第20話 冴島唯 ②


「それって冴島さえじまさんのことじゃない?」


「あっ!!そうそう!冴島さんだ、さすが瑠花…よくわかったな!?」


 朝の登校時間。俺は昨日の出来事を瑠夏に話していた。


 その話の中で、少女の特徴をちょっとだけ瑠花に伝えると、瑠花は一発でその人物を言い当てた。


「うん…ボクも少し前に、ちょっとだけ冴島さんと話す機会があってね。勇太の言う特徴からピンときたんだ…」


「なんだ瑠花…お前も話したことがあったのか?」


「あ〜…でも話したって言っても注意されたってことだよ。最近生徒会で朝の『身だしなみ運動』ってやってるでしょ?それで冴島さんにあたっちゃって…」


 …瑠花が身だしなみ?…


 見る限りいたって普通の格好。教科書通りの着こなしにしか見えないが。


「へ〜…なんて言われたんだ?」


 オーソドックスなこの着こなしから何を言われるかが気になり、興味本位で聞いてみると。


「うん…それがね。朝、門の前を通ろうとしたら…『どうして、女子生徒が男子の制服で登校してるんですか!?』って怒られちゃって〜…ボクってそんなに女の子に見えるのかなぁ?」


「あーー……」


 …なるほど〜…


 俺は瑠花の容姿を再度見回し思った。


 …お前は制服がなければ、誰がどう見ても女なんだよ…もっと自覚しろ、この無自覚男の娘…


 こればかりは俺も冴島さんに同情した。


※ ※ ※


 長い直線を抜け、学校の前までやってくると、そこには瑠花の言う『身だしなみ運動』を行っている生徒会メンバーの姿があった。その中には冴島さんの姿もあるのが見えた。


 昨晩会ったのはどのみち暗がりのコンビニだった…きっと俺の顔なんて覚えてることはないだろう。


 覚えられてるはずはない。


 そんな軽い気持ちかつ、少しばかり冴島さんを意識しつつも。


「おはよーございまーす…」


 当たり障りもない、ただただ平凡な挨拶をして通って行く。一瞬だけ冴島さんと目が会ったような気もしたが、たかが一瞬…俺はそのままの勢いで昇降口のほうへと歩いていく。


 はずだったのだが…


「あのっ!!相坂さんですよね!?おはようございます!昨日は助けていただきありがとうございました!」


 …え?…

 

『絶対に覚えられていない』


 目を切り油断をした一瞬だった…冴島さんは声をかけてくると同時に俺の目の前まで走ってきた。


「えっ…あぁ〜…うん…そうなんだけど………なんで俺のこと覚えてるの?」


 思わずたじろいだ。普通、関わりのない人のことを覚えてるなんてよっぽどでなければないだろう。ましてはあの時は暗かった…俺の顔も、話しかけた一度くらいしか見てないはず。それに名前まで…


「あっ!そのことですか?……私、生徒会に入るようになってから全校生徒の顔と名前を全部覚えるようにしたんです。昔から人の顔も一度見ればある程度わかるので、それで顔を見た時に相坂さんだなって!」


 あたりまえです!とばかりに何気なしにすごいことを言っている冴島さん。


 …すげぇ〜…


 それに…


 …すごく目を合わせてくる子だな〜…


 冴島さんと話していると、目をどうしても背けられなくなってしまう。


 というのも、冴島さんがじっと見てくるせいもあってか目を離す隙が全くないのだ。距離も吐息を感じるくらいには近く、絶妙に目線を逸らしにくい。


「へぇ〜…そうなんだぁ、すごいねぇ……じゃあ、このあとも生徒会がんばってね…」


 適当な挨拶でこの場をやり過ごそうとするも。


「あ!待ってください!」


 …ダメだった…


 冴島さんは何か気になることがあったのか俺との距離をさらに詰めてくる。


 …な、な、な、なにごと!?…


 その距離の近さに焦りが出た。何をされるのかとこの場で身構えていると…


「相坂さん!ネクタイが曲がってます!『服装の乱れは心の乱れ』気をつけてください」


 冴島さんは注意するように俺に言うと、曲がっていたネクタイを真っ直ぐになるように手直してくれた。


「はい!これでよし。今日も1日頑張ってください」


 こうして冴島さんのにこやかな笑みに送られ、今日の学校生活が始まることになった。

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