第21話 冴島唯 ③


「おはよ!相坂君、小林君」


「おはよう…柊さん」


 俺と瑠花は教室に入ると、まだ一時限目まで時間があると言うことで、柊を巻き込んでのちょっとばかりの雑談話をすることにした。


「ねぇ、ねぇ、聞いて、柊さん!勇太ってば…朝から冴島さんにネクタイ直してもらってたんだよ!なんか新婚さんみたいだよね〜」


「ネクッッ!!ゴホッ!ゴホッ!」


 瑠花の茶化すような話に柊はむせこんでいる。


「やめろ…瑠花、俺だってあんな大勢の生徒の前でやられるのは恥ずかしかったんだ。あんなの公開処刑みたいなものだろ?」


「そうよ。小林君!そんな公開処刑をする人間…あんな『ジャスティス女』が新婚なんてぜーったいにありえないんだから…」


 …やたらあたりが強いなぁ…それにジャスティス?…


 一人でぶつぶつ喋る柊を横に俺は瑠花を手招きで呼んだ。


「おい…柊と冴島さんて知り合いか何かなのか?」


 瑠花に聞くと、瑠花はイタズラっ子のような顔で俺の耳元で答えた。


「勇太、知らないの?『柊 奏VS冴島 唯』1年の頃から有名だったんだよ…」


 と瑠花は「そんなことも知らないの?」と顔をしているが、なんと言われても知らないものは知らない。俺の学校生活は最低限度のもの…友達を積極的に作るわけでもなく、人付き合いがものすごくいいわけでもない。人と人の交友関係には疎いところがある。


「知らんな…どんな戦いなんだ?」


「あ〜、うん…話すと少しばかり長くなっちゃうんだけど…柊さんと冴島さんていろんな共通点があってね。『容姿端麗』『頭脳明晰』『運動神経抜群』それに告白一刀両断の柊さんに悪いこと断罪の冴島さん…お互い人を寄せ付けないとこまで一緒でさ。共通点が多いゆえ、ボクたち裏側の人たちで起こったのが、2人の優劣を決める戦い『柊さんVS冴島さん』なんだ」


「あ〜…なんとなくわかった…」


 察した話…俺たち裏側がテストだったり、イベントごとだったりで2人の戦いに盛り上がっていたところ…2人がなんらかの理由でそれを知って、勝手にライバル視を始めた。きっとこんな感じの流れなのだろう。


「それで…今の所はどっちなんだ?」


「五分五分…」


 …まぁ…それもそうか…


 じゃなきゃ柊もここまで敵対視しない。


「ジャスティスってのはなんで?」


「それは冴島さんのお父さんが警察官らしくてね。それに憧れてるってのを柊さんが知って、勝手に呼んでるんだと思うよ」


「なるほどね」


 俺が瑠花の話に納得した。


「相坂君…ちょっと…」


 柊は周囲を2度3度確認して、俺のことを手招きしてきた。


 …ん?…


 手招きされるがまま、柊のほうへ近づいていくと…


「うぐっっ!!ぐるじぃ…」


 容赦なくネクタイ部分を締め上げてきた。


「あいさかく〜ん…あんなジャスティス女なんかより私のほうが上手いんだから、私がちゃんとしてあげるね〜」


「んーーーーー!!」

(ギブ、ギブ、ギブ、ギブ)


 …なんで俺がこんな目に…


 俺は高校2年にして、初めて生死の境をさまようことになった。



 

 

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