第23話 強敵
僕も将来ボルベルク領の領主となる人間としては無関係ではないが、僕の将来設計図としては、ほとんどの政事は信頼できる天才と呼ばれる類の人たちに任せようと思っている。
僕に人のことを考えて法律などを考えろと言われても僕が大切だと思える人には上限がある。
顔の知らない人たちの気持ちだなんて考えてられない。
「それでも人の……………」
「だからどうしようもない……………」
二人の会話が僕の耳に入ってくるが、二人の意見はどちらが正しいかなんて僕に判断することなんてできないし、したくもない。
僕はどうせ政治にあまり関わらないし関係のないことだ。
それにしても二人とも熱い持論を展開させる。
さぞかし良い領主になることだろう。
成れたらだけど……………
エレーファは三男だから領主になる可能性は低いし、ミライムさんは女性だからどこかに嫁ぎに行って、政治にかかわる可能性は少ないだろう。
僕のところに来てくれたらいいな~
この中で政治に関わることがほとんど確定しているのは僕だけで、他の二人は関わらない確率の方が高いのに、そんな僕は政治に興味を持っていないのはなんて理不尽なことだろう。
「フリード様!今何か感じませんでしたか?」
突然エレーファがそんなことを言う。
僕はミライムさんのことばかり見ていたから特に何もわからなかったが、エレーファがこんなことを言うんだ。何かあるに違いない。
そんなことを思いながら周りをキョロキョロして怪しい人はいないか探してみる……………ダメだ、怪しい人しかいない。
「フリード様あっちの方を探してみてください。何やら私たちに敵意を持っているものがいます!」
そんな僕の様子から僕が何も分かっていないと判断したのか、具体的なアドバイスをくれる。
エレーファが指さしたのは怪しい屋台の立ち並ぶところの方だ。
そこには人がいっぱいいるし、全員が全員悪そうな奴らで不細工ばかりなのでどいつが怪しいかなんてとても判断することが出来そうにない。
「おそらく実力者ですよ!覚悟してください」
そういわれると少し怖くなってくる。
眼鏡を着けたままの状態では物を透かせて見るときは相当の集中をしないと見ることは出来ない。
人がたくさんいるし、ミライムさんもいるので出来るだけスムーズにこの状況を解決したい。
だから僕は眼鏡を外して本気を出す。
しばらく眼鏡を外したまま見てると知った顔が目に入ってくる。
「あれ?」
「何かありましたか?」
「それが……『ハーム・ウル』の構成員を見つけて、それにこいつ相当の強さらしいですし、たぶんこいつだと思う」
ノルザだ。
その辺を何の気なしに歩いているのを見つけた。
僕たちのことを見ないようにしている様子が見るだけで伝わってきて、美少女と美男子僕たちがいることで周りの人たちからこんなにも注目を集めているのにあえてこっちを見てないのは逆に怪しく感じる。
それにチラチラ物陰に隠れながらこちらの方を監視しているので間違いないだろう。
「『ハーム・ウル』……………」
エレーファが何やら呟く。
「ほかに仲間らしき人はいますか?」
「多分いないと思う。前にあったときも一人だったし、今回も多分一人だと思う」
何か嫌な記憶でもあるのだろうかは分からないが、あまりいい気持ちではないようだ。
「『ハーム・ウル』ですか……危ない相手ですね。こちらのことを意識しているようですし、みんなで逃げるより、援軍を呼ばれる前に仕留めた方がいいかもしれません。それに、私たちなら実力的にも問題ないでしょうし」
エレーファは特に気負いをした様子もなく言ってくれる。
確かに僕にエレーファそして何やらイルミナからの信頼厚いミライムさんもいることだ。
戦闘スタイルはよく分からないが、正直ノルザに負ける気はしない。
ビカリアさんは一体何を恐れていたんだというのか。
「なら、僕と面識があるはずですから僕が最初に行って注意を引いたほうがいいな」
