第47話 梅雨のひととき ⑩
「相坂君、さっきからずっとキョロキョロしてるけど……大丈夫?」
…やべっ…
柊に勘づかれたようだ。
「あ、いや〜…まぁ…大丈夫、なんでもないよ」
これ以上何かすると、後ろにいる柚子までバレる可能性がある。そうなれば何かとめんどくさいことこの上ない。俺は視線を柚子から柊に戻した。
「ねぇ…相坂君?一つだけ……単刀直入に聞きたいんだけど…いいかな?」
なんだか柚子といた時と違って真剣な面持ちをしている柊。
「ん?…あぁ…うん………いいよ」
何か俺側に問題でもあっただろうか…心配になったが俺は覚悟を決め、柊にコクリと頷いた。
「相坂君ってさ………もしかして、彼女さんとか…いたりするのかな?」
「え?」
いきなりの柊からの突拍子もない問いに俺も言葉が詰まった。
「あっ!違うの!変に捉えないでね!この前もうちでグラビアの練習したりしたし、今日も相坂君のうちにまで来ちゃって、彼女さんなんていたら大変だなぁって……そう思っちゃって…」
「あー………」
…そういうこと…
察するに柊も柊で異性の家に来るというのを気にかけてくれていたようだ。柚子と柊が話しているのを見て、緊張感を持っていたのは俺だけなのかと思っていたが、意外とそうでもなかったらしい…俺の肩の荷も下りるというものだ。
「大丈夫、気にしなくていいよ…自慢じゃないけど、俺は今の今まで彼女歴なんてものはない…俺が誰と話してたって、怒る女子なんて人っこ一人いないよ…それよりそういうことなら俺のほうが心配だよ。もし柊さんに彼氏がいて、男の家に上がってるなんて知られたら、俺のほうがその彼氏さんからボコボコだよ…柊さん、美人だし…」
…まぁ、柊に彼氏がいたなんてこと一回も聞いたこともないんだけど…
知ってはいたが、笑いを取るべく冗談まじりに柊に返した。
すると…
「び、美人っ!!私が!?」
いきなりの大声に体がビクッとしてしまった。「そんな〜…」とか謙遜してくれる柊の姿を俺は予想していたのだが。
「あ、あの!相坂君、相坂君から見て…私は美人?可愛い?」
身を乗り出すように迫ってくる柊。赤面している顔ながらもその翠玉色の瞳からはものすごい真剣さが伝わってくる。
「んっ!?あ、あ〜…そりゃぁ、学校でも人気者だし…世間一般から見ても、普通に可愛い………と思うけど…」
攻めてくる柊に引きつつも視線をそらしながらなんとか話を返していく。人に可愛いという言葉を向けるのもなんだか恥ずかしいところはあるが、柊の問いの答えにはこの答えしか思い浮かばない。
「あのっ!!相坂君!……そんなことを言ってくれる相坂君に一つだけお願いがあるの!?これは私からの一生のお願い!!」
…なになになになに!?…
一生のお願いと更に身を乗り出してくる柊の勢いを全く抑えきれない。
「相坂君っ!!私と学校に通っている2年間の間……私と……ううん……私の………私の、彼氏になってくれませんか!!」
「…………」
「はぁぁぁぁ!?」
密室の部屋に俺の大声だけが響き渡った。
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