第45話 梅雨のひととき ⑧
「へ〜、柚子ちゃんは来年、私たちと同じ学校に入ろうとしてるんだー。じゃあ勉強も頑張らないとだねー」
「はい!いずれ私も柊先輩と同じ制服で登校ですね!」
「あははは、も〜、まだ私は柚子ちゃんの先輩ってわけじゃないよ」
「ふふふ。そうでした」
……………。
…何が「そうでした」だ…
柊を家に上げたはいいものの、ノリノリで柚子は俺の部屋へと柊を入れてきた。たまたま掃除したてで部屋は片付いていたからよかったものの、マンガや服が部屋の中に散らかっていたら一体どうするつもりだったんだ。そもそも柚子が柊と関わりたくてうちに入れたんじゃないのか?笑みを浮かべ会話を続ける柚子に思った。
「そうだ、せっかくですから柊先輩、うちにとっておきのお菓子があったんです!ぜひ食べてみませんか?きっと柊先輩も気に入ってくれると思いますので!」
手を合わせ「そうだ」とばかりにハンドアクションをする柚子に。
「えっ!そうなの!!柚子ちゃんがそう言うんであれば、ぜひ食べてみたいなぁ…」
乗っかる形で笑顔で返答する柊…それを横で見る俺は思った。
…………これ、俺…必要か?…
かれこれ20分、30分ぐらいか…二人でトークが盛り上がっていくなか、なんだかものすごい俺の蚊帳の外感が否めない。とは言っても、柊と柚子の女子トークに付いていける気もしないし、ついていこうという気もさらさらない。話からしてお菓子でも持ってきて、トークはこれからさらに盛り上がっていくのだろう。それなら尚、この場に俺なんていらないんじゃなかろうか。
ぜひ柚子の部屋で楽しい女子トークを満喫してもらいたいものである。
しかし…
…とっておきのお菓子?…
そんなもの、うちにあっただろうか?誰かからお土産なんかもらった覚えもない。あるのは確かスーパーで買った安いお菓子ぐらいだったはずだが…
俺は疑念の目で、お菓子の準備に入っていくであろう、立ち上がる柚子を見た。
すると…
クイクイ。
柚子の指先が俺にこっち来いとばかりに動いた。場面からして「耳を貸せ」そんなところだろうか?
…なんだよ、別に俺を呼ぶことなんてないだろう…
俺はめんどくさがりながらも横に座り出した柚子に耳を貸した。
そして…
「おい…兄ちゃん…お膳立ては万全だ…パパもママもまだ帰ってこない………この意味…わかるよな?」
…は?…
何を言い出すんだこの妹は。ニュアンス的に柚子の言いたいことをすぐにわかった。
耳元で囁くように言う柚子に俺は。
「バカか、お前!できるはずないだろ!相手はただのクラスメイトだぞ!!」
必死に囁くような声で言い返した。
「関係ねぇ…兄ちゃんはこのままいくと独身人生まっしぐら間違いなしだぞ…女を男の部屋に呼んだんだ!やることと言ったらただ一つだろ……大丈夫だって!ギシギシいこうがミシミシいおうが、あたしは全然気にしない。まずは上手く話してさ!キスから攻めていこう!……なっ!?」
「『なっ!?』じゃねえ!お前そのために柊を家にっ!!」
「あ〜、柊先輩…すいません!すぐにお菓子取ってきますので、お兄ちゃんとちょっとだけお話ししててください。それじゃあ、いってきま〜す!」
「あっ!!柚子、お前!」
「ごゆっくり〜」
ガチャン…
……………逃げやがった…
そしてこの場は俺と柊…2人きりの空間になるのであった。
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