そういい、カバンの中から戦闘用マスクと、ゴーグルを取り出す。
眼鏡を着け変えて、戦闘準備をする。
このゴーグルにも不可視の呪いがつけられており、違うのはゴーグルの右上にあるねじを回すことで呪いの強さを変えることが出来るということだ。
「戦闘が始まったら元の通りのほうに出るようにしてください。私はミライム様を逃がす振りをして後で奇襲しますから倒されなければ問題ないです」
「私も二人の様に戦闘にあまり詳しいわけではないですけど、少しぐらいは二人の役に立つことが出来ると思うのですけど……………」
「ええ、分かってますよ。だけど、さすがにミライム様を盾替わりにすることはできないので、援軍を呼んできてください。ビカリアさんを呼んでいただけると完璧です」
「私ビカリア様がどこにいるのか具体的に知らないのですが……………」
「ビカリアさんなら城に用事があると聞いてますよ」
「城ですか……学園にいるよりは早く呼ぶことが出来そうですね。急ぎますので、気を付けておいてくださいね!」
そういい、エレーファとミライムさんが城の方へ行ってしまった。
今更ながら二人で走っていく様子をいてなんだか羨ましいなと思う。
「でも、フリード一人で大丈夫ですかね?相手は危険な組織の人でしょう?」
「大丈夫でしょう。フリード様は守りに徹すれば防御は固いですし、意外と根性ある人なので……それに今は見えないですけど、どこかにイルミナ様が見張っているはずです。あの人はピンチにならないと助けてくれない人ですけど、信用できる人ですからね。問題ないですよ!」
「なら安心ですね。もしかすると私たちが戻ってくるまでに倒してしまっているかもしれませんね」
二手に分かれているときにそんなことを言っているのが聞こえる。
やばいかもしれない。
今僕に護衛ついてないのに、エレーファもいるから戦おうと思ったのに……
てっきり僕が注意をひいてる間に裏から回って攻撃を仕掛けてくれるのかと思ったけど、思っていたよりも離れるみたいだ。
二手に分かれるとノルザも動いた。
一直線上に道のノルザのいるほうこうの逆側に二人が歩いて行ったので、一人になった僕に向かって、一般人と呼んでいいのかは分からないが、周りにいる人達に紛れながらこちらに進んでくる。
どれくらい強い相手なのかは分からないが、前は訳も分からずイルミナの助けがなければ切られていた。
どれくらい持つだろうか分からないが、からくりさえ分かれば問題ない類のエルメかもしれない。
もうやるしかないだろう。
「また会ったな。今度は何の用だ?今度は誰にも媚売ってないようだが……」
僕はノルザの進路を塞ぐようにして前に出る。
「また会ったなって……………顔を隠しておいて、分かるわけないだろ」
「おっとこれは失敬」
本気で戸惑っている様子のノルザを見て、僕は急いでマスクを外して顔を見せようとする。
「危なっ!」
僕がマスクを外そうと顔の後ろに手を回すと素早く抜刀された剣が僕の顔を掠める。
とっさに反応して避けていなかったらもう僕はこの世にいなかっただろう。
殺意ある一撃が僕を襲った。
「油断しきってると思っていたが、今の一撃を避けるとはやるじゃん」
余裕の笑みを浮かべてノルザは立っていた。
「僕だってわかっていたのか……」
確かに僕のことを観察していたはずなのにマスクをつけただけで分からなくなることはないと今にして思えば明らかなことだ。
「私が嫉妬してしまうくらいに奇麗な顔をしているんだ。忘れられないさ」
顔が良すぎるというのも罪だな。
同性相手でも魅了してしまうなんて我ながら恐ろしい。
「とにかく僕に攻撃してきたということは僕と戦うってことでいいんだな」
「まぁ、そんな予定はなかったですけど、どうせ必要なことになるでしょう……」
僕が矛を構えるとノルザが剣を持って踏み込んでくる。
斜めからの一閃。
――速い!
