第57話 テーマパーク ⑤


「勇太君!!ぜったいぜったい、ぜっーーったい手を離さないでねっ!?離したらビンタ100回、ううん!!ビンタ1000回だからっ!!」


 …いやそれ、昇天してるだろ…俺…


 そんな無理を押し付けてきているのはお化け屋敷内にいる奏だ。


 今、俺と奏はヒヤッとするお化け屋敷内の赤黒い光に包まれる空間を二人で歩いている。手を離すなとは奏は言ってくるものの、奏自身が力いっぱい腕を絡ませてきているため、正直離すか離さないかは奏次第なところではあるのだが…


「あと、ずっと喋ってて!!無言は絶対禁止!!」


「いや〜、それはさすがに…」


 こんな調子でなんとも無理難題を何個も押し付けてくる状態である。


 迂闊だったようだ…お化け屋敷の話を振った時の奏のテンションの上がりよう…それは上がったのではなく、お化け屋敷が怖くて焦っていたようだった。奏の怖がりようからして申し訳ないなと思いもするのだが。


「絶対…絶対離れないでよね!?嘘ついたら針千本飲ますんだから!」


 …さっきから狂気じみた物騒な言葉しか出てきていない気がするんだが…


 正直、お化けよりこっちのほうが命の危険もあり怖いまである。


「なんで始めに言わなかったんだ?怖いなら、怖いって先に言えばいいだろ?」


 腕に力強くしがみついている奏に聞いてみると。


「だ、誰も怖いなんて言ってないっ!ただ道が暗くて…それで…」


 ウオオオオ…


「きゃーーーー!!」


 説得力は皆無である。


 聞こえてくる低めの男の声にビビり散らかしている奏。ビビリようからほんとに大丈夫なのか心配になってくる。


 戻ったほうかいいか?そんな気持ちはやまやまなのだが、道も狭い。こんなところで戻ってしまうとせっかくお化け屋敷を楽しみに入ってきた人に迷惑をかけてしまう可能性が高い。


 そのまま前進…それしか手はないのだ。


「大丈夫か?ちゃんと動けるか?」


「う、うん…大丈夫…」


 …………。


 ………ほんとに大丈夫か?…


 薄暗くあまり見えない空間ではあるが、寄り添う体から奏が震えているのがわかる。少しずつ足は進んではいるものの。


 …どうしたものか…


 アトラクションの大きさからしてもそこまで長さのあるお化け屋敷ではない。一歩一歩順調にゴールまでは進んではいるのだが、まだゴールには程遠い。あと数分…あと数分だけ頑張って奏にはゴールまで歩いてもらいたいところではあるのだが。


 クイクイ。


 そんな時だった…奏の今後を考えている俺の隣から服を二、三回引っ張られるような感覚があった。


「どうした…何かあったか?」


 奏に聞いてみると…


「あ、あの…その………おトイレ…」


 小声で全然聞こえない。


「なんだ?聞こえない?もう一回言ってくれ?」


 再度奏に聞き返してみると。


「おトイレ……行きたい…」


「…………は?」


 奏からそんな言葉が出てくると思っていなかった俺の脳内は、その瞬間何を言っているのかまったく理解できず、俺と奏の二人の空間には謎の沈黙の時間が生まれるのであった。






 


 

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