第33話 敗北

「それでもあなたに譲る気はないのでしょう?それは俺もです。それならどう転んでも妥協案何て見つからないでしょう」


 バルテルは鋭く踏み込み続け、僕を責め続ける。


 僕はと言えば、すべての攻撃を受け流す、もしくは避けるはして凌いでいる。


 僕の持っている剣はブリギットさんに作ってもらった属性武器だ。


 右手の剣は炎、左手は風の属性を持っている。


「『パーフェクトサラウンドアイス』!」


 バルテルの魔法によって出された氷の塊が僕の周りに発生する。


 エレーファと同じレベルとはとても言えないが、水魔法で氷を作り出せるとは魔法の腕はそれなりに高いようだ。


 僕の周り一周を囲った氷のせいで狭い場所に動きを制限されてしまう。


 無理に抜け出そうとしたり壊そうとしてもそんな隙を逃したりするような人ではないだろう。


 まだ氷を作ることに慣れていないのか拙さが見える。


 この程度なら問題ない。


「『炎膜』」


 魔法で作られた氷は一般的な氷に比べてどういうわけか溶けにくい。


 でもこの程度なら力押しで行ける!


 牽制と周りの氷を解かすために出した炎が僕の周りに物凄い熱を放ちながら発生する。


 その刹那、炎の中から人影が見える。


「オラァァァ!」


 炎を切り裂き、中からバルテルが飛び出してくる。


 避けきることが出来ず、正面から短剣で受けなければならなくなってしまった。


 膝などを使って出来るだけ衝撃は小さくしたがその程度で殺しきれるようなものではない。


 ブリギットさんにまた怒られてしまうなと思いつつ弾き返す。


「『大蛇・水流』!」


 バルテルが魔法で蛇を模した大量の水を作り出す。


 あまり外装はよろしくないがこんな一瞬でこの量を作り出すのは至難の技のはず。


 僕はこんな一瞬で作り出すことは出来ないし、時間をかけて作り出してもこの量を制御し続けるのに意識を持っていかれて作ろうとも思わない。


「それがその剣の能力か……」


 思っていたよりバルテルはいい剣を使っているようだ。


「分かります?結構高くついて、このお金貯めるのに年単位掛かったんですよ」


「それは結構なことだが、今どきこの王国学園で貧乏自慢なんて流行らないぞ」


 こんなにも大きな魔法を使ってきたんだ。


 僕にはもう近接で攻めるしかない。


 僕は一直線に走り、短剣を振るう。


「こんな物を見せたらそう来るよな」


 バルテルは自慢げに蛇を模した水の塊を動かし画なら僕の剣を受ける。


 やっぱり僕の身体能力だと僕よりも強い人に対して決定打になるような攻撃は出来ない。


 僕のまだ幼くて発展途上の小さな体を恨めしく思い、バルテルのような僕よりも大きくて力強い体を羨ましく思う。


「だから何だ?僕の動きが大体わかってたくらいで勝ち誇ること無いだろう?」


「いや、俺の勝ちだ」


 バルテルはおもむろに手から剣を離し、僕をその手で掴む。


「『決して離れない手』」


 バルテルの手は僕の両肩を掴んだ。


「どういうことだ?」


 僕は体を精一杯動かして離れようとするが、全く動かせることのできる気配がない。


 ならば、と腕を曲げ左手で僕を掴んでいる腕をつかみ引きはがそうとする。


「嘘!」


「おいおい、自分から動かせる範囲を狭くしてくれるとはサービス精神旺盛ですね」


 僕はバルテルの腕をつかんだのは良かったが、そこから僕の手は一切離れようとはしない。


 そこからバルテルは僕の肩から手を放し、僕の左腕をまた離れない手で掴む。


 僕の手は離れることが出来たが、結局腕は不自由なままだ。


 僕の右腕に持っていた短剣で今度は僕の左腕を掴んでいる腕を刺す。


「そんなことしたら危ないじゃないですか」


 そういいながら僕が刺そうとしていた腕に向かって僕よりも遥かに強い力で僕の腕を持ってくる。


 肉を抉る甘粛が僕の手に伝わってくる。


 それと同時に僕の腕が抉られる感触が僕の腕に伝わってくる。


「……………痛っ!!!!」


 僕の短剣は肉の壁を越え、骨にまで到達する。


当たりどころが悪かったのか吹き出し始めた血が止まらない。


 僕の額に痛みのあまり脂汗が浮かぶ。


「さっさと諦めたらどうです?そんなにミノタウロスが惜しいですか?」


「ミノタウロス……その程度の物のためにここまでするわけないだろ!プライドだ。女性にとって美しさが命よりも大事なように僕には命より僕がとった獲物を横取りされたことがプライドを傷つけたことの方が大事だからだ」