そして重い攻撃が僕を襲う。
前回あったときはそんなに動いていなかったことを見るに、今回は本気で僕のことを殺しに来ている、もしくは行動不能に陥れようとしているとみて間違いないだろう。
持ち手も部分で受けるが、この一撃はガノンの攻撃よりもさらに重く、鋭い。
一撃受けただけで、僕の体制が少しだけ崩れた。
相手は僕よりも年上であり、体格もいいが、ガノンに比べると細いと言える。
いったいどこからこんな力があるというのだろうか。
受けた部分を軸にして、矛を回すようにして反撃する。
見てからでも十分反応できたのか、少し体を横にずらすだけで避けられる。
僕もまともに当たってくれるとは思ってなかったので、振り回した逆側の柄の部分で突き刺すようにして殴る。
「ふん……こんなものか?」
刃のついてないなら問題ないとばかりに僕の武器をつかむ。
「エルメを解放させてないだろう。せめて解放させないと私には手も足も出ないよ」
既に僕の力量は見切ったとばかりに余裕の表情で立っている。
しかし、僕の力はノルザに通じていないのも事実。
使用できる時間か伸びたとはいえ、エレーファが来るまで使わずに温存しておこうと思っていたエルメを使うしかないのかもしれない。
「いいよ。使ってやる……エルメ『固位』『シルバーアイ恋着』」
ゴーグルの右側にある呪いの強さを調整することのできる装置を操り、呪いをゼロにする。
呪いがないと入ってくる情報量が莫大なものになり、頭が痛くなっていく。
そして持ってきた薬を飲み、頭の痛みが軽減させる。
これまで違い、痛みがないため、戦闘にのみ集中できる。
準備にあまり時間はかからないが、戦闘中にこんなことをしてたらあっという間に攻撃されて負けてしまうだろう。
だが、ノルザは余裕の表情で僕の準備が終わるのを待ってくれていた。
待ってくれなければ正直困っていたが、そこまで余裕を見せつけられると一泡ふかしてやりたくなる。
今、余裕のあるうちにエレーファがどこまで来ているか探す。
少しノルザから目を離すことになったが、エレーファは既にミライムさんと別れて僕のほうに向かっているみたいだ。
だが、まだ距離がある。
あと一分ぐらいだろうか?
まだ援軍に来てもらうには時間が掛かりそうだ。
だが、薬の効力は三十分間もある。
これなら余裕だろう。
「準備もできたし、行くよ」
ノルザの周りを円を描くようにして回り込む。
「フンッ!」
一メートル半くらい離れていて回り込んでいたところから直線状に進み、矛をふるう。
金属音が鋭く鳴る。
だがその音に違和感を覚える。
僕の込めた力の大きさに比べて音が小さすぎる。
それは振るった感覚でもわかる。
僕の力がきれいに受け流されている。
「思ったよりも力、強くなったね」
これでもまだ余裕の表情を崩さない。
自分に強い自信を持っている僕でもさすがにここまで力の差があると焦る。
相手を蹴り、再び距離を開こうとする。
「私を蹴るなんてひどいじゃないか」
蹴るタイミングを合わせられ、僕が吹き飛ばそうとしたのに、逆に吹き飛ばされてしまう。
尻もちをつき、少々情けない格好になってしまう。
「これだけ力の差を示してもあのお姉さんたちは来ない……………もしかして今日は護衛いないんじゃないの?」
軽い感じの声からだんだん重い、粘り濃い声になる。
全身の毛が逆立つような感覚が僕を襲う。
飛ぶようにして起き上がり、矛を構える。
全身から嫌な汗が流れてくるが、内心を晒すわけにはいかない。
「それはどうだろうね!」
矛に魔力を通し、炎が刃に宿る。
「おかしいだろ。これまで、いつでも私はお前を殺せた。この前を思い出すに、君のことを大切には思ってるようだし、いるとしたら確実にもう出てきてるよ」
「うちの護衛はスパルタだから!」
「なら、そういうことにしといてあげるよ」
