには悪いがポーションはなかなか高い品物だ。
自分には惜しむつもりはないが、敵に対してわざわざ使いたいとは思わない。
それに僕は質の高いポーションしか持ってないので回復され過ぎてしまって起き上がってくる可能性がある。
「終わりました?」
「ええ、これくらいでいいですかね?」
「これくらいなら起き上がれても相手になりませんし問題ないと思います」
「伸びてる人たちを叩き起こしていきますか」
僕たちはまずルーベルにやられてしまっていたグランさんとイオーレさんを叩き起こしていった。
僕たちが『少年の心』の集会所から出たころにはみんな足取りがおぼつかないまま何人かは起きなかったので背負っていた。
「俺たちの勝ちだ!」
「「「「オオオォォォ!!!!」」」」
行くときに比べて声は小さなものだったが、声は明るくて気持ちのいいものだった。
僕もその熱に襲われて近くにいたイルマさんに抱き着く。
「へ?……へぇぇぇ!!!!」
イルマさんは顔を真っ赤にしながら蛸のようにしぼんで行く。
後日打ち上げがあることが決まって僕たちはフラフラと自分の部屋へと帰っていった。
僕もその波に乗って帰ろうかと思ったが、視界の端に僕の最も大切なことが映し出されて、僕の足はそっちの方へと餌に群がるウナギの様に引き寄せられる。
「あの………ミライムさん見ていてくれましたか?」
僕の視界の先には眼鏡をかけたミライムさんが映る。
ミライムさんは片手におやつを持ち、イルミナやビカリアさんと談笑していた。
いや、談笑といってもビカリアさんはさっきから僕の戦いを見て泣いているので二人だけで会話をしている。
結局、僕はだれかとともに戦うことでしか今日勝利を得られなかったからそれについての悔し泣きだろう。
僕としてもそれについては悔しい。
それでも、最終的に勝つことが出来さえすればいいのだ。
僕は近い将来に頂点に立つ人間なのだから。
「ああ、フリード様!私からすると三十点くらいですかね」
「あ、イルミナには聞いてないです」
イルミナの失礼な物言いは置いておいてミライムさんに集中する。
僕の期待した目を見ながらミライムさんはニコッと微笑む。
「うーん。いろいろと課題が見えてくる戦いでしたね」
「……はい」
僕の能力は必殺技があるにはあるものの必ず殺せるほど威力が高いというわけではない。
もっと威力のある技が欲しい。
「でも実戦で使いにくそうなモーニングスターであそこまで戦えるのは凄いことだと思いますよ」
「はい!」
「それに、年上相手に一歩も引かずに戦い続けてかっこよかったですよ!」
「あ、あ、ありがとうございます!」
やばい!頭がとろけそうだ。
ミライムさんのかっこよかったですが僕の耳から入ってきて僕の全身から力が抜けて行って膝が抜ける。
「フリード様しっかりしないと危ないですよ」
僕の膝小僧が地面に着く前にイルミナに脇から手を入れて立つのを助けてくれる。
「すみません」
力が抜けて立つのを手伝ってもらっている現状に僕も少し気恥ずかしくなる。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ご心配をおかけしました」
ミライムさんは僕に近寄ってきて僕の額に手を当ててくる。
「え?ミライムさん!」
僕は先ほどのイルマさんの様に顔が真っ赤になってまた力が抜けていく。
「ちょっと!フリード様」
また膝をつきそうになったことで今度は僕が立つのを手伝ってくれると同時に僕の頬をひっぱたいてくる。
あまりにも突然のことに僕は一切の衝撃に対する準備をしておらず首がフクロウの様に回る。
そして今度は力が抜けるだけでなく意識まで抜けていった。
最後、意識が落ちる瞬間に「あれ?やりすぎちゃった」という声を聞き、殺意を覚えた。
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