第6話 ミライムさん界隈
次の日僕は朝の四時に起きた。
前の日にいつもよりも早く寝ていたため起きるのは早いが、ぐっすり眠ることが出来たためいつもに比べて寝起きがいい。
朝早くに起きた僕は顔を洗いさっと自分で朝ご飯を作り、身だしなみを整えて日課のトレーニングに出る。
今日は王国学園初級の入学式があるため七時には校舎に母上と一緒に集合してあいさつ回り、九時になると入学式が始まるため、いつものようにがっつりとトレーニングが出来ないので早めに進めなければならない。
「そういえば僕がいなくなった後、母上とミライムさんは一体どうしたんだろう」
今更になってお世話になったにもかかわらず逃げてしまったという罪悪感に押しつぶされてしまいそうだ。
そんなことを思いながら僕は部屋を出て外へ出る。
今日はビカリアさんたちがいないため、普段とは違うもののあらかじめ渡されていた重りを手足と頭の上につける。
手足につけるのも動きづらくてしんどいが走っていくにつれて頭の重りが首に負荷をかけてしまうのだ。
オーソドックスなトレーニングを終え、シャワーを浴び終えたのはもうすでに七時半を回っており急いで身支度をして入学式に向かって準備を整える。
入学式はパーティーのようなもので一着一着にとんでもない金額が掛かったであろうタキシードを身にまとう。
僕の準備が終えたのは、それから三十分経った頃だった。
母上は時間に関して徹底するように教わっているので約束の時間に遅れるようなことがあってしまうと、普段からまじめで誠実な僕を本気で心配して過去に大変なことになったことがあったのだ。
「やばいよやばい!遅れてしまう。」
そんなことを呟きながら走って部屋を飛び出していく。
そして部屋を出た際に飛び込んできた陰にギョッとする。
「……これはフリード様おはようございます。あの後からお体は大丈夫でしたでしょうか?」
そんなことを考えていると、突然ミライム様が部屋から出てきて動揺しながらも挨拶をいてくれた。
ミライムさんもとんでもないほどの金額でできたであろうドレスを身にまとっているようだ。
美しい!
これ以上に美しいものはあるのだろうか?
僕はそんなことを最後に考えた後再び気絶したのであった。
いったいどれほど時間がたったであろうか、僕が再び目を開けたのはミライムさんの部屋のベッドだった。
「……ん?このベッド見覚えがあるぞ。」
僕はクンクンと枕の匂いを嗅ぐ。
「この天国にいると錯覚させる匂いはまさか……」
「あの…フリード様恥ずかしいのであまり匂いを嗅いで欲しくないといいますか……決して嫌というわけではないのですが。」
ミライムさんだ。
顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっている様子のミライムさんがいた。
このベッドで失禁したら自害するな、たぶん。
「このベッドで失禁したら自害するな、たぶん」
「ヘッ――?」
「もしかして声に出ていました?それは本当にお恥ずかしい限りです。勘違いしてほしくないだけなのですが、僕はこの六年間おねしょしたことのないので心配なさらないでください。」
やっべーさっきちょっとちびりそうになっちゃった。
「僕入学式に行こうとしていたはずなのですが、今何時なのかおしえていただけますか?」
「今はもう九時過ぎでもうすでに式は始まっている最中ですね。」
「…えっ?もう始まってる?」
ミライムさんは何でもないかのようにやるべきことをしなかったと言う。
「さすがに嘘でしょ。だって、だって……」
「本当です」
ミライムさんははっきりという。
貴族であるものとしての役割を果たしてないと言う。
そんなミライムさんに対して恩があるにも関わらず、冷静になれなくなるほどの焦りと怒りが沸々と湧いてくる。
「なんでミライム様は式に出てないのですか!あなたのご両親や国王様までこの式に来るというのに。公爵家なのですよ!あなたの行動一つ一つが注目されているのですよ。あなたは貴族の代表とも言っていい存在であるのに、どうして入学式に行かないという行動ができるのですか!」
ミライムさんは頷きながら優しい笑みを浮かべて僕の話を聞いていた。
そう言い切った後僕の頭はだんだんと冷静さを取り戻していく。
冷静を取り戻した僕は言ってしまったことに対して後悔する。
僕は土下座して謝るそのことしか僕にはできないと考え、実行する。
「す、すみませんでした」
数秒後にミライムさんは口を開く。
「私が今やりたいと思っていることと、私が今やるべきことを天秤に計って、私はフリード様の看病をすることが、最も良いことだと思っただけです」
ミライムさんは意識しているのだろう、努めて優しく僕に優しくささやいてくれた。
「本当にすみませんでした」
もう一度謝る。
「もういいですから顔を上げてください」
またもや優しくささやいてくれる。
その様子は間違えを悔やんでいる罪人に罪を償うべく話しかける聖女のようだ。
その後しばらく謝り倒しミライムさんが「もうやめてください。」といった頃に僕は謝ることを止めた。
「それでこれからどうしますか?一応心配してきてくれた私の両親やフリード様のお母様には私はフリード様の看病をしておくと伝えておいたのですが……」
「そうですね………僕のせいでもう今頃には国王様の挨拶や在校生の挨拶は終了している頃でしょうし。新入生の挨拶をする予定の僕とミライムさんがいないのなら今更行っても迷惑になるだけでしょうし………………………さぼりますか!!」