 バルテルは少し面倒臭そうな顔をする。


「なら、っと」


 バルテルは僕の足に自分の足をくっつけさらに僕の自由度を奪う。


「……………あきらめるなよ」


 僕の掴まれている手がバルテルの方へ僕よりも強い力で引き寄せられていく。


 僕も何が目的なのか分からないので、必死になってもとに引き戻そうとするが圧倒的力に負けて引き寄せられていく。


「フンッ!」


 ドガッ!という音が僕の顔から聞こえてくる。


 僕は押し倒されしまう。


 それと同時に風穴空けられた肩と骨にまで刃が当たった腕に衝撃が走って我慢できない痛みが走る。


 少し何があったのかと茫然としていると次から次へと衝撃が走る。


「な、なにを……」


 ま、まさか……………僕の顔を殴っているというのか?


 この『王国史上最高峰の生きる芸術』『天の創り出した唯一無二の美』『双翼の雌雄』とも評されたこの僕の顔を……顔を殴るだと……………


 確かに僕はこれまで何度もいろんな人に顔を含めてボコボコにされてきた。


 だが、その中でも顔だけは、顔だけは父上からあまり土井目に逢わせたりしないように言ってたらしく、話を聞かない人以外には滅多にと言うか全く狙われてこなかった。


 そんな僕の顔を……………許さない!


「そんなに怒るなよ。これはお前が勝手に自分の顔を殴ってるだけじゃないか。自分でやってることを俺のせいにされても困るぞ」


「……………遺言はそれでいいか?」


 顔を殴らされながら僕は底冷えするような冷たい声が出るのを感じる。


 確かに僕は自分で自分を殴っている。


 もちろんそれは力で僕はバルテルに敵わないからで、この程度の相手にここまで馬鹿にされるとは……………イライラして頭がどうにかなってしまいそうだ!


「この状況で何を言っているのですか?自分で自分を殴った衝撃で頭のねじが外れちゃったとか」


「……………エルメ『固位』『ブラックアイ』『怒瑠』」


 僕のエルメ『固位』には目の色によってさまざまな能力が出る。


 例えば『恋着』だと桃色でハート型のビームを出すことが出来る。


 前にガノンと戦ったとき、最後の攻撃『執心傾・恋の盲目』を使ったとき『創設期』の武器をもっていたので、それにビームを流し込んで放った。


 『創設期』の武器とは異常なほどエルメと相性の良いものが殆どだ。


 今作ることが出来るような武器だとビームを流し込もうとすると爆散してしまうものが殆どだが、『創設期』武器だと剣が鞘に収まるかの様に吸い込まれていき、放つことが出来る。


 これは必殺技と言っても差し支えがないくらいに威力の凄まじいもので、剣に流し込まずに放った場合には周りに被害が出るが、剣に流し込むとそこ一点に集中して周りに特に被害が出ないので重宝している。


 『怒瑠』だと爆発を起こすことができる。


 ここに来てまだ使ってないがこれも相当の威力を秘めたものだが、周りに大きな被害も出てしまうのであまり使うことが出来ない。


 それにこれを使うと大量の魔力と気力を使って、僕にとんでもない疲労がのしかかってくる。


 使っているときは基本的にそんなことも気にならないくらい怒っているので問題ないが後になって必ず後悔する。


 僕は頭を大きくずらして僕の顔を殴る拳を避けると同時にそのままエルメ『固位』を発現したことによってパワーアップした力で引きずり込みそれと同時に片足でバルテルの両足を刈り上げ、そのまま上に付き立場を逆転する。


