第48話 偽物の彼氏


「か、彼氏っ!?……俺が!?」


 あまりのことに声が裏返る。


「あ、でも違うのっ!!彼氏なんだけど彼氏じゃない………そう…偽物の彼氏!!…」


 思いついたように人差し指を立ててアピールしてくる柊。


 だが…


「そんなのダメに決まってるだろ!」


 俺は真っ向から柊の意見を否定した。


 …一体、どれだけの数のヘイトを買うことになる…


『柊の彼氏』それだけでどれだけのステータスが盛られることか…察するに俺を彼氏という扱いにさえしておけば、男から声をかけられないはず…とかそんな馬鹿げた柊の提案なのだろう。だが、これだけは柊からの一生のお願いと言われても拒否せざるを得ない。俺へのマイナスがデカすぎる。柊は一体何を考えているんだ?


「お願い!!これは相坂君にしかお願いできないの!」


「ダメと言ったらダメだ。それになんで俺だけなんだ?別に柊さんの言う『偽物の彼氏』なら作ろうと思えば、他にだってたくさんいるだろう?」


「そ、そんなの……いるわけないじゃない……私には相坂君しか…………だったら……とっておき」


「え?」


 話してる途中から俺とは違う方向を向いて柊が何かを言っているため、何を柊が言ってるいるのか全く聞き取れなかった。


 そして…


「えいっ!!」


 グイッ!!


 むにゅん…


「はぁ!?」


 一瞬の出来事だった。柊の言ってることが聞き取れなかった一瞬…柊はこちらを向き直すと共に、俺の手を両手で力強く引っ張り…そのまま、自身の左胸へと俺の手を置いた。


 そして…


 むにゅ、むにゅ、むにゅ。


「な、な、何をしてるの柊さん!?」


 俺の右手には綺麗に丸みをおびた柔らかい胸の感触…


「あ、んっ!」


 赤面しながらも俺の手を自身の胸に当てながら無理矢理に胸を揉ませていく柊…手を引っ張るも柊は全く離してもらえないという緊急事態。ほんとに何を考えているのかが全くわからない。


「離して、柊さん!これは、さすがに!?」


 少しして柊は、握っていた俺の手を解放してくれた。


 すると…


「ふふん…はい!これで相坂君は逃げられなくなりましたー!どうしよっかなぁ…今、起きたこと柚子ちゃんや学校の人に言っちゃおっかなぁ?」


 …クソッ…卑怯だぞ。柊 奏…


 人の揚げ足を取るようなセリフ…俺は距離を取り柊を睨んだ。


「柊…お前…」


「ふ〜ん…相坂君は私のこと、本当は柊って呼び捨てで呼んでるんだ〜。でも形勢は私のほうが有利だよ相坂君?なんせ相坂君には『変態』っていうネガティブな異名が懸かってるんだから……どうするの?私の話…聞くの?聞かないの?」


 …………。


 少しの沈黙が流れたが、真剣な眼差しの柊に俺は何も言えなかった。柊の言う通り、分が悪いのは俺のほう。頷けば、学校からの視線…断れば変態…どちらもマイナスこの上ないが、さすがに変態をあと2年言われ続けるのはなんともというところ…ともなれば、今の俺には黙って柊の言うことを聞く…という選択肢しか残されていないのだ。


「はぁ……わかった…とりあえず…とりあえずだ…彼氏彼女の前に一応話だけ聞かせてくれ…その先の話はそれからだ」


 ひとまず、俺と柊の一悶着は「話を聞く」という形でその場を収めることになった。




 


 

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