第19話 冴島唯 ①
「はぁ…」
時刻は午後の7時を回ったぐらい…なんやかんやみんなで本の整理をしていたらこんな時間になってしまった。もうとうの昔に日は暮れ、あたりは街灯や店の光のみの真っ暗闇に変わっている。
…やっちまった…
やっちまったというのもおかしいか…やられたのほうが正しい。まさかあの場面で容赦なく柊の下着を言ってのけるとは…
恐るべし、東山花梨だ。
あの後、さすがに気まずい雰囲気になった俺たちは本の整理係を再度入れ替わった。
あとで、何かきついことを言われるんだろう。
そんなことを思いながらに「人生終わった〜」という感情に打ちひしがれていたのだが、意外にも柊側が俺に謝ってきた。
俺も…
「いいよ、いいよ、大丈夫だから」
と、何が大丈夫かわからない返事を返しておいたのだが、どちらかというと俺のほうが謝るべきだろうとは思っている。
その後、柊と花梨を家の近くまで送り届けたのち、自宅への帰路についていたのだが…
※ ※ ※
……うわぁ…絡まれてる〜…
自宅近くのコンビニ前で、一人の少女と男三人組がなにやら揉め事のようなことをしているのを目撃してしまった。
俺も知らず知らずのうちに物陰に隠れ、その様子を伺っていたのだが…
…うちの学生?…
暗がりでよくは見えなかったが、目を凝らしてみると、少女が着ている制服はうちの女子制服なんじゃないかと思えてきた。
それに、あの女の子にはどこか見覚えが…
しばらく見ていると、話がヒートアップしているのか、少女の仕草に力が入っているのがわかる。それに対して男集団はしれっと少女を囲み出し始めた。
「これは〜…さすがにか〜…」
きっと、あの少女に男三人を負かす力なんて到底ないはず。そもそもなんで勝ち目のない戦いを女の子は挑みに行っているのか、それが謎である。
こうなることなんて予想できただろう。
「はぁ…」
俺は物陰から顔を出し、少女と男集団の間に入って行くことにした。
※ ※ ※
「あの〜、そこで立ち話されるとけっこう迷惑なんですけど〜…」
なるべく、下から、下から…とりあえず女の子と男たちを引き剥がしたいところではあったのだが。
「はぁ?知ったことか!そもそも喧嘩売ってきたのはそこの女じゃねぇか?」
男Bは強気に言ってくる。
…え、そうなの?…
じゃあ、なんでこんな火中のようなところにこの女の子は突っ込んできたんだ?さらに謎が深まるばかりだ。
「誰も喧嘩なんか売っていません!ここは禁煙エリアだから別で吸ってくださいって…そう言っただけです!」
…うわ〜…つえ〜…
一声聞いだけでわかった。この子がメチャクチャ気が強いタイプだと言うことを。
「それを喧嘩っつうんだよ!いいか…ガキ。今からその女を体でわからせてやろうとしてたんだ。邪魔したら…わかってんだろうなぁ…」
「はぁ?私の体はあなたたちのためにあるんじゃありません!!私のほうが見逃してあげます。早くここから帰ってください!」
男Cに負けじと返す少女。体にわからせる…単純にやりたい男と謎に正義感を男たちに振りかざす少女…
…ラチがあかなそうだな…
そんなことをしていると…
「こらーー!!そこで何をしている!!」
近場で巡回中だったお巡りさんがコンビニ前にいる俺たちに遠目から声をかけてきた。夜の7時すぎに学生とガラの悪い男たちが話していたらそうもなるだろう。
「おい、やべぇ…ずらかるぞ…」
男たちは走ってくるお巡りさんに気づくと、そそくさとその場から去っていった。とりあえずはこれで一件落着、暴力沙汰にならなくて心からよかった。
「大丈夫?」
少女に問いかけると。
「はい…ありがとうございました。このご恩は必ず」
そう言い、少女は頭を下げてコンビニから去っていった。
特にご恩というのはいらなかったが、とりあえず1つ少女に貸しを作れた…そんな夜になった。
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