ノルザが剣を構えて、一歩前に踏み出し、剣をふるう。
ノルザから繰り出される攻撃は僕には到底繰り出せないような重く鋭いものだ。
それでも僕はボルベルク家の次期当主だ。
こんなに正面から振るわれた剣くらい簡単に受け流すことが出来る。
受け流すのは僕だというのにヌルッとした感覚がある。
それから流れるような動きで全身を使いながら二撃目、三撃目と次から次へ振るわれる。
矛の刃と柄をうまく使いながら攻撃を受け流す。
頭が痛むことなくエルメ『固位』を使うことが出来るからいつもより、攻撃を受け流すことに集中することが出来る。
受け流したはずなのに手がジンジンと痺れる。
薬のない状態だと、二撃目はともかく三撃目以降は受けることは出来なかっただろう。
それほどまでに僕はギリギリだ。
「攻撃は木の枝で攻撃してるようなもののくせに防御だけは固い……」
もしかして褒められているのだろうか。
明らかに僕より格上の相手だ。
そう考えると褒められていると受け取っても問題ないだろう。
「『炎囲壁』!」
僕とノルザの周りに一メートル程の高さの炎の壁が立つ。
僕に直接攻撃するのではなく、囲うようにして作られた壁は僕を逃がしてくれそうにない。
移動できる場所を制限されたことにより、パワーでもスピードでも劣る僕が圧倒的に不利な状況というわけだ。
炎の規模、発動速度といい僕を上回る。
ここまでくるとなんだか楽しくなってくる。
「『初恋の衝撃』!」
「そんな大技通じるわけないだろ!格下が!」
宙に浮かびながら矛をふるうことは流石にノルザ相手には隙が大き過ぎた。
完璧に避けられ、振り下ろしたところに剣をふるわれる。
背中に大きな切り傷、致命傷が出来る。
硬い、名のある名匠に作ってもらったオーダーメイドだったが、高かった買い物だけあって、きちんと効果はあったようだ。
これが無かったら真っ二つになってたことは衝撃で分かる。
致命傷と呼ばれるような傷はこれまで数えられないくらい受けてきた。
常に自分の限界を超えるように教育されてきたため、死にそうな状態はボルベルク領にいたときは日常茶飯事だ。
今更この程度の傷で動けなくなるような情けない教育は受けていない。
足を相手の片足に引っ掛け、ノルザの胸に矛の柄を思いっきり突く。
その勢いでノルザの手から剣が離れる。
「おお!」
僕がもう動けないとふんで、油断していたからなのか、簡単に尻餅をついてくれた。
すかさず相手の上に馬乗りになり、膝を使って肩を固定し、片腕で首を固定する。
さらに動けないように土魔法を使って地面を固くし、少し体を埋め込ませる。
「これで僕の勝ち!」
「あまり私を舐めるんじゃない!」
方はしっかりと抑えていたが、腕はある程度自由だったノルザは動けなくするよう支えていた膝を握り、奥の力を遥かに超える威力で引きずり落とす。
「うおッ!」
それだけで圧倒的有利を誇ってたはずの僕の体勢は支えが弱い状態でノルザの上に乗るようになる。
これでも僕のほうが有利だが、ここまでの力の差を考えると不利になったようなものだ。
ノルザはある程度自由になったことで、腰に差してあった短剣を取り出す。
先の細く、切るためではなく、突き刺すための物のようだ。
これを出されると僕も逃げるしかなくなる。
ザッと飛び跳ねながら起きて、ノルザの手は空を切る。
僕がけがをしないためだとは言え、有利であったはずなのに自分からその有利を捨てなければならない自分の弱さが恨めしく思う。
しかし間髪入れずに踏み込み矛をふるう。
逃げたばかりの相手だ。
少しは様子見で大人しくなるだろうと予想していたであろうノルザは反応に遅れ、僕の手に係った……………
「危なかった……」
………はずだった。
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