 今日既にエルメ『固位』を発動させているのであまり時間は残されていない。


 この状況では薬を飲むことも出来ない。


 奥は自分にまで被害が及びそうな攻撃をすることをいとわない。


「『爆裂熱波』」


 僕とバルテルの間になかなか大規模の爆発が起こる。


それでもバルテルの能力で吹き飛ばされたりせず、ずっと至近距離で爆発を受ける。


僕は歯を食いしばり、目を瞑って少しでも被害を抑えようとしたが、バルテルは何もできなかっただろう。


くっついているから簡単に爆発を当てることが出来るし逃がすこともない。


こいつのエルメは覚悟を持った奴には相性が悪いようだ。


腹の底から響くような爆音が鳴り、未だに土煙が舞っているが薄く目を開けるとバルテルの顔が目に入り装備が剥がれ、全身に火傷を負い、特に顔がただれているのが見える。


僕よりも身体能力の高いバルテルがここまでなのだ。


一体僕んどこまでの被害が出ているのか、知るのが怖い。


「う………ぅぅう……」


 バルテルのかすれたような声が聞こえる。


 それと同時に僕を掴んでいた手が離れ、自由になる。


 僕の服は確かに短剣を使っているので金属性の物だとかは一切着けずに布製の体にぴったりとした者一枚だけだが、対靭性は普通の衣服と似たようなものだが魔法体制においては頭一つ飛びぬけて優れたものだ。


 それでもボロボロになってしまったがバルテル程ひどい火傷は負っていない。


だが顔は何も覆ってなかったのでどうなっているのかはよく分からない。


「うおおおおおおお!!!!!!!」


 爆発の衝撃で朦朧としていた意識も戻ったのか、バルテルは叫びながら宙に浮かしたままだった水の蛇を今度はバルテルが自爆覚悟で放つ。


「『爆裂』!」


 僕の元にすごいスピードでやってきていた水の蛇は僕に触れることも出来ずに目の前で木っ端みじんに爆発して無くなる。


爆発によって飛び散った水が僕の体にあたり、特に顔付近が無意識に歯を食いしばってしまうほど沁みる。


 直近で自分の爆発を食らったことでさすがの僕も時々クラッと来る。


 ちょっとエルメ『固位』を使い過ぎてしまっただろうか?


「なっ…………」


 温存していた切り札が、一瞬で消え去ったことでバルテルは少し呆然とする。


「こんな子供に……………エルメ『固位』『吸握不離』」


 バルテルは四足歩行になり、地面に手を付けながら僕の方に向かってくる。


 その姿に違和感がなく、これまで何度も使ってきており苦し紛れの物ではないことが分かる。


 近づいてくるにつれ、何が目的か分からない僕はわざわざ接近してくるならば離れてしまえばいいと思い、地面を蹴りながら後ろ向きに逃げる。


 基本ただの四足歩行で、少し近くなると僕に飛びついてくるのでそのあまりに必死な表情に気持ちが悪くて逃げる方にも熱が入ってしまう。


「何だ平民?あまりに知能が低すぎてとうとう野生に帰ってしまったのか?似合ってるぞ!」


「……………」


 僕のエルメ『固位』を発現できる時間は限られたものだ。


 出来るだけ早く勝負を決めたい僕は早く何が目的なのかを知りたい。


 だから煽ることで空撃ちでもしてくれたと思いいう。


 周りを木に囲まれたところで戦っていたが、逃げていたことでだんだん後ろに大きな岩が近づいてくる。


 僕は回り込みながらバルテルの後ろをとる。


「何!」


 後ろに回り込んだのは良いが、バルテルが触りながら歩いていたところを踏むと足がくっついてそこから動くことが出来なくなっていしまった。


「やっとか。これで俺の勝ちだ!」


 二本腰から短剣を取り出し、僕の方に腕を向け。


「『重鋼』」


バルテルの体が硬くなったのか、体の表面に金属光沢に似たものが浮かび上がっている。これはおそらくバルテルがさっき取り出した短剣が『創設期』の物で、その能力だろう。


僕と同じでまだきちんと使いこなすことが出来ず、ほんの一部の能力しか引き出すことが出来ていない。


『創設期』の武器はどれでも高価で取引されているので平民が買うには相当の努力が必要だったのだろうに。


まぁ、僕は『創設期』を腐るほど持っているのでその努力は一切分からないけど……

観察している場合ではない。


体を固くして何をしようとしているかは分からないが、早く逃げないと!


「『硬巌生成』」


 これは普通の属性武器だろう。


 体の前に大きな岩が三つ、後ろに一つの同じくらいの岩が生成される。


「…………………………必殺『人体吸力砲』‼」


 後ろに作られた岩がバルテルに勢いよくぶつかっていく。


「何を……」


 何をしていると聞こうとした瞬間バルテルの前に作り、置いてあった岩の一つが物凄いスピードで僕に向かって飛び出してくる。


 動くこともままならない僕はその岩を何の抵抗もすることが出来ずに当てられて、そのまま意識を失った。


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