第46話 梅雨のひととき ⑨


 ………気まずい…


 これが今の率直な俺の感想だ。柊との会話は今まで学校絡みのことが多かった。そのため何かと話題を振りやすかったし、振られてもそれなりに答えることができた。


 だが…これは。


 …………。


 今、置かれている状況は密室状態の一対一。帰り道のように「歩いているうちに時間が解決してくれる!」そんな簡単な状況ではないのだ。


 もちろんのことではあるが、ある程度の時間が経てばきっと柊も帰る流れにはなるのだろう…だが、さすがに俺が帰りの話を柊に切り出していくというのもなんだか「早くここから出ていけ」と失礼そうに聞こえてしまいそうでなんだかなぁ…というところ。


 今後の学校生活があるため、あまり誤解を生むような行為は取りたくはない。


『それっぽい話』


 こういう時は趣味とかそういうことを聞くべきなのだろうか?確かに柊と話す機会はかなり増えてはきたが、あまりうちうちの話をすることが多いわけではない。これが1番ベターな流れなのか………いや…


 もしかしたらそうなのかもしれない…そうなのかもしれないが。


 しかし…


 それは世間でいう一種の合コンののようになってはいないだろうか?


 そう俺の脳裏によぎった。


 何気なしの趣味などの質問。それは遠回しに「彼氏いるの?」に繋がる可能性が高い。相当な数の告白を斬ってきた柊だ…男である俺からそんな質問が来れば何かしら勘づくのは目に見えること。まだ第三者がいる状態だったらまだ話もしやすいのだが。


 であるなら…


 …柚子…


 兎にも角にも柚子だ。あいつがいればこの場はどうにか持ってくれるはず。妹に頼ってしまうなんともな兄だが、この場は…この修羅場だけはあの生意気な妹様のコミュ力にお願いするしかない。


 とは言えどだ…あいつはニヤニヤしながらこの部屋を出た。お菓子を取ってくるなんて話ははったりに違いない。きっと帰ってきたとしても「すいません!食べられちゃったみたいでー…」という姿が想像できてしまう。それに柊にバレないよう高確率で隣にある自分の部屋にも戻っていないはず。


 じゃあ一体あいつはどこへ行った?


 そんなことを考えている時だった。


 ピコン。


 俺のスマホが誰かからの連絡通知を受けた。交友関係の薄い俺が誰かから連絡が来るというのは珍しい。俺は柊に悟られぬよう、しれっとスマホの画面を確認した。


 そこには…


《おい、何やってんだ!!誰もいないだろ!?もっとくっつけよ!!早くしないとパパとママが帰ってきちゃうだろ!》


 柚子からの文面だった。しかも文面からしてどこかから見られているような意味深な連絡。


 見られている…その考えに至った瞬間、柚子がいそうな場所がすぐに特定できた。


 その場所へ…柊にバレぬよう、視線だけを部屋の窓のほうへと目を向けていくと。


 …何やってんだ?お前…


 俺はその姿を見て正直呆れてしまった。


 俺の視線の先…柊の真後ろにある窓。そこからは二つの灰色がかった眼光がこちらに力強く向いているのが確認できた。もちろん正体は柚子。ここは2階…きっといつものように脚立を準備して、その上に座っているに違いない。


 それにしても、外は雨だ。どれだけの野次馬魂…心の底からバカだと思ってしまう。


《できるか!バカ。それよりお前、こっちに来い。場が持たん》


 こんなバカな妹でも、背に腹はかえられない。俺は現状打破のため、柚子に速攻で返答を返した。


 しかし…


《バカか!兄ちゃん、ここが男の見せ場だろ!あんなことやこんなことをしてたってあたしは全然気にしない。今こそ兄ちゃんの生き様を見せるときっ!》


 ………ムカッ…


 無性に持っていたスマホを柚子のいる窓にぶん投げたくなる…そんな内容の文面が長々と書き記されていた。

 


 


 

 


 


 

 



 

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