僕はさわやかな笑顔で提案する。
「一体何を言っているのですか、今からでも会場に行きますよ。」
そしてバッサリと破棄された。
僕たちは急いで外に出て会場を目指す。
会場は校舎の最も遠い場所に位置しており行くのに時間が掛かってしまう。
会場に到着するまでに何人もの護衛の兵士らしき人に会い「君たちは誰だい?」「ボルベルク家とスタローン家の!」「どうぞお通りください。」のループを行い、到着するのにとても時間が掛かってしまった。
僕たちからするととても面倒な人たちだったが会場にいる王様の権力を感じてしまう。
しばらくすると会場となっている豪華なパーティー会場が見えてくる。
会場の前にもまだ護衛の人たちがおりまた同じような受け答えをして中に入っていく。
僕とミライムさんは大きな扉の前でたたずんでいた。
「どうやって中に入ります?さすがにこれだけ遅れて堂々と扉から入るのは気が引けるのですが」
「確かにそうですね、今のどのような状況なのかを知りたいですね………」
この奥にたくさんの人がいるのだろうたくさんの人が会話している音が正面の扉から聞こえる。
今どのようなことが行われているのか気になった僕たちはアイコンタクトをし、壁に耳を着けて何が話されているのか耳を澄ませてみる。
「これからも怪我などに気を付けて五年間の時を共に学ぶ仲間たちを大切にするように。……乾杯!」
どうやらすでに入学式は終了し、これから立食式の宴会があるようだ。
「これからどうしますかミライムさん?僕としては廊下を回り込んで非常口から入室していきたいと考えているのですが」
僕はこれからの方針を話し合うためミライムさんに話を向ける。
ミライムさんは少しの間考えこんだ後で口を開く。
「そうですね。私としてはお花摘みにいった後の帰りといった雰囲気で堂々と入りたいと考えているのですが。どうでしょうか?」
ミライムさんは堂々としていたいらしい。
「しかし……僕はともかく、ミライムさんはトイレをしないでしょう。ちゃんとトイレに行ってきたと思ってくれますかね?」
僕はこの案の問題点を指摘する。
「――?いったい何の話ですか?」
「……何ってトイレの話ですよ。あっ!トイレとはですね。我々のような一般人が行う体の中の不要なものを排出することでして――」
「いや、トイレくらい私も行きますよ!」
「えっ?」
「あれ?」
「……確かにミライムさんトイレに行くか論争の中にはきちんとトイレに行く葉の人たちが少数ながら存在していたことは把握してますが……まさか本当に彼らが正しかったとは……事実は小説より奇なりってやつですね」
「私としては自分自身が生物とは異なる存在として認知されていたようで不思議な感覚です」
「とりあえず、ミライムさんがトイレに行くならば問題ないですね。その案で行きましょう!」
ミライムさんの案の素晴らしさ、そのことについてこれから力説し始めようとすると、誰かがこちらに向かって僕が入ろうとしていた裏口からトントンと足音を鳴らせて歩いてきた。
「どうしたんだい君たち早く会場に入らないのかい?ここまで気配を駄々漏らしにしていて、何かの罠かと思えば君たちだったのかい」
「リークさん!」
リークは数年前までボルベルク家で訓練をしており、時々僕のお世話をしてくれていたのだが、今では皇帝の近衛騎士にまで出世しておりどのように接すればよいのか分かりづらい人である。
「これは失礼だったね。フリード様、ミライム様もし入場しづらいようでしたら、こちらにどうぞいきますよ」
僕は再会を喜んで名前を呼んだのだが、どうやらリークは僕の性格を知っているから注意したように感じたのだろう。
どうやら状況を察して会場に入るのに協力してくれるようだ。
「さあさあミライム様、こちらへ。フリード様も行きますよ」
「は、はい分かりました」
リークもミライムさんと同じ考えなのか、堂々と入ろうとしているようだ。
リークはなかなかいい男なのでミライムと一緒にいさせたくないのだが、今は目をつぶっておこう。
……………少しでも触れたら殺すけど。
しかしミライムさんと同じ意見であって、僕は違う意見だったことは気に食わない。
「はぁ~……やっぱり堂々と行くのですね」
「どうしたのですかフリード様。人生、隠れながら生きてあなたは楽しいと感じるのですか?あと今、めんどくさそうな顔をしてらっしゃいますが、あなたの目にとんでもない殺意が宿っていますよ。気づいていますか?」
僕がいまだに行くのを渋っていると……
「フリード様、もうこれまでに時間をかけ過ぎてしまっていたのですから、これ以上入りづらくなる前に行きますよ」
ミライムさんが僕を優しく窘める。
そんなミライムさんに僕は……
「はい!分かりましたミライム様。それでは不肖ながら僕がエスコートいたします」
僕の意見はこんなにも一貫性のないのかと自分でも驚愕したのち、ミライムさんの隣に立ち腕を組むように誘導する。
ドキドキ!
あまりの緊張でおそらく間抜けな顔をしていることだろう。
「なぜ変な顔をしているのですかフリード様?もう、早く行きますよ…えい!」
素で返された!
ミライムさんは会場のドアをゆっくりと開け、こっそりと入っていった。
「あ、ミライムさん待ってください。分かりました、行きますよ」
僕もミライムさんを追い入っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます